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雇用仲介事業者に関連するルールのアップデート

岩本 隆 2025.06.18

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雇用仲介事業者に関連するルールのアップデート
採用活動へのテクノロジー活用の広がりを背景に、職業紹介・募集情報サービスの法的ルールが見直されています。2025年4月の職業安定法改正により、求人情報の取り扱いや契約の明示などが変更され、企業にとっても正しい理解が求められるタイミングです。近年の雇用仲介事業者に関連する制度改正のポイントを、慶應義塾大学大学院 講師の岩本隆先生に解説いただきました。(マスメディアン編集部)
人材獲得のテクノロジーであるTA Tech(Talent Acquisition Tech)市場の急成長によって新たな機能が付加されたTA Techアプリケーションが急増しているため、この数年、新機能に対応すべく雇用仲介事業者に関連するルールのアップデートが続いている。一方で、これらのルールを理解せずに新規参入するTA Techベンダーも多く、新規参入ベンダーはよく注意する必要がある。

2025年4月1日にもルールがアップデートされた。職業安定法に基づく省令および指針が一部改正され、職業紹介事業者と募集情報等提供事業者は以下の対応が必要となる(※1)。

【職業紹介事業者】
「職業紹介事業者」は、徴収した紹介手数料の実績を人材サービス総合サイトに掲載することが必要となる。また、既に、求人者から求人の申し込みがあった際には、取り扱い職種の範囲や手数料に関する事項などを明示することが義務となっているが、今回新たに、違約金に関する定めについて求人者に誤解が生じないようあらかじめ明示しなければならない。

【募集情報等提供事業者】
募集情報等提供事業者は、労働者になろうとする方に金銭やギフトなどを提供することは原則禁止となるほか、利用料金や違約金に関する定めを、募集主に誤解が生じないようあらかじめ明示することが必要となる。

募集情報等提供事業者は、企業の求人情報などを提供する事業者であり、2000年代中盤以降、インターネットによって雇用仲介事業を展開する事業者が急増してきた。職業紹介事業者は厚生労働大臣の許可を受け、毎年事業報告書を提出する必要があるのに対し、募集情報等提供事業者は、改正職業安定法が施行された2022年10月1日より前は、ガイドラインは存在したものの、割と自由に事業を営むことができた。

そして、テクノロジーの進化により、求人情報や求職者情報などのデータをAI(Artificial Intelligence:人工知能)などで分析して新たな価値を生み出すことができるため、従来のガイドラインに従わない新たな機能が付加されたサービスを展開するTA Techベンダーが増加していた。また、この市場では新規参入企業やスタートアップ企業が多いこともあって募集情報等提供事業のガイドラインを認識していない企業が多く、筆者も募集情報等提供事業のガイドラインを認識していないTA Techベンダーを多く見てきた。

そのため、2022年10月1日に、職業安定法が改正されて募集情報等提供事業の範囲が拡大し、事業運営のルールが変わった。この改正は、2021年1月から2021年7月までの間に17回にわたって開催された「労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会」での議論を基に行われた。本研究会の報告書は2021年7月13日に「労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会 報告書」として厚生労働省より公表されている(※2)。2022年10月1日に施行された改正職業安定法では、募集情報等提供事業の運営ルールは以下のように変更された(※3)。

(1)募集情報等提供事業に該当するサービスが拡大され、従来の求人メディア・求人情報誌だけでなく、以下の事業を行う事業者も職業安定法の「募集情報等提供事業者」になる。
・インターネット上の公開情報などから収集した求人情報・求職者情報を提供するサービス
・求人企業や求職者だけでなく、職業紹介事業者や他の求人メディアなど(募集情報等提供事業者)から求人情報・求職者情報の提供依頼を受けたり、情報提供先に提供したりするサービス

(2)特定募集情報等提供事業者(労働者になろうとする者に関する情報を収集する募集情報等提供事業者)について、届出制が導入される。また、特定募集情報等提供事業者は、年に一度、事業の概況を報告する必要がある。

(3)求人などに関する情報(1:求人情報、2:求職者情報、3:求人企業に関する情報、4:自社に関する情報、5:事業の実績に関する情報)の的確な表示が義務付けられる。また、求人情報・求職者情報を正確・最新の内容に保つ措置を講じなければならない。

(4)個人情報の取り扱いに関するルールが新しくなり、募集情報等提供事業者も、職業安定法の個人情報に関する規定の対象となる。

2025年4月1日のルールのアップデートはこれらの運営ルールに付加されたものであり、TA Techベンダーはこれらのルールをよく理解して事業を運営する必要がある。また、TA Techアプリケーションを活用する企業も、TA Techアプリケーションを提供するTA Techベンダーがルールを遵守しているかを確認した上で活用する必要がある。2022年度から「優良募集情報等提供事業者認定制度」も始まっており、認定事業者であるかどうかも確認する上でのひとつの基準になる。

※1:厚生労働省「雇用仲介事業者(職業紹介事業者、募集情報等提供事業者)は新たなルールへの対応が必要です」厚生労働省Webサイト(2025年/https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/r0604anteisokukaisei1_00002.html)
※2:厚生労働省「労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会 報告書」厚生労働省Webサイト(2021年/https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000805361.pdf)
※3:厚生労働省「募集情報提供事業の運営ルールが変わります」厚生労働省Webサイト(2022年/https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000983825.pdf)
【執筆者プロフィール】
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岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 講師
山形大学 客員教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より2025年3月まで慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。2023年4月より慶應義塾大学大学院経営管理研究科講師、山形大学客員教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、日本DX地域創生応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。