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全国1万人調査、従業員エンゲージメントは働き方改革やDXによる仕事の生産性に比例して上昇【アジャイルHR調べ】

マスメディアン編集部 2024.04.26

  • 人的資本
アジャイルHRなどは、日本の従業員エンゲージメントの低さと、コロナ後の変化を明らかにするため「A&Iエンゲージメント標準調査」を全国1万人を対象に実施した。全体的にエンゲージメントは若干上昇し、リモートワークの継続による生産性の向上などが要因だと分かった。
アジャイルHRは、インテージと共同開発し、東京大学医学系研究科の川上憲人特任教授と共同研究を行った「A&Iエンゲージメント標準調査」を、全国1万人を対象に実施した。

本調査は昨年に引き続き、2回目の実施となる。本調査では、コロナの制約が外れたこの1年間の従業員エンゲージメントの変化についてレポートする。

1.調査の目的

従業員エンゲージメントの国際調査において、日本は必ずと言ってよいほど最下位にランキングされる。国民性の違いによる影響もあるが、実際に個々の日本企業を調査すると、従業員エンゲージメントが高い企業もある一方で、低い企業も非常に多く、全体として日本の従業員エンゲージメントが低いことに疑いはない。

問題は「なぜ日本の従業員エンゲージメントが低いのか」という点にある。それを明らかにするには、国内における広範な調査データの分析が必要とされる。具体的には、以下の3つの仮説に基づく分析が有効である。
<仮説1:構成要素の視点>従業員エンゲージメントの構成要素の中に低いものがある。
<仮説2:影響要因の視点>従業員エンゲージメントにネガティブな影響を及ぼす何らかの要因がある。
<仮説3:セグメントの視点>従業員エンゲージメントの平均を下げる特定のセグメントが存在する。

前回の全国調査は2023年1月31日~2月6日にかけて実施され、その時期は、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行した2023年5月以前のコロナ禍終盤期であった。今回の調査は5類移行後10カ月目の2024年2月5日~9日に実施したため、前回と今回の違いを分析することによって、コロナ後の従業員エンゲージメントの変化が分かると考えられる。

本調査は、日本の従業員エンゲージメントが低い理由と、コロナ後の変化の2点を明らかにすることを目的としている。

2.日本の従業員エンゲージメントが低い理由

<仮説1:構成要素の視点>
■会社への帰属意識が低い
従業員エンゲージメントは、以下の2つの概念を含んだ個人の心理状態を指す。
・ワークエンゲージメント:仕事を通じて得られるポジティブな心理状態
・組織コミットメント:所属する会社や組織への帰属意識や愛着心

本調査では4件法を採用しているため(4:そうだ、3:ややそうだ、2:ややちがう、1:ちがう)、肯定的回答と否定的回答の中間のスコアは2.5となり、回答者全員の平均値は以下である。
従業員エンゲージメント:2.59
ワークエンゲージメント:2.68
組織コミットメント:2.49

従業員エンゲージメントは、ワークエンゲージメントと組織コミットメントの平均値となる。ワークエンゲージメントの値は中間スコア(2.5)を0.18上回っているが、組織コミットメントの値は中間スコアを下回っており、従業員エンゲージメントを引き下げる方向に作用していることが分かる。会社への帰属意識が高かった、かつての日本企業のイメージとは異なり、組織コミットメントがマイナス要因となっている。

<仮説2:影響要因の視点>
■フィードバックと学習機会が不足

従業員エンゲージメントに影響を及ぼす主な要因に、「仕事の資源」がある。資源とは燃料であり、エネルギー源であるため、資源のスコアは従業員エンゲージメントのスコアの高低に影響を及ぼす。

図1は本調査で測定している「仕事の資源」の全16項目の全国平均値を、スコアの高い順に並べたグラフである。
ワークエンゲージメントに影響を及ぼす要因を示すグラフ
スコアが最も高い上位2つの資源は以下の通りである。
・役割明確さ:自分の職務や責任が明確であること
・仕事の意義:自分の仕事に意味があると感じられること

