マーケティング・営業戦略・広報・宣伝・クリエイティブ職専門の採用支援はマスメディアン【宣伝会議グループ】

  • HOME
  • ナレッジ
  • ISO30414取得企業の人的資本レポート─人的資本ROI向上を目指す

ISO30414取得企業の人的資本レポート─人的資本ROI向上を目指す

マスメディアン編集部 2023.08.02

  • 人事
  • 人的資本
ISO30414取得企業の人的資本レポート─人的資本ROI向上を目指す
ますます注目を集める人的資本経営。その第一歩は、自社の人的資本に関するデータを計測し数値化して、改善すべきポイントを把握することです。そこで今回は、人的資本経営を実現しようとしている企業の中から、人的資本開示の国際規格「ISO30414」の認証を受けている企業の人的資本レポートから、生産性の指標となる「人的資本ROI」を抜粋して紹介します。

人的資本経営とは

■人材を資源ではなく資本=投資の対象と見る考え方
・背景1:企業競争力の源泉が有形資産から無形資産(特に人材)に移行
・背景2:ESG投資の隆盛

■日本では、経済産業省主導で議論が進む
・2020年、「人材版伊藤レポート」で経営戦略と人材戦略の連動、実践についての検討結果が公表された(※1)
・2022年、「人材版伊藤レポート2.0」内の「実践事例集」として、すでに人的資本経営に取り組む企業の事例も公開されている(※2)

■人的資本の開示も推進されている
・内閣官房の非財務情報可視化研究会から、「人的資本可視化指針」として、統合レポート等での人的資本の開示のガイドラインが示されている(※3)
・2023年3月期決算以降、大手企業4000社を対象に、有価証券報告書に、(1) 女性管理職比率、(2) 男女間賃金格差、(3)男性育児休業取得率―の記載が義務付けられた
 

ISO30414とは

・「人的資本」の考え方に基づき、人材への適正な投資、適正な配置を実現するため、事業への人的資本の貢献を数値的に可視化するための国際規格(※4)
・企業規模や業種、また営利企業か非営利企業かに関わらず適用しうる
・認証取得企業はもちろん、それ以外の企業も人的資本の開示のガイドラインとして活用している
 

ISO30414 海外の認証取得企業(一部)

・ドイツ銀行(ドイツ、銀行)
・DWS(ドイツ、投資運用業)
・Digital Future Group(アメリカ、IT企業)
・Allianz(ドイツ、保険)
・Infineon Technologies(ドイツ、半導体メーカー)
・Union Bank of India(インド、銀行)
 

ISO30414 国内の認証取得企業

・リンクアンドモチベーション(2022年3月)
・豊田通商(2022年10月)
・AKKODiSコンサルティング株式会社(2022年11月)
・レクストホールディングス株式会社(2023年3月)
・日本情報通信株式会社(2023年5月)
 

ISO30414 国内の取得企業の人的資本レポートを見る

■共通すること
・前半で企業の方針や目指す姿を、後半で人的資本に関する指標・データを示す
・これは、「人的資本可視化指針」で推奨されている書き方
■経年での変化を見せることで、変化・成長、もしくは変わらない強みを示している
■ここから、方針(企業理念またはミッション・経営理念と、それをどう実現しようとしているか)と、指標の一部(人的資本ROI)を見ていく
・人的資本ROIは、人的資本投資に対する利益を示す
・生産性の指標となるため、KGIにする企業もある

事例1:リンクアンドモチベーション

会社概要:2000年4月創業/経営コンサルティング業/社員数1505名(連結)(2022年12月時点)

ミッション:私たちはモチベーションエンジニアリングによって組織と個人に変革の機会を提供し意味のあふれる社会を実現する
・事業戦略と組織戦略が等価であるという考えのもと、この2つの戦略を相互にリンクさせてミッション実現を目指す。リンク度合いのモニタリング指標として、生産性=人的資本ROIを経営の重点指標に置く
・生産性を向上させるために、「採用、育成、制度、風土」の4つの領域で施策を展開。人的資本に関する指標も、「戦略、採用、育成、制度、風土」の5つに独自に分類し直して公表
 

人的資本ROI

リンクアンドモチベーション「HUMAN CAPITAL REPORT 2022」p.27より
(https://www.lmi.ne.jp/ir/library/h_c_report/pdf/h_c_report_2022.pdf)
人的資本ROI = 調整後営業利益 ÷ 人的資本コスト
人的資本コストは、従業員の給与や賞与、法定内外福利費、通勤交通費、その他役員報酬等を含んだ費用の合計で算出。

事例2:豊田通商

会社概要:1948年7月創業/各種物品の国内取引、輸出入取引業/社員数3648名(2021年時点)

Global Vision:Be the Right ONE(“代替不可能・唯一無二”の存在)
・Global Vision実現のため、経営戦略として「人材開発、健康経営、Diversity, Equity & Inclusion、適材適所、人権尊重」という6つのサステナビリティ重要課題を設定
・重要課題の解決のため、変化に対応できる 「強い個」 が集結する 「強い組織」 をつくる。そこで、人事戦略として 「人財開発」 「健康経営」 を通じて 「強い個」 を育み、「 DE&I 」 「適所適材・適材適所」 「人権尊重」 を通じて 「強い組織」 を構築し、社員のエンゲージメント向上を通じ、「Be the Right ONE」 を実現する。
 

