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ウェルビーイング経営の最新動向

岩本 隆 2026.02.16

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ウェルビーイング経営の最新動向
ウェルビーイング経営は、従業員の健康を超えて組織の生産性と企業価値を高める戦略として注目されています。最新の国際動向と規格化の流れについて、慶應義塾大学大学院 講師の岩本隆先生に解説いただきました。(マスメディアン編集部)
ウェルビーイング経営が世界的に注目を浴びてきており、ウェルビーイング経営の効果についてさまざまな研究結果が発表されている。ウェルビーイングは英語の「Well-being」をカタカナ表記したものであり、日本では英語のまま使われていることも多いが、本稿ではカタカナで表記する。ウェルビーイングの語源はイタリア語で幸せや福祉を表す「benessere(ベネッセレ)」で、16世紀頃に使い始められた言葉とされている。benessereはラテン語の「bene=よく」と「esse=生きる」とを組み合わせたものであり、これを英語にしたのがWell-beingである。

1925年にカナダの団体が、「健康」を「単なる病からの自由だけではない、ウェルビーイングな状態」と定義したことが報告されており、ウェルビーイングについての議論はこの時代には既にされ始めている。この考え方をWHO(World Health Organization:世界保健機構)が継承し、1946年にWHO憲章の中で「健康」を以下のように定義し、「健康=物理的、精神的、社会的にウェルビーイングな状態」とした(※1)。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいう。)

元々は、WHO憲章の定義にあるように、「健康」は「ウェルビーイング」の上位概念とされていたが、2021年5月に開催された世界経済フォーラムの年次総会「ダボス会議」がきっかけでウェルビーイングという言葉が世界的に注目され、ウェルビーイングが健康の上位概念であるかの如く認識されるようになり、ウェルビーイング経営という言葉も広く使われるようになっている。

2025年1月に世界経済フォーラムが発表したレポートでは、従業員のウェルビーイングへの投資は世界経済を11.7兆米ドル増加させる可能性があることが示された(※2)。また、求人検索エンジン大手のインディードは、ウェルビーイング調査に回答した2,000万人以上の回答者から収集したデータを活用し、「The Work Wellbeing 100」という株式指数を作っている(※3)。「The Work Wellbeing 100」は2024年までの過去5年間で、「S&P 500」、「ラッセル3000」、「ナスダック総合指数」などの主要な株式指数を常に上回っており、ウェルビーイング経営ができているかどうかが株価にも影響を与えることが示されている。

日本は、健康経営のエッセンスをウェルビーイング経営の国際標準にすべく活動を行っており、ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)において組織におけるウェルビーイングを推進するための枠組みを示す国際規格の開発を主導している。その成果として、ISOの高齢化社会のTC(Technical Committee:テクニカルコミッティ)であるISO/TC 314から、2024年11月にウェルビーイング重視社会への転換を促す国際規格である「ISO 25554:2024」が発行された(※4)。「ISO 25554:2024」のタイトルは「Ageing societies – Guidelines for promoting wellbeing in communities(高齢化社会-コミュニティにおけるウェルビーイング推進のためのガイドライン)」であり、日本の企業等における「ISO 25554:2024」の活用も進み始めている。

また、ISOの人材マネジメントのTCであるISO/TC 260においては、人的資本経営により特化したウェルビーイング経営の国際規格「ISO 30441」の開発を進めている(※5)。「ISO 30441」のタイトルは「Human resource management – Workplace well-being – Guidelines for thriving workplaces(人材マネジメント-職場のウェルビーイング-繁栄する職場のためのガイドライン)」で、2026年1月末時点でDIS(Draft International Standard:照会段階)にあり、次のFDIS(Final Draft International Standard:承認段階)を経ると発行に進む。

※1:日本WHO協会「世界保健機構(WHO)憲章とは」日本WHO協会(2026年)
※2:World Economic Forum「Thriving Workplaces: Improve Productivity and Change Lives」World Economic Forum(2025年/https://reports.weforum.org/docs/WEF_Thriving_Workplaces_How_Employers_can_Improve_Productivity_and_Change_Lives_2025.pdf)
※3:Indeed「The Work Wellbeing 100」Indeedウェブサイト(2024年/https://www.indeed.com/employers/work-wellbeing-100)
※4:International Organization for Standardization「ISO 25554:2024」ISOウェブサイト(2024年/https://www.iso.org/standard/82399.html)
※5:International Organization for Standardization「ISO/DIS 30441」ISOウェブサイト(2026年/https://www.iso.org/standard/68718.html)

執筆・編集

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授|東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、デジタル田園都市国家構想応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。