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労働人口問題

岩本隆 2024.05.01

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労働人口問題
2024年現在、日本における労働人口不足は、あらゆる企業で深刻な経営課題となっています。10~20年後には、人工知能やロボットで労働人口を補うという推測もあるが、他にはどのような施策が考えられるのでしょうか。労働人口問題の概況と今後について、慶應義塾大学の岩本隆特任教授に解説いただきました。(マスメディアン編集部)
2024年に入り、労働人口問題が顕在化してきた。労働人口問題では、「2024年問題」、「2025年問題」、「2030年問題」、「2040年問題」とさまざまな「〇〇年問題」が語られている。それぞれの労働人口問題の概要を以下に記す。また、図表1に直近の人口推移予測を示す。
図表1.人口推移予測(出所:『令和5年版高齢社会白書』)
【2024年問題】
2024年4月から、建設業、トラック・バス・タクシードライバー、医師の「働き方改革」を進めるため、時間外労働の上限規制が適用となる。

【2025年問題】
「団塊の世代」800万人全員が75歳以上、つまり後期高齢者となり、超高齢社会が訪れる。1億2326万人と予測される総人口のうち、後期高齢者の人口が2155万人に達する。

【2030年問題】
総人口の30%超を65歳以上の高齢者が占めることが予測される。15歳~64歳の生産年齢人口は約7076万人まで低下する見込みであり、2030年には約1.9人で高齢者1人を支える計算になる。

【2040年問題】
団塊ジュニア世代層(1971年~1974年生まれ)が65歳を超え、全人口に占める65歳以上の高齢者の割合が約35%に達すると予測される。この状況下では、現在の医療、介護、年金などの社会保障制度の持続性に対する疑念が指摘されている。厚生労働省によると、社会保障給付費は2040年には190兆円に達し、2023年度の134兆円と比較して約1.4倍に増加する見通しである。

2015年12月に、野村総合研究所が、オックスフォード大学との共同研究の結果、10~20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業が人工知能やロボットなどで代替可能という推計結果を発表した。この推計結果通りに世の中が変わるのであれば、日本の労働人口減少自体は問題にならないはずだが、実際には、労働人口不足が日本のあらゆる企業で深刻な経営課題となっている。それに伴い、特に若年層の採用力強化が非常に重要な経営課題になっている。さらに、人手不足倒産する企業も増えている。帝国データバンクの調査によると、2023年の人手不足倒産は累計で前年比86.0%増の260件となり、過去最高を更新した。

今後ますます深刻になる労働人口問題に対しては、人工知能やロボットなどのテクノロジーの活用による労働の代替や生産性向上に加え、以下の施策がニーズとして高まっている。

●女性正社員を増やす
日本はG7の中で男女間賃金格差が最も大きい状態であるが、その大きな理由のひとつは、本来は働き盛りの年代の女性が、パートやアルバイトなどによりパートタイムで働いている場合が多いことである。出産などで一旦企業を離れた女性をフルタイムの正社員で再雇用する仕組みや環境を整えることで、国全体の総労働時間を増やす。

●外国人採用を強化する
日本の出生率は、2023年も前年比で5.8%減少して1.20前後まで低下しており、日本人の労働人口は減少の一途をたどる。そのため労働人口を増やすためには、外国人採用を積極化する。

●働く高齢者を増やす
2022年の高齢者の就業率は、65歳~69歳が50.8%、70歳~74歳が33.5%であったが、これをさらに増やしていく。日本の大企業では、定年制を継続している企業もまだ多く、定年退職後は転職する必要性も高いため、高齢者の人材採用サービスの強化なども必要とされる。

労働人口問題は、日本のGDPの減少、社会保障制度の支出増加、介護の人手不足、人材獲得競争の激化などさまざまな社会問題を引き起こす可能性があり、解決のための取り組みを加速させる必要がある。
【執筆者プロフィール】
岩本 隆先生お顔写真

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、デジタル田園都市国家構想応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。