人的資本ROI

豊田通商「Human Capital Report 2022」p.33より
(https://www.toyota-tsusho.com/sustainability/pdf/human_capital_report.pdf)
人的資本ROI = 経常利益 ÷ 人的資本コスト

事例3:AKKODiSコンサルティング

会社概要:2004年2月設立/コンサルティング業/社員数5093名(2021年度末時点)

企業理念:人財の創造と輩出を通じて、人と社会の幸せと可能性の最大化を追求する
・ライフビジョンとキャリアビジョンが高いレベルで共感しあえることが、働く個人のエンゲージメントや組織パフォーマンスを高め、個人と組織の双方の幸せを最大化させ、いきいきと働ける社会を実現することにつながると考える
・管理指標は3分類(ビジョン実現、チーム協業、チャレンジ文化)・9項目(ダイバーシティ、生産性、後継者育成、リーダーシップ、スキル・能力、採用・異動・退職、組織風土、健康・安全・幸福、倫理とコンプライアンス)に分けて、各分野での活動を推進する
 

人的資本ROI

AKKODiSコンサルティング「Human Capital Report 2022」p.8より
※旧社名(Modis株式会社)にて発行
(https://www.akkodis.co.jp/-/media/Files/Akkodis/www/company/human_capital/japanese.pdf)
人的資本ROI = 営業利益 ÷ (給与+諸手当)

事例4:レクストホールディングス

会社概要:2016年4月設立/リユース業・不動産業/社員数343名(2021年度時点)

企業理念:ZERO to 浪漫
・「社員の夢は、会社の夢」であるとして、社員一人ひとりが自分の夢を実現し、仲間の夢を応援することを経営理念とする
・その実現のために必要な「新しい力」を生み出すため、ダイバーシティ宣言、女性活躍推進宣言、ウェルネス経営(健康経営)基本方針、SDGs/ESG 基本方針という4つの施策によりチャレンジし続ける企業風土をつくる
 

人的資本ROI

レクストホールディングス「Human Capital Report 2022」p.33より
(https://rext.co.jp/img/human_capital_report_2022.pdf)
計算式は具体的な記載なし

事例5:日本情報通信

会社概要:1985年12月設立/情報通信業/社員数1234名(グループ全体)(2022年4月時点)

企業理念:NI+Cはネットワーク・システム・インテグレータとして情報と通信の先進技術により社会の発展に貢献します
・「ハピネス経営」を掲げ、「社員の幸せ、お客様の幸せ、社会の幸せ」を目標に事業展開。企業の付加価値の源泉は人的資本であるという考えのもと、「働きやすい環境」と、「働き甲斐」の両方を実現する
・「新しい働き方の推進」、「健康経営の推進」、「人材の育成」、「Diversity&Inclusionの推進」を4つの重点テーマとする。経営資源を従業員に投資することで、従業員エンゲージメントが向上し、顧客へのサービスレベル向上につながる。それが顧客ロイヤリティの向上につながり、企業成長・利益の拡大と、従業員の働きがいの向上につながる。企業成長、利益を社会貢献に向けることで、顧客や従業員の会社に対する信頼、評価につながる。それが従業員の会社に対する安心・信頼を高め、また従業員の報酬や人事制度や施策の充足に再投資される、という好循環をつくることを目指す
 

人的資本ROI

日本情報通信「The Human Capital Report 2022」p.70より
(https://storage.googleapis.com/website1-prd-wordpress-bkt/1/2023/05/The-Human-Capital-Report2022-1.pdf)
人的資本ROI= { 収益 - コスト - (給与 + 福利厚生)} ÷ (給与 + 福利厚生)} - 1 
コスト:売上原価、販売費および一般管理費

おわりに

・今回、取り上げたレポートは、ISO30414認証を取得したレポートなので、細かく網羅的に指標を開示している
・しかし「人的資本可視化指針」では、「できるところから開示」すること、自社の経営戦略と人的資本への投資・人材戦略の関係性をストーリーとして描き、それに沿って具体的な事項(定性的事項、目標、指標)を開示することを勧めている
・まずは自社の状況を数値化することで課題が見える
・広告・マーケティング・クリエイティブは、人の能力が価値になる仕事・産業。能力開発への投資は、事業の競争力や、採用における競争力に直結する
・次回は広告業界の大手企業の人的資本関連の開示情報について見ていく

※1:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」(2020年9月30日)https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/20200930_report.html
※2:経済産業省「『人材版伊藤レポート2.0』を取りまとめました」(2022年5月13日)https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html
※3:非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」(2022年8月30日)https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf
※4:ISO「ISO 30414:2018 Human resource management — Guidelines for internal and external human capital reporting」(2018年12月)https://www.iso.org/standard/69338.html