【第2回】人的資本経営に向けて 経営戦略と連動した人材戦略とは?─「人材版伊藤レポート」
マスメディアン編集部 2022.04.06
- 人事
第1回より:経営戦略と連動した人材戦略とは?
・人的資本とは、人材を投資により価値が増大する、価値創造の源泉とみなす考え方・人的資本は、経営の根幹に位置づけられるべき
・企業(経営陣)に必要な認識は、「人的資本が競争力の源泉」であるということ
企業理念、目標を明確化する
■企業理念=社会における存在意義の明確化・競争優位性の明確化
・経営戦略のコアの特定
・従業員が価値観を共有するための軸
・仕事を通じた社会貢献を志向する社員/社外の個人への魅力づけになる
■経営戦略における目標・ゴールの明確化
・経営戦略のゴールが明確でないと、それに連動して策定される人材戦略の目標も明確にできない
■企業理念の設定の事例
ソニー
・約11万人の全グループ社員が一眼となり、長期視点で新たな価値を生み出していくため、「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテイメントカンパニー」というパーパスを策定。これをベースに経営の方向性や事業モデルを整理した。
経営戦略と連動した人材戦略を策定・実行する
■経営戦略上、重要な人材アジェンダを特定する・経営戦略の目標を達成する上で必要な人材アジェンダを特定しなければならない
・重要な人材アジェンダは、各社の経営戦略や価値創造に向き合って設定する
■人材アジェンダごとに、目指すべき将来の姿を定量的なKPIを用いて設定する
・人材アジェンダは、経営戦略と人材戦略の連動を支える要。その進捗がモニタリングできるよう、定量的なKPIを設定するべき
■“As is - To beギャップ”を定量化し、それを埋める戦略を立てる
・人材アジェンダごとのKPIについて、現在の姿(As is)を目指すべき将来の姿(To be)を定量的・正確に把握する
・このギャップが経営戦略と人材戦略の連動の程度を示す指標になる
・ギャップをどのような時間軸で、どのように埋めるかの戦略は、経営戦略のゴールからバックキャストして立てる
・現在の人事施策の積み上げにならないよう、CEO・CHROが戦略策定・実行を先導する
・人材戦略の実行プロセスを通じて企業文化が醸成されることを踏まえ、企業文化への定着を見据えた人材戦略を策定、実行するべき
■経営戦略の事例
日立製作所
・グローバル化、デジタル化の中で新たな価値を創出するため、CHROが主導しながら、グループ・グローバル共通の人財マネジメント基盤の整備などの重要な人材アジェンダを特定し、KPIを用いて変革を推進
ソニー
・各事業会社共通の人材戦略のフレームワークとして、Attract(人材獲得)、Develop(人材育成)、Engage(社員エンゲージメント)を設定
・価値創出に向けて必要となる人材・専門性・マネジメント方法は、事業ごとに異なる。各事業の競争優位を高めるためには、事業単位で人事戦略を設計すべきと考え、詳細な戦略の立案と遂行は各事業の自律性に委ねている
Siemens
・経営リーダーの育成に関する指標の1つとして、将来の幹部候補となる人材の部門間の流動性についてKPIを設定し、経営陣で議論
CHROの設置・専任と、経営トップの密接な連携
■CHROの設置・専任・CHROの役割は、CEOとともに人材戦略の策定・実行を主導すること
・CHROには、事業部門などでの幅広い経験や、経営戦略と人材戦略を結びつける専門性を持った人材を専任する必要がある。必ずしも人事部門出身者でなくともよい
・人材戦略は、事業・技術・情報戦略とも密接に関係する。そのためCHROは人材以外のアジェンダにも関与し、また投資家に対して経営戦略を実現するための人材戦略について、積極的に発信・対話し、得られた改善点を戦略・施策に主導的に反映するべき
■経営トップ5Cの密接な連携
・経営にあたっては、人材・資金・技術・情報に関する戦略を密接に連携させながら実行していく。そのため、主要な経営陣5C(※)は、日頃から密にコミュニケーションをとり、連携を図るべき
※CEO(最高経営責任者)、CSO(最高経営戦略責任者)、CHRO(最高人事責任者)、CFO(最高財務責任者)、CDO(最高デジタル責任者)
従業員・投資家への積極的な発信・対話
■従業員の仕事への納得感の醸成・企業理念、存在意義、働き方を含めた経営戦略・人材戦略を説明することで、自分の仕事がどのように社会問題・顧客の課題解決や、企業の利益・価値向上という経営戦略の実現につながっているのかを理解させる
・リモートワーク状況では、更に積極的な発信・対話が必要
■投資家への積極的な発信・対話
・経営陣は、自社の人材戦略とビジネスモデル・経営戦略との連動や、進捗について、成果・価値創造との結びつきという観点から積極的に発信・対話すべき
・発信するのみならず、フラットな視点で評価してくれる投資家と積極的に対話することも重要
・定量的な進捗に加え、議論の観点や課題についての発信も重要
■投資家への説明の事例
日立製作所
・ESGのS(Social)を人材戦略と捉え、ESG説明会の中でも人材戦略に特化した内容を発信
・また、統合報告書の中で、人材戦略について、変革の背景や施策内容を発信
カプコン
・「世界一面白いゲームをつくる」という理念のもと、優秀な開発者の確保・育成を重要課題と位置づけ、コンテンツ開発者数をKPIとして設定して発信
中外製薬
・人材への考え方を含めた新たな中期経営計画について、役員が事業所を訪問して対話
・対話の際に出てきた従業員からの意見について、統合報告書の中で発信