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「ISO 30414:2025」における要求人的資本メトリック

岩本 隆 2025.12.01

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「ISO 30414:2025」における要求人的資本メトリック
2025年にアップデートされたISO 30414:2025では、企業規模を問わずすべての企業に開示が要求される、7つの人的資本領域における14のメトリックが示されました。この要求人的資本メトリック(Required Metrics)について、慶應義塾大学大学院 講師の岩本隆先生に解説いただきました。(マスメディアン編集部)
2025年8月に出版された人的資本報告・開示の国際規格である「ISO 30414:2025」(ISO 30414の第2版)では、合計11の人的資本領域で69の人的資本メトリック(Metric:測定基準)が示されており、その内、7の人的資本領域における14の人的資本メトリックは、中小企業から大企業まで全ての規模の企業に対して開示が要求される人的資本メトリックとなっている。

図表1に14の要求人的資本メトリックを示す。ROIはReturn On Investment(投資利益率)、TBDはTo Be Determined(未確定)の略である。それぞれの人的資本メトリックの計算式については一般財団法人日本規格協会が販売しているISO 30414:2025の規格文書に記されている。
 
図表1.ISO 30414:2025における要求人的資本メトリック (出所:ISO 30414:2025をもとに筆者翻訳)
No. 人的資本領域/人的資本メトリック 参照する国際規格
1 ワークフォースの組成
1 総従業員数 ISO/TS 30425
2 フルタイム換算した従業員数 ISO/TS 30425
2 ダイバーシティ
3 年齢 ISO 30415
4 性別 ISO 30415
3 コスト
5 総学習・開発コスト ISO/TS 30428
6 総ワークフォースコスト ISO/TS 30427
4 生産性
7 フルタイム換算従業員数当たり売上高 ISO/TS 30432
8 フルタイム換算従業員数当たり利益 ISO/TS 30432
9 人的資本ROI ISO/TS 30432
5 健康、安全、ウェルビーイング
10 労働事故の数、割合 ISO/TS 24179
11 業務上の死亡の数、割合 ISO/TS 24179
6 コンプライアンス、倫理、ワークフォースとの関係
12 提起された人権問題の数、タイプ、アウトカム  TBD
13 団体交渉協定でカバーされている総従業員の割合 TBD
7 ワークフォースの離職
14 ワークフォースの離職率 TBD
ISO (International Organization for Standardization:国際標準化機構)の人材マネジメントのTC(Technical Committee:テクニカルコミッティ)であるISO/TC 260では、2025年11月末時点で32の国際規格文書が出版されており、ISO 30414:2025のそれぞれの人的資本メトリックには参照元となる国際規格がある。要求人的資本メトリックの参照元となる国際規格のタイトルを以下に記す。規格番号のTSはTechnical Specifications(技術仕様書)の略である。
  
1. ISO/TS 24179:2020-Occupational health and safety metrics(労働安全衛生のメトリクス)
2. ISO 30415:2021-Diversity and inclusion(ダイバーシティ&インクルージョン)
3. ISO/TS 30425:2021-Workforce availability metrics cluster(ワークフォース可用性のメトリクスクラスター)
4. ISO/TC 30427:2021-Costs metrics cluster(コストのメトリクスクラスター)
5. ISO/TS 30428:2021-Skills and capabilities metrics cluster(スキル、ケイパビリティのメトリクスクラスター)
6. ISO/TS 30432:2021-Workforce productivity metrics cluster(ワークフォース生産性のメトリクスクラスター)

14の要求人的資本メトリックにおけるISO 30414の第1版である「ISO 30414:2018」からの主な変更点は以下である。
 
●「総学習・開発コスト」は、「ISO 30414:2018」では、「スキル・ケイパビリティ」の人的資本領域に分類されていたが、「ISO 30414:2025」では、「コスト」の人的資本領域に分類された。
●「生産性」の人的資本領域の一人当たり業績の人的資本メトリックについて、分母は「フルタイム換算従業員」に統一され、分子については、売上高を示すものと利益を示すものに分けられた。
●「コンプライアンス、倫理、ワークフォースとの関係」の人的資本領域には、「団体交渉協定でカバーされている総従業員の割合」の人的資本メトリックが追加された。

要求人的資本メトリックは、どの企業にとっても重要で、かつ、データ化しやすい人的資本メトリックに絞られており、全ての企業に、まずはこれら14の要求人的資本メトリックでデータを示すことをお勧めする。

執筆・編集

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授|東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、デジタル田園都市国家構想応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。