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【後編】クリエイターの採用基準のつくり方─アートアンドサイエンス株式会社【全3回】

マスメディアン編集部 2021.05.31

  • 採用ノウハウ
  • 働き方改革
【後編】クリエイターの採用基準のつくり方─アートアンドサイエンス株式会社【全3回】
「本当にこの候補者を採用すると、会社にとってプラスになるのだろうか?」という疑問は、採用に関わる方なら誰しもが一度は持つ不安ではないでしょうか。ブランディングソリューションを提供するアートアンドサイエンスでは、採用の目的を組織課題の解決と定め、「人に合わせて組織をつくる」ことを原則に、自社の課題や任せたい仕事、将来の成長目標まで、採用の過程でじっくり話し合っています。その際に活用されるのが「人起点のジョブディスクリプション」です。「採用時のマッチング」「社員の働きやすい環境づくり」「会社の売り上げ拡大」の三方良しを追求する方法について、アートアンドサイエンス 代表取締役社長 岡村忠征さんにお話を伺いました。(マスメディアン編集部)

企業データ

【企業名】アートアンドサイエンス株式会社
【代表者】代表取締役 岡村忠征
【設立日】2011年1月
【社員数】12名(2020年12月末時点)
【事業内容】
ブランディングデザイン会社
企業・地域・教育機関へのブランディングソリューションを提供
 

採用戦略

──採用面の課題(前編の振り返り):スキル面よりもパーソナリティで採用しがちなこと
採用面の課題は、前編でも伝えましたが、採用基準どおりの人材の採用ができていなかったことでした。せっかく採用基準を定めているのに、面接でのパーソナリティの印象によって、多少のスキル不足がわかっていても採用してしまうというケースです。任せたい仕事があって採用をしているのですから、後になってミスマッチが露呈して、お互いに困ることがありました。
※前編:デザイン会社が抱える人事課題~評価制度と採用基準について~
※中編:クリエイターの人事評価制度のつくり方

──採用戦略:求める人物像の大枠を決め、複数の職種で募集。コア人材が採用できたら、その人材に合わせてプラスアルファの人材を採用する
まず、当社では、売り上げの35%を人件費に充てると決めており、社員にも公表しています。そのため、採用できる人数や年収レイヤーは自ずと決まります。費用面と、会社が現在抱えている課題の解決に必要なスキルや人物像を突き合わせ、求める人物像の概略を固めていきます。その際には、職種とグレードごとの業務内容と年収規定の一覧表であるキャリアシートを参照しながら進めます。

当社の採用方法の特徴は、一度に多数の職種で募集することです。採用予定数が2名だとしても、2種類以上の職種で募集をかけます。例えば、コーポレートブランディングを専門に行うチームで、デザイン力を強化するために採用をする場合。デザイナーのみならず、コピーライター、クリエイティブディレクター、コンサルタントなどの職種でも同時に募集をします。求めるスキルを持つ人材が見つかったら、「その人が入社したあとの会社の状況」に応じて、その他の採用人物像を組み立て直すのです。採用したデザイナーは企画の経験が浅いようであれば、タッグを組めるコピーライターが必要になるかもしれません。また、もしクリエイティブディレクターが採用できれば、すでに在籍しているデザイナーのアウトプットが磨かれるでしょうから、追加の採用は必要ないかもしれません。当社のような10人規模の会社では、1人が入社しただけで会社ができることが大きく変わりますので、このような過程が重要になります。

採用時のジョブディスクリプションのつくり方

──採用にあたってのジョブディスクリプションの活用方法:募集の段階は簡易的なジョブディスクリプションをつくり、採用が決まった段階でその人材にあわせて詳細なものにつくり直す
採用の原則も、「人に合わせて組織をつくる」ことです。採用ターゲットを絞り込む際には、まずは現在の経営課題を洗い出すことから始めます。課題はその折々で、「今後は会社としてある方向に舵を切りたい」「ロゴ制作が必要な案件が増えているが、社内には専門家がいない」などさまざまです。会社が目指す姿と現状のギャップから、「どのような人材を採用すれば、このギャップを補い、会社の成長につなげられるだろうか」と考えていきます。もちろん、そこで「やはり人材採用ではなく、協力会社を探そう」と判断することもあります。目的はあくまで課題解決です。それに最適な手段を選びます。