日本企業はジョブ型ではなく職務や責任が明確ではないためにエンゲージメントが低いといった論調もあり、また仕事に意義を感じられないためエンゲージメントが高まらないといった論調を耳にすることもあるが、実際には多くの回答者が、「役割明確さ」と「仕事の意義」を肯定的に捉えているため、これらの説は裏付けられない。

スコアが最も低い下位2つの資源は以下の通りである。
・公正な人事評価:人事制度の結果に関して十分な説明がされていること
・キャリア形成:意欲向上やキャリア開発に役立つ教育機会が存在すること

これらは、職場におけるフィードバックと学習機会の不足を意味している。どちらも個人の動機付けと成長に不可欠な要素であり、その資源不足が従業員エンゲージメントを抑制していると考えられる。

<仮説3:セグメントの視点>
以下では、日本の従業員エンゲージメントを低下させているセグメントを探る。

■年代:組織コミットメントが希薄な40歳代と50歳代
40歳代と50歳代の組織コミットメントの低さが目立っている(図2)。20歳代から30歳代、40歳代と年を重ねるにつれて、会社への愛着は低下している。 一方で、60歳代以上の従業員エンゲージメントは全ての年代の中で最も高い。シニア層のモチベーションを懸念する声がしばしば聞かれるが、60歳代以上に関しては、元気に働くシニアの姿がイメージされる。
年代別従業員エンゲージメントを示すグラフ
■職種:上層部と現場の体感温度に大きな差、派遣社員の低い従業員エンゲージメント
会社員に関しては、役職が高まるにつれて従業員エンゲージメントが高まる傾向にあり、一般社員と役員との間には大きな差がある(図3)。上層部と現場の体感温度が異なっていることが推測される。

全ての職種のうち、派遣社員の従業員エンゲージメント低さが目立っている。派遣社員という特性により、特に組織コミットメントのスコアが低く現れている。
職種別従業員エンゲージメントを示すグラフ
■業種:業種によって差が大きい
業種によって従業員エンゲージメントに大きな差がある(図4)。従業員エンゲージメントが最も高い業種は、「医療、福祉」、次いで「教育、学習支援業」であり、最も低い業種は「製造業」、次いで「運輸業、郵便業」となっている。

業種の特性によって、仕事の資源の豊富さがそもそも異なることが要因と考えられる。例えば、「医療、福祉」や「教育、学習支援業」は、「仕事の意義」を実感する機会が多いなどと推測される。
業種別従業員エンゲージメントを示すグラフ
■従業員規模:50人の壁が存在?
50人未満の小規模会社の従業員エンゲージメントが最も高い値を示しているが、50~99人になると低下している(図5)。特に50~99人の組織コミットメントの低下幅が大きく、100人を超えて人数が増えるにつれ、緩やかに上昇していく傾向が見られる。

50人を超えた会社では、マネジャーの量的・質的不足が共通の課題となる(いわゆる「50人の壁」)と言われますが、その影響による可能性が推測される。
従業員規模別従業員エンゲージメント

3.コロナ後の従業員エンゲージメントの変化

(1)全体的傾向
昨年の調査結果と比較して、従業員エンゲージメントには若干の上昇が見られる(下記数値の増減には四捨五入の影響あり)。
従業員エンゲージメント:前回2.52→今回2.59(増減+0.07)
ワークエンゲージメント:前回2.64→今回2.68(増減+0.05)
組織コミットメント:前回2.41→今回2.49(増減+0.09)

本調査では、合計25の小分類項目を測定しているが、前回よりもスコアを下げている項目は見られなかった。以下ではスコアの上昇に対して、特に影響したと考えられる要因を記述する。

(2)セグメント別の要因
■年代:30歳代の改善の影響が大きい
50歳代のワークエンゲージメントと20歳代以下の組織コミットメントを除いて、全体的に従業員エンゲージメントが改善しているが、特に30歳代の上昇幅が突出している(図6)。

