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スキルのデジタル証明

岩本隆 2024.03.06

  • 人的資本
スキルのデジタル証明
「スキルベース採用」が活発化する中、個人が持つスキルの証明書として「オープンバッジ」の利用が進んでいます。オープンバッジとは何か、また採用への活用にあたって採用担当者が知っておくべきことを、慶應義塾大学の岩本隆特任教授に解説いただきました。(マスメディアン編集部)
スキルのデジタル証明の活用が広がってきた。中でも国際規格である「オープンバッジ」の活用が世界的に広がっている。オープンバッジの国際規格は、2012年にMozilla財団により「Open Badges 1.0」が策定され、2017年にIMS Global Consortiumに引き継がれた。IMS Global Consortiumは、2022年に団体名を1EdTech Consortiumに変更し、現在、オープンバッジの国際規格は、1EdTech Consortiumによって「Open Badges 3.0」にアップデートされている。日本では一般社団法人1EdTech®協会が1EdTech Consortiumのリエゾン組織(企業間やグループ間の仲介を担う組織)として活動している。

オープンバッジの普及を推進する組織としては、日本では、2019年11月1日に「一般財団法人オープンバッジ・ネットワーク」が設立された。オープンバッジ・ネットワークは、日本とアジア地域において、誰もが安心して便利に利用できるようブロックチェーンを組み込んだオープンバッジの発行環境をクラウドサービスとして提供している。受領したオープンバッジは「ウォレット」で管理され、オープンバッジ受領者は、生涯を通して受領したオープンバッジを一元管理できる。オープンバッジには「バッジ名」「発行者」「受領者」「説明」「作成日」「知識・スキル」「取得条件」などのデータが格納されており、受領者は改ざんされることのない信頼度の高い証明書としてオープンバッジを利用できる。図表1にオープンバッジの発行から受領・活用の流れを示す。
図表1.オープンバッジの発行から受領・活用までの流れ
図表1.オープンバッジの発行から受領・活用までの流れ(編集部作成)
一般財団法人オープンバッジ・ネットワークには2024年2月1日時点で269の企業・団体が会員として参加し、多くの企業・団体がオープンバッジの発行を進めている。269の企業・団体の内訳は、大学等の高等教育を中心とする教育機関が最も多く100団体、次いで企業が92社、非営利団体が47団体、官公庁・自治体が10団体、連携会員が11団体、准会員が6団体、連携准会員が3団体である。

日本政府もオープンバッジ活用の重要性を認識し、2023年6月16日に閣議決定された『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版』において、リ・スキリングによる能力向上支援の施策の1つとして、『業種・企業を問わず個人が習得したスキルの履歴の可視化を可能とする一助として、デジタル上での資格情報の認証・表示の仕組み(オープンバッジ)の活用の推奨を図る。』と記載している。

オープンバッジの活用の進展を受け、2023年に、オープンバッジの先進的な取り組みを表彰する「第1回 オープンバッジ大賞」が実施され、筆者は審査委員長を務めた。第1回 オープンバッジ大賞では以下の7つの企業・団体が受賞した。

【オープンバッジ大賞】
■旭化成株式会社:『旭化成DX Open Badge』

【企業部門賞】
■富士通株式会社:『Purpose Carving Internal Organizer』

【自治体部門賞】
■藤枝市:『藤枝市民大学2023リカレント教育(学び直し)コース基礎講座・専門講座』

【教育機関部門賞】
■国立大学法人東北大学:『東北大学オープンバッジ』

【資格認定団体部門賞】
■公益財団法人日本数学検定協会:『データサイエンス数学スチオラテジスと上級(トリプルスター認定)』

【ASIA PACIFIC賞】
■成均館大学校:『SKKU ISS Micro Degree-Global Sustainability』
■社団法人韓国高等職業教育学会:『メタバース教育専門家』

「スキルベース採用(Skills-based hiring)」という言葉が人材採用において世界的にホットなワードになっており、今後、スキルをベースにした人材採用が活発化していくことが想定される。オープンバッジは、履歴書、SNS、メール署名等に電子的に貼り付けられるため、今後活発化するスキルベース採用において多く活用されていくことになるであろう。

オープンバッジで証明するスキルは各発行団体によって定義されているため、各オープンバッジのスキルが実務にどう連関するのかを判断する必要はあり、一般社団法人オープンバッジ・ネットワークでは、各発行団体が発行するオープンバッジのスキルのレベル感を横比較できるようにするための標準化の活動も進めている。また、企業の採用担当者には、求職者が保有するオープンバッジが自社の実務とどう連関するかを判断するなど、数多く発行されているオープンバッジに対する知見を高めていくことも求められるだろう。
【執筆者プロフィール】
岩本 隆先生お顔写真

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、デジタル田園都市国家構想応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。