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【中編】クリエイターの人事評価制度のつくり方─アートアンドサイエンス株式会社【全3回】

マスメディアン編集部 2021.04.20

  • 採用ノウハウ
  • 働き方改革
【中編】クリエイターの人事評価制度のつくり方─アートアンドサイエンス株式会社【全3回】
ジョブ型雇用が注目を集める昨今、「ジョブディスクリプションを定めてしまったらそれ以外の仕事を頼めないのではないか」「クリエイターの業務範囲を定義するのは難しい」というお悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。ブランディングソリューションを提供するアートアンドサイエンスでは、「人起点のジョブディスクリプション」を採用・評価・育成に活用しています。同社では、透明性の高い人事評価制度を実現するため、まず、ソフト面である社員としての考え方「Way・Promise・行動指針」、ハード面である評価の枠組み「キャリアシート・コミットメントシート」を整備したといいます。「社員が仕事に集中できる環境をつくり、売り上げへの責任を負うのは、経営層の役割」とアートアンドサイエンス 代表取締役社長 岡村忠征さんは語ります。同社での人事評価制度のつくり方について、具体的にお話を伺いました。(マスメディアン編集部)

企業データ

【企業名】アートアンドサイエンス株式会社
【代表者】代表取締役 岡村忠征
【設立日】2011年1月
【社員数】12名(2020年12月末時点)
【事業内容】
ブランディングデザイン会社
企業・地域・教育機関へのブランディングソリューションを提供
 

クリエイターの評価基準のつくりかた

──評価面での課題と解決方法(前回の振り返り):クリエイティブ職種は定量評価ができないため、人起点のジョブディスクリプションを作成し透明化する
クリエイティブ職種の人事評価の課題は、定量評価ができないことです。社員が納得できる評価をするには、各社員の責任領域を明確化し、人事制度や人事評価を透明化する必要があります。そのために、人起点のジョブディスクリプションを利用することにしました。そして人起点のジョブディスクリプションは、「Can(今できること)」「Must(会社が任せたいこと)」「Will(やりたいこと)」の3つの要素で考えます。目指すべきは、Can・Must・Willの好循環です。このスパイラルが実現できるのは、会社と社員がWin-Winの関係を築けているときです。
※前編:デザイン会社が抱える人事課題~評価制度と採用基準について~

──Can・Must・Willを土台に評価制度のソフト(社員としての考え方)とハード(評価の枠組み)を整える
Can・Must・Willは、社員一人ひとりと経営層とで話し合いながら、それを実現するために任せる業務内容や受けてもらう研修まで練っていきます。しかし、一人ひとりのスキルや希望に対応するためには、会社全体のバランスも取らなければなりません。私たちは、その土台として、ソフトとハードの整備をしました。ソフトとは社員としての考え方、ハードとは評価の枠組みのことです。それぞれ具体的に説明します。

ソフト(社員としての考え方):「Way」「Promise」「行動指針」の3つがキーワードに

まずはソフト面です。社員としての基本的な考え方で、社内向けのビジョン・ミッション・バリューと言えばわかりやすいでしょうか。私たちは、それをWay・Promise・行動指針と呼んでいます。人事評価においては、Way・Promise・行動指針に常に立ち返ります。「どのような会社にしたいのか」「どのような姿勢で日々の業務に取り組むのか」という原則ですので、これをしっかりとつくり込むことはとても重要です。

■Way
Wayとは、立ち居振る舞いのこと。アートアンドサイエンスでは、Wayを以下に設定しています。
・Be Nice.:気持ちのいい仲間であれ
・Stay Inspirational.:新しい力を与える存在であれ
・Know Where the Heart is.:核心を突き、心を掴め

■Promise
Promiseとは、お客さまへ約束する品質のことです。サービスクオリティを担保するためのルールと言ってもよいかもしれません。アートアンドサイエンスでは4項目を定めていますが、社員は、すべてのプロジェクトですべてのルールを高いレベルで実現することが求められます。
・Challenges:挑戦を促したか
・Sense of Humour:ウィットはあったか
・Something New:新鮮か
・Encouragement:背中を押したか

■行動指針
行動指針とは、日々の業務において求める行動の様式です。これは10項目あるのですが、なかには、「コミュニケーションの始めと終わりは必ず全員が明るく『よろしく』と『ありがとう』と発する」というものまでもあります。まるで学校のようだと思われるかもしれませんが、「核心を突く」コミュニケーションを取ろうにも、会社内の雰囲気がギスギスしていたら難しいですよね。それほど重要な会社の環境づくりを、社員の良心に任せるのは無責任です。反対に、評価基準に含めれば、社員が実行するインセンティブになります。そのため、こうした日々の行動も人事評価の基準として明確にし、社員にも周知しています。

ハード(評価の枠組み):「キャリアシート(会社全体の業務内容と年収規定表)」「コミットメントシート(人起点のジョブディスクリプション)」の2つに落とし込む

ソフト面であるアートアンドサイエンスの社員としての考え方「Way・Promise・行動指針」に基づいて、ハード面として評価の枠組みを明文化していきます。当社では、「キャリアシート」と「コミットメントシート」の2つを作成していきます。