前回調査では、ワークエンゲージメントと組織コミットメントの双方ともに30歳代が最下位であったが、30歳代の「仕事の資源」の内訳を前回と今回で比較すると以下のとおりである(下記数値の増減には四捨五入の影響あり)。
仕事の資源:前回2.56→今回2.69(増減+0.13)
仕事レベル:前回2.76→今回2.93(増減+0.17)
職場レベル:前回2.61→今回2.66(増減+0.05)
会社レベル:前回2.31→今回2.47(増減+0.17)

コロナ禍が終息して、30歳代の中堅社員への仕事そのものからの動機付け(仕事レベル)と会社の施策などによる動機付け(会社レベル)が、よりポジティブに働くようになったと推測される。
年代別の前回調査との比較(ワークエンゲージメント・組織コミットメント)を示すグラフ
■年代:20歳代以下の継続勤務意欲は低下
年代別の変化で特に気になるのは、20歳代以下の継続勤務意欲の低下である(図7)。他の年代のスコアはすべて上昇しているが、20歳代以下のみ顕著な低下が見られる。コロナ禍を経て、今の会社で働き続けることに対する20歳代以下の意識が大きく変化していると考えられる。
年代別の前回調査との比較(継続勤務意欲)を示すグラフ
■業種:大半の業種で従業員エンゲージメントは上昇
ワークエンゲージメントに関しては16業種中11業種、組織コミットメントに関しては13業種でスコアの改善が見られる(図8)。従業員エンゲージメントの上昇幅が最も大きな業種は公務員であった。
業種別の前回調査との比較(従業員エンゲージメント)を示すグラフ
(3)リモートワークと仕事の生産性による影響
■リモートワークを減らし過ぎると従業員エンゲージメントは低下

コロナ後、リモートワーク中心から出社中心に切り替えた会社が少なくなかったため、その影響を分析した。

リモートワークの実施頻度が「コロナ禍と変わらない」と回答した人は69.9%であるが、その層のワークエンゲージメント(2.67)と組織コミットメント(2.49)は、今回調査の全体平均とほぼ同水準である(図9)。つまり、リモートワークの実施頻度がコロナ禍と同じでも、従業員エンゲージメントは上昇したことが分かる。

ただし、リモートワークの実施頻度が「コロナ禍よりも増えた」「コロナ禍よりもやや増えた」と回答した層の従業員エンゲージメントは全体平均よりも高くなっている。

「コロナ禍よりやや減った」と回答した層の従業員エンゲージメントは全体平均よりも若干高い一方で、「コロナ禍よりも減った」と回答した層は全体平均よりも低いという結果が見られる。オフィス出社を少し増やすことは従業員エンゲージメントにプラスに働くものの、大幅に増やすことはマイナスに作用していることが分かる。
コロナ後におけるリモートワーク実施頻度の変化と従業員エンゲージメントを示すグラフ
■仕事の生産性が向上した層の従業員エンゲージメントは高い
コロナ後における仕事の生産性の変化と従業員エンゲージメントの関係を分析した。

仕事の生産性が「コロナ禍と変わらない」と回答した人は72.5%だったが、その層のワークエンゲージメント(2.68)と組織コミットメント(2.49)は、今回調査の全体平均とほぼ同水準だった(図10)。つまり、仕事の生産性がコロナ禍と同じでも、従業員エンゲージメントは上昇したことが分かる。

ただし、仕事の生産性が「コロナ禍よりも上がった」「コロナ禍よりもやや上がった」と回答した層の従業員エンゲージメントは、全体平均よりも顕著に高くなっている。逆に、「コロナ禍よりもやや下がった」「コロナ禍よりも下がった」と回答した層は、全体平均よりも顕著に低くなっている。

働き方改革やDXなどによって仕事の生産性を高められる会社ほど、従業員エンゲージメントを向上できる可能性があると考えられる。
コロナ後における仕事の生産性の変化と従業員エンゲージメントを示すグラフ