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採用アナリティクスツール

岩本 隆 2024.02.21

  • 人的資本経営
採用アナリティクスツール
「採用活動のボトルネックとなっている工程を特定したい」「採用経路別のコストや成果を明確にしたい」…そんな悩みに答え、人材採用の成果を高める採用アナリティクスツール。直近数年で市場が大きく拡大しているといいます。その現状と全体像について、慶應義塾大学の岩本隆特任教授に解説いただきました。(マスメディアン編集部)
人材採用の効率、効果、インパクトなどの測定の進展に伴い、採用アナリティクスを行う企業が増えてきた。アナリティクスは「分析」を意味し、さまざまな種類のデータ間の関係性などを明らかにする。採用のどの活動にどのように投資をして、どのような工夫を行うと、効率がどのように上がり、効果がどのように上がって、インパクトがどのように上がるかをアナリティクスにより明確にする。

採用アナリティクスの進展とともに、採用アナリティクスをサポートする採用アナリティクスツールの市場も成長している。図表1に採用アナリティクスツールのビジネスモデルを示す。採用アナリティクスツールを活用する企業はツール利用料を採用アナリティクスツールベンダーに支払い、採用アナリティクスツールは、ATS(Applicant Tracking System:応募者追跡システム)、タレントマネジメント、パフォーマンスマネジメント、従業員サーベイツールなどの企業が保有する人事の情報通信システムに接続して採用に関連するデータを一元的に吸い上げ、分析を行って分析結果を表示させる。
図表1.採用アナリティクスツールのビジネスモデル
図表2に採用アナリティクスツールによる分析結果表示のイメージを示す。経路毎の応募者数(Source)、ポジションが埋まるまでにかかる時間(Time-to-fill)、パイプライン、応募者数の推移、コンバージョン率などが図や表で一覧できる。また、蓄積されるデータ量が増えていくと、それぞれのデータ間の関係性なども統計的に明らかになり、より高度な分析結果が表示されるようになる。
図表2.分析結果表示のイメージ(出典:Datapeople)
米国のTalent Tech Labs社が定期的に「タレントアクイジションエコシステム」という人材採用領域に特化したテクノロジーマップを公表している。アクイジション(Acquisition)は「獲得」を意味し、海外では人材採用のことを「タレントアクイジション」と呼ぶ事例が増えている。人材採用領域のテクノロジーツールは市場セグメントがかなり細かく分かれており、「タレントアクイジションエコシステム」で分類されている市場セグメントの数は、2016年に28、2018年に34、2019年に36、2020年に41、2023年1月には42と、年々増えている。採用アナリティクスは2023年1月に新たに加わった市場セグメントであり、直近の数年で市場が成長してきたことが窺える。

2023年1月に公表された「タレントアクイジションエコシステム」の採用アナリティクスの市場セグメントでは、代表的なツールベンダーとして17の企業が紹介されている。17社の中には既にユニコーン(企業価値が10億米ドル以上の企業)になっている企業もある。各ツールベンダーは、自社のツールを使うことで、効率、効果、インパクトがどの程度改善されるかをデータで示し、ツールのアピールをしている。例えば、「我々の採用アナリティクスツールの活用により、『採用効率が28%向上した』『採用の質が34%向上した』」といった具合である。より細かくは、採用アナリティクスツールの活用により、「採用活動のボトルネックとなっている工程を特定し、採用プロセスの改善に対して的確にアプローチできる。」「採用経路別のコストや成果が明確になり、費用対効果を高められる。」「優秀な人材の共通点を可視化し、採用のミスマッチを減らせる。」「中長期的な採用ニーズを正確に予測することで、採用に要する時間などについて現実的な見積もりを立て、空きポジションが出る前に採用活動を始めることができる。」などといったことが採用アナリティクスツールを活用することで可能となるというわけである。

各社の採用アナリティクスツールは日々進化しており、AI(Artificial Intelligence:人工知能)が実装されて、採用にかかる日数、従業員の退職リスクや空きポジション数、新規採用者の入社後の定着や活躍の度合いなどを予測する「予測分析」機能を備えるツールもある。今後は更に生成AIを活用した新たな機能なども実装されていくことが予想される。人材採用の効率、効果、インパクトを高めるために、採用アナリティクスツール市場の把握を常時行うことも重要となるであろう。
【執筆者プロフィール】
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岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、デジタル田園都市国家構想応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。