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中堅企業の人材確保・育成政策

岩本 隆 2025.05.21

  • 人的資本経営
  • 採用
中堅企業の人材確保・育成政策
2024年に制度上「中堅企業」が定義され、成長支援に向けた政策が本格的に始まりました。経営人材や専門人材の確保、省力化投資や人的資本経営の地域展開など、幅広い施策が動き出しています。中堅企業の成長に向けた政策の全体像とポイントを、慶應義塾大学大学院 講師の岩本隆先生に解説いただきました。(マスメディアン編集部)
2024年9月2日に産業競争力強化法の改正法の一部が施行され、従業員2000人以下で中小企業・小規模企業者の定義に当てはまらない企業が「中堅企業」と定義された。そして、「中堅企業成長ビジョン策定に向けた作業部会」の会合が2024年10月24日から2025年1月22日までの間に計4回開催され、2025年2月に「中堅企業等の成長促進に関するワーキンググループ」によって「中堅企業成長ビジョン」と「中堅企業成長促進パッケージ2025」が策定された(※1)。

本ビジョンは中堅企業に着目した日本初の国家戦略であり、中堅企業成長促進パッケージは総額1兆円を超える。施策の具体化を図るため、中堅企業成長促進パッケージに紐づく主要な施策の効果を不断に検証し、2030年を一つの節目として、KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)の達成状況を定期的にモニタリングしていく。その上で、政策目標の達成に新たな施策が必要な場合は、躊躇なく打ち手を講じていく。

日本に中堅企業は約9000社存在し、雇用者数では日本全体の約11%、売上高では日本全体の約20%と、日本経済全体において一定の割合を占めている。約9000社のうち約半数弱の独立型中堅企業(親会社を有しない中堅企業)は、労働生産性、1人当たり自社開発特許数、平均賃金は増加しており、大企業を上回る水準に至っている。さらに、中堅企業には「成長余力」、「変化余力」、「社会貢献余力」の3つのポテンシャルがある。

中堅企業成長ビジョンにおいては以下のKGI、KPIが設定された。
●KGI:中堅企業が、日本全体の2030年以降の経済成長の目標の4倍(実質4倍/年)以上の成長(付加価値の増加)を実現する
(現状:中堅企業の実質成長率は▲0.7%/年)
●KPI(1):中堅企業の1000社(約1割)以上が時間当たり労働生産性を平均10%/年以上向上
(現状:過去5年の時間当たり労働生産性の伸び率が10%/年以上の中堅企業数は471社)
●KPI(2):中堅企業による毎年のM&A数を1000件/年以上
(現状:中堅企業の過去5年の平均M&A数は502件/年)
●KPI(3):中堅企業数をのべ2000社以上(約2割)増加
(現状:中堅企業の直近年の純増数は88社/年)

KGI、KPIの目標達成のためには人材確保・育成が重要であり、人材確保・育成政策も策定された。中堅企業が成長するためには、コーポレート機能を備えるための経営人材(後継者候補、番頭人材など)及び専門人材(ファイナンス、マーケティング、人事、DX、海外事業関連など)の確保・育成が必要になる。

人材確保に対しては、政府は、金融機関や地域の人材仲介会社などが伴走支援者となり、転職のみならず、兼業・副業の形態も含めて、中堅企業などの経営人材及び専門人材の獲得を後押しする事業を推進する。また、現場人材も含めた足元の人手不足の課題に対応しながら成長していくために、中堅・中小企業成長投資補助金などを通じて賃上げを伴う省力化投資のモデルケースを創出し、幅広い企業への普遍化を図る。

人材育成に対しては、より多くの企業が、人的資本経営の実践を通じて、魅力的な給与水準の設定や人材育成を含めた人材投資などを積極的に行い、労働市場などに情報発信することを後押しする。具体的には、賃上げ促進税制などによる賃上げや教育訓練費の増加に取り組む企業へのインセンティブに加えて、ジョブ型人材の普及や、企業同士で議論や事例共有を行う人的資本経営コンソーシアムの活動を地域に拡大(「地域版人的資本経営コンソーシアム」)していく。また、地方拠点強化税制などを通じて、企業の本社機能の地方移転や地方での拡充を促進し、地方における雇用の創出を後押しする。

「地域版人的資本コンソーシアム」は、2025年度は図表に示すように全国4地域で開催が予定されている(※2)。
地域版人的資本経営コンソーシアムの2025年度の予定を示す図表
図表.地域版人的資本経営コンソーシアムの2025年度の予定(出所:経済産業省)
※1:経済産業省経済産業政策局産業創造課「中堅企業政策」経済産業省Webサイト(2025年/https://www.meti.go.jp/policy/economy/chuuken)
※2:経済産業省経済産業政策局産業人材課「地域版人的資本経営コンソーシアムについて」経済産業省Webサイト(2025年/https://hcm-consortium.go.jp/topic)
【執筆者プロフィール】
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岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師
山形大学 客員教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より2025年3月まで慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。2023年4月より慶應義塾大学大学院経営管理研究科講師、山形大学客員教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、日本DX地域創生応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。