具体例を挙げましょう。例えば、ロゴデザインが得意なチームがあるとします。十分に機能しているチームですが、もっと上流から案件に携わりたいと考えるように。プランナーが加われば、VI(ヴィジュアル・アイデンティティ)策定も受けられるようになります。それなら、今のチームに必要なのはどんな経験とスキルを持つプランナーだろうか?という流れで考えていくのです。

求める人物像がある程度決まってきたら、採用要項をつくります。採用したい人物像をキャリアシートと照らし合わせ、「グレード3のWebデザイナー」を採用しよう、と社内で合意を取ります。それに基づいて、具体的に採用したい人材のペルソナを設定します。簡易的なジョブディスクリプションもこのときつくっておきます。

この時点で、CanとMustは固まります。会社が求める内容だからです。しかし、Willは採用候補者ごとに異なりますので、選考のなかで個別に考えていきます。候補者のWillを満たす機会を会社がつくれるかどうか、またそのWillを満たすことが本人と会社の成長につながるかどうかも、重要な選考要素です。

選考が始まったら、候補者とじっくり話し合い、候補者にとってのCan・Must・Willを整理していきます。私たちは採用要項やキャリアシートを読み返しながら、「この人を採用したら、本当に今回の採用目的が達成できるのか?」という目線で検討を進めていきます。

採用が決まったら、選考時のCan・Must・Willに基づいて、今後1年間の業務内容や成長の目標を書き込んだジョブディスクリプションを作成します。CanとMustがジョブディスクリプションの内容に、Willが育成の方針になります。

採用時・入社後のジョブディスクリプションの運用方法

──選考時・入社後の運用方法:採用選考時に採用・評価・育成についての考え方を伝え共感した人材を採用する。入社後は毎月1対1の面談を設け状況を確認する
候補者には、こういった採用・評価・育成についての考え方をじっくり説明します。1次面接の場で1時間ほどかけて、私から直接お話しています。その段階で「自分には合わない」と選考を辞退される方もいますが、それでいいのです。当社の評価方法や、Way・Promise・行動指針に共感し、それを軸として行動できるかどうかは、入社後によい仕事をするためにとても重要ですから。また、選考の段階で「どうなりたいか(Will)」を共有しておくことで、あらかじめ長期的な就業のイメージを持って入社してもらえます。

また、入社後しばらくは1カ月ごとに私との1対1面談の場を設けています。そこでは、主に、入社時に設定したCan・Will・Mustに沿った仕事ができているかを確認します。また、ジョブディスクリプション(コミットメントシート)は、1年ごとにアップデートしていきます。

それとは別に、不定期的に社員に自分の価値観と働き方を内省してもらうためにワークシートを用意して記入してもらっています。社内の体制が変わったり、顧客の傾向が変わったりしたら、社員自身も意識しないうちに無理が生じているかもしれません。会社の方向性とキャリアの目標を一致させるために、ギャップを洗い出すワークをやってもらい、アドバイスするようにしています。
ワークシート1(記入例)
ワークシート2

※2020年11月に取材した内容を掲載しています。
【執筆者プロフィール】
岡村 忠征(おかむら・ただまさ)氏

岡村 忠征(おかむら ただまさ)
アート&サイエンス株式会社 代表取締役
ゲットアップ&デザイン株式会社 代表取締役

2011年にブランディングデザインファームのアート&サイエンス株式会社設立。コンサルティングからクリエイティブまでブランディングプロジェクトをトータルプロデュース。企業、大学、地域のブランディングを数多く手がける。特に近年は、新規事業のコンセプトメイキングや既存事業のコンセプトリデザインを支援するプロジェクトに従事。2020年に企業コミュニケーション専門のデザインプロダクションとしてゲットアップ&デザイン株式会社設立。
グロービス経営大学院大学経営研究科修了(MBA)/JAGDA正会員/日本マーケティング学会会員

art & SCIENCE Inc.
Get Up & Design Inc.