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【第1回】人的資本とはなにか? 注目される理由と実践のためのポイント─「人材版伊藤レポート」

マスメディアン編集部 2022.03.16

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【第1回】人的資本とはなにか? 注目される理由と実践のためのポイント─「人材版伊藤レポート」
企業価値の指標として「人材」の重要性が増し、欧米を中心に投資家からの「人的資本(ヒューマン・キャピタル)」を開示要求が高まっています。アメリカでは、2020年に米国証券取引委員会が人的資本関係の情報開示を義務化し、それに呼応するように日本でも人的資本開示のガイドラインやルール策定が進んでいます。

2021年に東京証券取引所が人的資本への投資について情報開示が言及されたコーポレートガバナンス・コードを改訂しました。日本政府は2022年夏にも人的資本に関する情報開示の指針をつくる予定もあり、2022年は日本における人的資本経営元年と言われています。

そこで、経営における人材の重要性を提言している「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」について、今回から3回にわたりダイジェスト版をお届けします。第1回は、人的資本と人材版伊藤レポートの概略について。

人材版伊藤レポートとは

・経済産業省が2020年1月から7月にかけて「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」を6回開催し、その内容をまとめた「人材版伊藤レポート」を同年9月に発表
・一橋大学の伊藤邦雄教授が座長を務め、CHRO、機関投資家、人材コンサルタント、アカデミア、政府関係者などさまざまな立場の参加者により取りまとめられた
・本レポートは、企業の競争力の源泉が人材となっている中、人材の「材」は「財」であるという認識のもと、持続的な企業価値の向上と「人的資本」について議論したもの
・本レポートの主な対象は、上場企業、特に、グローバルマーケットで戦う企業を想定しているが、非上場企業においても、基本的な考え方は参考になる

持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会
持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~
 

いま、なぜ人的資本なのか

■無形資産の重要性が増大
・企業価値の主要な決定因子が、有形資産から無形資産に移行している
・テクノロジーの急速な進歩、多様化する顧客ニーズ、従業員の安全を確保した上での事業継続といった経営上の課題は、事業を担う人材面での課題と表裏一体
・無形資産の中でも、人的資本は企業価値創造の中核に位置する
・人材の重要性を認識している企業は多い今後はもう一歩踏み込んで、人材戦略を経営の根幹に位置づけるべき

■ESG投資の隆盛
・ESG(環境・社会・企業統治)投資がますます隆盛に
・なかでもSの要因、つまり労働者を含むすべての人々の生活の向上に貢献することが、企業価値向上には不可欠と認識されている
・その第一歩が、従業員の人権、働きやすさへの配慮

■日本の雇用(メンバーシップ型雇用)の現状と課題
・安定性・均質性のある組織は、高品質・高効率・大量生産の時代には適合していた
・その一方で、変化への適応や、イノベーション・新たな価値創造につながりづらい
・また、多様な個人が意欲をもって活躍できる環境の実現への障壁となっている

■企業価値の持続的成長のために、いま実現すべきこと
・VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代、予測不可能な変化・ショックにも柔軟かつ素早く対応し、事業継続を可能にする強靭性(レジリエンス)を高める必要がある
・そのような生産性や競争力に直結する変革=非連続的なイノベーション
・それを可能にする人材を確保しなければならない
・コロナ禍でこれらを実感している企業は多いが、変化の加速はコロナ以前からのものであり、「コロナ対応」ではなく、時代の変化への対応としてとらえるべき
 

人的資源/人的資本の違い

■人的資源から人的資本へ
・人材は、教育や研修、業務などを通じて成長し、より大きな価値創造をするようになる
・その意味で、価値が変動するもの=「資本」としてみるべき
■人的資本への投資の目的
・投資の目的は、「持続的な企業価値の向上」
・つまり、「ビジネスモデル・経営戦略」と「人事戦略」が連動していることが不可欠
・目指すべきビジネスモデルと経営戦略の方向に応じて、必要な人材を確保するために投資する
・人材の確保の手段は、採用または育成事業戦略に応じて、取るべき手段は異なる
 

持続的な企業価値の向上のために、人材戦略における目指すべき「6つの変革」

経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」より抜粋
■この変革の実現に向けて、経営層・投資家・取締役会がそれぞれの役割を果たす必要がある
経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」より抜粋
 

経営陣の役割:人材戦略の策定・実行

・以下では、「6つの変革」に向けて、経営陣が果たすべき役割を見ていく

■「人的資本が競争力の源泉」という認識に立ち、経営戦略をつくる
・人的資本の観点から、ビジネスモデル・経営戦略の現状と理想のギャップを見える化し、そのギャップを埋めるための策を検討・実行する

■その手順
(1) 企業理念や企業の存在意義を明確にし、共有する
・企業理念・存在意義(パーパス)の共有は、時間・空間を共有できないリモートワーク状況では特に重要
・自社の競争優位性を明確化し、「何のために働くのか」を重視する個人への魅力づけをする

(2) 企業理念に基づき、経営戦略における達成目標やゴールを明確にする

(3) 経営戦略を実現するための人材アジェンダを特定する
・現在、保有する経営資源・人材を可視化する
・現状と、必要とされる経営資源・人材との差異を見える化する
・その差異を埋めるために取る具体的な手段(採用、育成の方針や方法)を決定する
 

CHROの役割:どんな人が経営層において人材分野をリードすべきか

■CHRO(最高人事責任者)=CEOの人材分野における戦略パートナー
・「経営戦略と人材戦略を結びつける専門性」が求められる
・人事部門出身者である必要はない

■CHROの役割
・社内外に、経営戦略を実現するための人材戦略について説明・発信し、対話する
・そこから得たフィードバックを戦略・施策に反映する
・多様なステークホルダーとの調整の中で人材戦略が現状を追認する内容となりかねないとき、議論をあるべき方向へ導く
・例えば、世の中の水準やグローバルの視点から制度の持続性や事業戦略上、適切であるかを評価する
・議論の幅を広げ、経営戦略の実現に向けた多様な視点を提供する