マーケティング・営業戦略・広報・宣伝・クリエイティブ職専門の採用支援はマスメディアン【宣伝会議グループ】

  • HOME
  • ナレッジ
  • EOR(Employer of Record:エンプロイヤー・オブ・レコード)

EOR(Employer of Record:エンプロイヤー・オブ・レコード)

岩本 隆 2025.06.04

  • 人事
  • 採用
  • HRテクノロジー
EOR(Employer of Record:エンプロイヤー・オブ・レコード)
現在、人事領域で世界的な注目を集める「EOR(エンプロイヤー・オブ・レコード)」は、「雇用代行」とも言われ、現地法人を持たずに海外人材を活用できる仕組みです。雇用手続きや給与支払いなどを代行するこのサービスは、労働人口減少に直面する日本企業でも活用が始まっています。急成長するEOR市場の動向と日本での広がりを、慶應義塾大学大学院 講師の岩本隆先生に解説いただきました。(マスメディアン編集部)
人事業務や人材マネジメントで活用するテクノロジーは「HR(Human Resources)テクノロジー」と呼ばれ、HRテクノロジーのツールは「HCM(Human Capital Management)アプリケーション」と呼ばれており、HCMアプリケーション市場は2010年代に入ってから急成長し始め、依然として、世界でも日本でも成長が続いている。世界のHCMアプリケーション市場の3大市場セグメントは「採用」、「タレントマネジメント」、「ペイロール(給与計算)」であるが、これら以外でも急成長している市場セグメントがあり、ユニコーン企業(企業価値10億米ドル以上のスタートアップ企業)も多く出現している。

昨今、急成長しているHCMアプリケーションの市場セグメントのひとつにEOR(Employer of Record:エンプロイヤー・オブ・レコード)がある。EORは文字通り訳すと「記録上の雇用主」ということであり、「雇用代行」とも言われている。具体的には企業が現地法人を設立せずに外国在住の人材を活用できるサービスである。EOR事業者の現地法人が、企業が採用を決定した人材を企業に代わって雇用し、各国の法制度に基づいて入社手続き、ビザのサポート、給与計算、現地通貨での給与や税金の支払い、福利厚生の管理、備品の支給、退職・解雇手続きなどの業務を代行する。

The IEC Groupによると、EORの2024年の世界市場規模は58.33億米ドルであり、2030年には120.07億米ドルまで成長すると予測されている。図表にEOR世界ベスト25社のマップを示す(※1)。

EORのトップ企業にはユニコーン企業も多く、中にはデカコーン企業になったスタートアップ企業もある。デカコーン企業はユニコーン企業の10倍(100億米ドル)以上の企業価値が付けられているスタートアップ企業であり、2019年に設立された米国のDeel社は、わずか4年弱の2023年1月には企業価値が120億米ドルとなりデカコーン企業になっている。ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)が100万米ドルから1億米ドルまで成長するスピードがスタートアップ企業の成功を測定する基準としてよく使われるが、Deel社はこの期間がわずか20カ月であり、このスピードは、2025年5月末時点で、米国のAnysphere社の12カ月、イスラエルのWiz社の18カ月に次いで世界で3番目となっている。
EOR世界ベスト25社を示す図表
図表.EOR世界ベスト25社(出所:The IEC Group)
日本市場に進出する外国のEORベンダーも増えてきており、筆者のところにも日本市場でのビジネス展開について相談が来始めている。EORのサービスを利用すると、外国に拠点を持っていなくても外国在住の人材を活用することができるため、労働人口問題に悩む日本企業にとってはニーズの高いサービスである。一方で、外国に拠点を持っていない日本企業は外国人の活用に慣れていない場合も多く、そういった企業には、ダイバーシティマネジメント力を高めることがEORのサービスを活用する上で大きな課題となる。日本企業のEORのサービスの活用が増え始めており、今後の日本市場での展開を注視していきたい。

※1:Luis Praxmarer「Global EOR Study 2025」The IEC Group(2025年)
【執筆者プロフィール】
岩本 隆先生お顔写真

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師
山形大学 客員教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より2025年3月まで慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。2023年4月より慶應義塾大学大学院経営管理研究科講師、山形大学客員教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、日本DX地域創生応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。