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CMOからCGOへ

岩本 隆 2024.09.18

  • 業界動向
CMOからCGOへ
2024年に米国企業で最も速く増えるといわれている役職「CGO(最高事業成長責任者)」。CMOに代わって設置されることもあり、企業全体の成長を統括するポジションです。マーケティングにとどまらず、市場を創出し、事業を成長させる役割を担います。日本企業でも少しずつ導入が進むCGOについて、慶應義塾大学大学院特任教授の岩本隆先生に解説いただきました。
リンクトイン社が2024年1月17日に、過去5年間の米国における仕事の役割のデータを元に、2024年に米国企業で最も速く増える25の役割について発表した(※1)。25の役割の内、上位の7つの役割を含めた68%が20年前には存在しなかった役割であり、新たに増える役割に対応したケイパビリティやスキルをもつ人材が求められている。

25の役割の中で2024年に最も速く増える役割の1位がCGO(Chief Growth Officer:最高事業成長責任者)であった。CGOは日本ではまだあまり聞きなれない役職であるが、コカ・コーラ社が2017年にCMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)を廃してCGOへと変更したことが大きく注目を集め、その後、CGOの役職を設置する企業が急増してきた。Singular社が2019年6月26日に公表した調査結果によると、調査対象企業700社のうち、既に14%の企業がCGOを設置しており、それから5年を経過した2024年時点ではCGO設置企業の割合は更に増えている(※2)。日本でも少しずつではあるがCGOの役職を設置する企業が増えている。CGOは従来のマーケティングだけでなく、自社が展開する事業を成長させるための幅広い機能を経営者として統括する。

CGOは、企業全体の成長戦略を描いた上で、自社が展開する個々の事業を成長させるためのアクションを統括する。図表に事業と市場のマトリックスを示す。
事業と市場のマトリックス
図表.事業と市場のマトリックス(筆者作成)
Aの既存市場で既存事業を成長させる場合は、競合に対する優位性をいかに保ち市場シェアを高めるかがCGOの役割である。Bの既存市場で新規事業を成長させる場合は、新たな事業のコストや性能での競合に対する優位性をいかに出すかがCGOの役割となり、マーケティング部門で市場ニーズを明確化して新たな製品の仕様を策定し、事業開発部門にフィードバックをして新製品を開発する。

AやBのような、市場が顕在化している事業での事業成長の取り組みは従来のマーケティングでもよく行われているが、難易度が高いのが、CやDのような新規の市場を創造することである。市場を創造するには、従来の「市場を分析してターゲットとする市場セグメントを明確化し、その市場セグメントにフィットする事業を展開する」という分析的なアプローチではなく、ゼロからイチを生み出す創造的なアプローチが必要となる。A、B、C、Dの全てを俯瞰した上で、企業全体の事業成長を統括することがCGOに求められる役割であり、そのためには社内のさまざまな異なるケイパビリティを掛け合わせる組織的仕組みを構築することも求められる。

今後、各社のCGOがどのような活躍をしていくのか注視していきたい。

※1:LinkedIn「LinkedIn Jobs on the Rise 2024: The 25 fastest-growing roles in the U.S.」LinkedIn News(2024年/https://www.linkedin.com/pulse/linkedin-jobs-rise-2024-25-fastest-growing-roles-us-linkedin-news-dxmie)
※2:John Koetsier「Chief Growth Officer on the rise: 8 things having a CGO does for a growth-focused brand, enterprise, or startup」Singularウェブサイト(2019年/https://www.singular.net/blog/cgo/)
【執筆者プロフィール】
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岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、デジタル田園都市国家構想応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。