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スキル標準の活用に向けて

岩本隆 2024.03.20

  • 人的資本
スキル標準の活用に向けて
スキルベース採用の実現にあたって、「スキル標準」の活用が、欧米を中心に進んでいます。スキル標準とは、企業や業界の壁を超えて、共通で利用できるスキルマップのこと。日本でもスキル標準は策定されているものの、活用はまだこれからの段階です。活用推進の取り組みと見通しについて、慶應義塾大学の岩本隆特任教授に解説いただきました。(マスメディアン編集部)
HRテクノロジーの展示会やセミナーなどのイベントが世界で活況を呈しており、毎年新たなキーワードが出現する。直近の米国でのHRテクノロジーのイベントでは「Skills-based 〇〇」という言葉がキーワードとなっている。具体的には、「Skills-based organization(スキルベース組織)」「Skills-based hiring(スキルベース採用)」「Skills-based learning(スキルベース学習)」「Skill-based allocation(スキルベース配置)」などの考え方が注目を浴びている。人材マネジメントのあらゆる領域でスキルがベースになっていくということである。

この数年、スキルのクラウドアプリケーション市場が成長しているが、それとともに、スキルマップを社内に構築して人材マネジメントを行う企業も増えている。ただ、現状は、各社で独自のスキルマップを構築していることが多く、スキルマップを社内で活用しているうちはそれでも良いが、スキルをベースに外部から人材採用する際には、社外のスキル定義と社内のスキル定義が異なっていると、スムーズな人材評価ができず定義されたスキルの理解に手間がかかることになる。

欧米などの海外ではスキル標準が企業や業界を超えてうまく活用されている。海外の主なスキル標準としては米国の「O*NET」や欧州のESCO(European Skills, Competences, and Occupation)などがある。日本でもスキル標準自体は政府によって策定されており、「日本版O*NET」と呼ばれていた「job tag」をはじめ、「CCUS(Construction Career Up System:建設キャリアアップシステム)」「ITSS(IT Skill Standard:ITスキル標準)」、「DSS-L(Digital Skill Standard – Literacy:DXリテラシー標準)」「DSS-P(Digital Skill Standard – Promotion:DX推進スキル標準)」などがある。

ただ、日本では、企業や業界を超えてのスキル標準の活用が海外に比べると進んでおらず、そのため、人材採用でスキル標準がうまく活用されていない。そういった背景もあり、筆者らは、さまざまなスキル標準の中で、まずは今、日本全体で優先順位の高い「デジタルスキル標準」を企業や業界を超えて活用できるようにするための活動を開始した。具体的には、2023年4月に「DSM(Digital Skill Map)パートナーズ」というコミュニティを発足し、デジタルスキル標準の活用に取り組む企業や自治体を集めて、デジタルスキル標準を社会実装するための課題や取り組みについて議論を重ねている。図表1にDSMパートナーズの取り組みのイメージを示す。活動結果については、別途報告書が公開される予定であり、関心のある方はぜひ参考にしていただきたい。
図表1.DSMパートナーズの取り組みのイメージ(出所:日本パブリックアフェアーズ協会)
デジタルスキル標準の内容については、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)によって、DSS-Lは2022年3月に、DSS-Pは2022年12月に公開された。DSS-Lは全ての働く人たちが身に付けるべきスキルが定義され、DSS-Pは組織の中でDXを推進する人たちが持つべきスキルが定義されている。

DSS-Lは2023年8月に改訂され、昨今急速に活用が進んでいる生成AIに関するスキルが追加された。図表2にDSS-Lの改訂箇所を赤字で示す。デジタルテクノロジーの進化は激しいが、全ての働く人は、進化が続く新たなデジタルテクノロジーを活用するスキルを常時アップデートしていくことが求められるということである。
図表2.DSS-L改訂箇所(出所:経済産業省)
【執筆者プロフィール】
岩本 隆先生お顔写真

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、デジタル田園都市国家構想応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。