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三位一体の労働市場改革

岩本 隆 2025.07.02

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三位一体の労働市場改革
2025年6月に発表された骨太方針では、「三位一体の労働市場改革」がアップデートされました。政府はリスキリング、ジョブ型雇用、成長産業への労働移動を一体で進める方針を明確化しています。企業の採用や人材育成にも影響する最新の政策動向を、慶應義塾大学大学院 講師の岩本隆先生に解説いただきました。(マスメディアン編集部)
2025年6月13日に「経済財政運営と改革の基本方針2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~」(骨太方針2025)が閣議決定された(※1)。「骨太の方針」は2001年4月に発足した小泉純一郎政権において「聖域なき構造改革」の着実な実施のために経済財政諮問会議にて決議させた政策の基本骨格が発祥となっており、これ以降、毎年6月頃に公表されている。2001年当時の宮澤喜一財務大臣が内閣府に設置された経済財政諮問会議の議論を「骨太」と表現したところから、経済財政運営と改革の基本方針が「骨太の方針」と呼ばれるようになった。

「骨太方針2025」の「第2章 賃上げを起点とした成長型経済の実現」の「1.物価上昇を上回る賃上げの普及・定着 ~賃上げ支援の政策総動員~」の中で、「三位一体の労働市場改革」の政策がアップデートされている。「三位一体の労働市場改革」とは「骨太方針2023」において示された以下の3つを柱として労働市場を改革していく政策である(※2)。

(1)リ・スキリングによる能力向上支援
(2)個々の企業の実態に応じたジョブ型人事(職務給)の導入
(3)成長分野への労働移動の円滑化

「骨太方針2025」では、「生産性の高い成長産業・企業への労働移動の円滑化及び多様で柔軟な働き方を通じた労働参加率の向上による就業構造改革を経済・産業構造改革と一体で進める。」として、3つの柱について以下の政策が盛り込まれた。

(1)リ・スキリングによる能力向上支援
・AIを含むデジタルスキルに関する教育訓練給付金対象講座を拡大するとともに、全国の非正規雇用労働者などがオンラインで職業訓練を受講することを可能とする。
・中高年齢層のセカンドキャリアに向けたリ・スキリングプログラムについて毎年約3000人が修得できるよう、提供拠点・プログラムを拡充する。
・2028年技能五輪国際大会の日本開催の決定を契機として、現場人材のスキル向上と処遇改善のための環境を整備するとともに、スキルアップを目指す国民運動を展開する。

(2)個々の企業の実態に応じたジョブ型人事の導入
「ジョブ型人事指針」(※3)を周知するとともに、「人的資本可視化指針」(※4)の見直し、有価証券報告書の人的資本に関する情報開示の充実を進める。

(3)成長分野への労働移動の円滑化
・官民の公開求人情報の収集・分析や検定のスキル評価を充実させ、職業情報提供サイト(job tag)の機能を強化する。
・ハローワークの体制強化やAIの活用を進め、在職者を含めたキャリアサポートを強化する。

「骨太方針2025」の公表に先立ち、2025年5月8日に、自由民主党政務調査会と雇用問題調査会が、より豊かな国民生活の実現を目指す労働市場改革に関する提言を行っており、その内容は以下である(※5)。

(1)第一のボトルネックの解決に向けた挑戦から、第二のボトルネックの解決の挑戦へ
(2)人口減少に伴う労働力供給制約に対する総合的かつ戦略的な就業構造改革
(3)成長投資や事業再編、イノベーション促進による産業構造改革
(4)将来の急速な技術革新に対応した社会のあり方や産業・就業構造の変革

労働市場改革は産業構造改革と一体で進めることが強調されており、労働市場改革をさらに前に進めるために、企業には新事業創造を人材育成とともにより強力に推進することが求められる。

※1:内閣府特命担当大臣「経済財政運営と改革の基本方針2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~」内閣府Webサイト(2025年/https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2025/decision0613.html)
※2:内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」内閣府Webサイト(2023年/https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2023/decision0616.html)
※3:内閣官房、経済産業省、厚生労働省「ジョブ型人事指針」内閣官房Webサイト(2024年/https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/jobgatajinji.pdf)
※4:非財務情報可視化研究会「人的資本可視化指針」内閣官房Webサイト(2022年/https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf)
※5:自由民主党政務調査会、雇用問題調査会「より豊かな国民生活の実現を目指す労働市場改革に関する提言-産業構造改革と就業構造改革の一体的な推進-」自由民主党Webサイト(2025年/https://www.jimin.jp/news/policy/210553.html)
【執筆者プロフィール】
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岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師
山形大学 客員教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より2025年3月まで慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。2023年4月より慶應義塾大学大学院経営管理研究科講師、山形大学客員教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、日本DX地域創生応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。