■キャリアシート
まず作成するのはキャリアシート。キャリアシートとは、職種とグレードごとの業務内容と年収規定の一覧表のことです。ここでは、「心」「技」「態」という分類で業務内容を記載しており、それぞれ「精神」「技術・スキル」「態度・振る舞い」に相当します。例えば、「技」なら「専門領域の独自性と先進性を強化する」などと記載されています。
「キャリアシート」
■コミットメントシート:人起点のジョブディスクリプション
抽象的な内容であるキャリアシートを、具体化したものが「コミットメントシート」です。これが、在籍している社員のジョブディスクリプションに当たります。コミットメントシートでは、キャリアシートの内容をWay・Promise・行動指針と個人のスキルに応じて具体化し、数値で評価できる行動に落とし込みます。

先ほどの例で言うと、キャリアシート上の「技」が「専門領域の独自性と先進性を強化する」である場合、インフォグラフィックが専門分野の、あるグレードのデザイナーに求められる行動は、「担当するすべての案件で最低1つはインフォグラフィックの案を作成する」になります。あるいは、Wayの「Stay Inspirational.」に則って、「週に1回、インフォグラフィックの最新情報をSlackで共有する」が目標になることもあります。
「コミットメントシート」

人事評価の運用方法

──そして、たどり着いた「人起点のジョブディスクリプション」
上記でおわかりいただけるかと思いますが、アートアンドサイエンスのジョブディスクリプション(コミットメントシート)は、人起点でつくっており、カルチャーに密接に結びついています。採用基準と評価基準を明確にするというジョブディスクリプションの目的は、必ずしも職務起点でつくらなくても達成できます。

──人事評価の運用方法:ソフトとハードの2軸を評価指標にフィードバック
こうした制度や指標が整ったら、次は運用です。アートアンドサイエンスでは、コミットメントシート上の目標達成率と、Way・Promise・行動指針に則った行動ができているかどうかの2側面からの評価を、3カ月ごとに社員にフィードバックをしています。評価方法は主には3つです。「全社員への匿名アンケートによる360度評価」「代表である私との1対1のミーティング」「オフサイトミーティングでのプレゼンへの評価」を総合して判断しています。

オフサイトミーティングでは、毎年社外の会場を借りて、それぞれ「自分がこの3カ月でどれほど評価に値する仕事をしたか」を発表してもらっていました。今の状況ではなかなか対面でのミーティングは開きづらいので、これからは別の方法を考えなければなりませんね。
オフサイトミーティングでのプレゼンの例
また、コミットメントシート(人起点のジョブディスクリプション)も年次で更新しています。こちらは各社員のスキルやチームの状況に基づいて、本人との話し合いに基づいてアップデートしていきます。
面談で用いるシート
注意しなければならないのは、あくまで透明性が重要であることです。どのような制度をどのように運用するとしても、社員には明確に伝え、理解を得なければなりません。私たちのように、業務のアウトプットだけではなく、「挨拶」や「会議での発言数」なども人事評価に反映する場合はなおさらです。「そんなことは社会人として当然だ」と思われるかもしれませんが、後から「会議では積極的な発言を期待していたのに、していなかったから評価を下げました」などと言われても、本当にそれが理由なのかと疑ってしまいますよね。事前にきちんと約束しておくことで、社員との信頼関係を築けるのです。

こういった運用はとても手間がかかりますが、私は必要なことだと感じています。やはり社員には、本人のためにもクライアントのためにも、いい仕事をすることに集中してもらいたいですから。それができる環境をつくること、ひいては売り上げへの責任は、経営層の役割だと考えています。

──評価制度はPDCAを繰り返すことが重要
今の制度がベストだとは思っていません。これまで通り、試行錯誤を重ねていくつもりです。例えば、以前は360度評価の内容を詳しく社員に伝えていましたが、「他の社員からどう思われているのかがはっきり見えるのは嫌だ」という社員もいました。悪い評価があったら、誰がこんなふうに思っているのだろう、と疑心暗鬼になる気持ちも理解できます。そういった声を吸い上げながら、より納得感があり、適切な評価制度になるよう改善していきます。
360度評価シート
特に急ぎの改善点は、リモートワークへの対応ですね。新型コロナウイルス感染症対策として、アートアンドサイエンスではほぼ全面的にリモートワークを導入しました。社員間のコミュニケーションの取り方にも変化が出ていますので、それをどのように捉え、評価に反映するか、目下検討しています。

※2020年11月に取材した内容を掲載しています。
【執筆者プロフィール】
岡村 忠征(おかむら ただまさ)

岡村 忠征(おかむら ただまさ)
アート&サイエンス株式会社 代表取締役
ゲットアップ&デザイン株式会社 代表取締役

2011年にブランディングデザインファームのアート&サイエンス株式会社設立。コンサルティングからクリエイティブまでブランディングプロジェクトをトータルプロデュース。企業、大学、地域のブランディングを数多く手がける。特に近年は、新規事業のコンセプトメイキングや既存事業のコンセプトリデザインを支援するプロジェクトに従事。2020年に企業コミュニケーション専門のデザインプロダクションとしてゲットアップ&デザイン株式会社設立。
グロービス経営大学院大学経営研究科修了(MBA)/JAGDA正会員/日本マーケティング学会会員

art & SCIENCE Inc.
Get Up & Design Inc.