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人材採用の基本メトリック

岩本 隆 2024.02.07

  • 人的資本経営
人材採用の基本メトリック
ISOは、人材採用を定量的に評価するための基本メトリックを示しています。「惹きつける/発掘する/査定する/雇用する」という人材採用の4側面をどのように測定するのか、慶應義塾大学大学院 特任教授の岩本隆先生に解説いただきました。
ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)による人材採用の国際標準化の進展とともに、国際標準に則った人材採用のメトリック(Metric:測定基準の意味)の活用が進んでいる。人材採用のメトリックについてインターネット検索すると、数多くのメトリックが提示されるが、ISOでは、それら多くのメトリックの中から基本となるメトリックについて国際規格文書で示している。本稿では、ISOの国際規格をもとに人材採用における基本メトリックについて解説する。
 
人材採用には「惹きつける」「発掘する」「査定する」「雇用する」の4つの側面があるが、採用プロセスとそれぞれの側面との関係を図表1に示す。「惹きつける」は採用プロセスの全てに関係し、採用ブランドの構築や労働市場とのコミュニケーションなどを行う。「発掘する」では、潜在的な人材プールにアプローチし、応募者プールまで持ってくる。「査定する」では、応募者を評価し、採用候補者を絞り込む。候補者に転職意思がない場合は説得のアクションも必要になる。「雇用する」は候補者管理をし、採用して自社に定着するところまで行う。
人材採用の国際標準化 編集部によるまとめ
図表1.採用プロセスと4つの側面との関係
(出展:ISO 30405を参考に筆者作成)
図表2に人材採用の基本メトリックの枠組みとメトリックの例を示す。「惹きつける」「発掘する」「査定する」「雇用する」という人材採用の4つの側面それぞれに対し、効率性、効果、インパクトで測定する。効率性では「人数」「時間」「コスト」の3つのメトリックを活用し、効果では「質」「ステークホルダー満足」の2つのメトリックを活用し、インパクトでは「戦略的インパクト」の1つのメトリックを活用する。トータルでは、(3+2+1)×4=24のメトリックを活用することになる。 
図表2.人材採用の基本メトリックの枠組みとメトリックの例
(出展:ISO 30405を参考に筆者作成)
 「人数」では、どれくらいの人数を応募まで持って来られるか、応募者が次のプロセスにどの程度進めるのかのコンバージョン率(CVR:Conversion Rate)などがKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)に設定される。
 
「時間」については、空きポジションができて埋まらない期間が生じる場合、ポジションが空いている日数分だけビジネスの機会損失が生じるため、実質的には採用コストに上乗せされることになる。そのため、いかに採用までの時間を短縮できるかがビジネスに直結する。
 
「コスト」については、日本企業では内部コストを正確に測定していないことが多いが、外部コストに加えて内部コストも測定することが求められる。内部コストは採用担当者のコストに加え、採用したい部門で採用に関わる人たちのコストなども乗ってくる。外部コストは採用ツールのコストやアウトソーシングのコストになる。「人数」「時間」「コスト」を統合的に測ることで、人材採用の効率性が明確になる。
 
「効果」についてはISO 30405で例が示されているものの、測り方は各社で定義しても良い。「惹きつける」「発掘する」「査定する」「雇用する」のそれぞれの側面における自社のアクションの効果を定義しKPIを設定してマネジメントする。KPIは定量的に測れるものにすることが望ましく、例えば、パフォーマンスレーティングなどでは、5段階や10段階で客観的な評価を行って定量化するなどといったことがよく行われている。
 
「インパクト」は基本的にはROI(Return On Investment:投資利益率)で測定する。採用した人材の活躍によって企業にどれだけ利益がもたらされたか、その人材獲得にどの程度の投資をしたかが測られればROIが測定できる。ただ、採用した人材が成果を出すまでには時間がかかるため、何らかの自社の利益に結び付く中間指標を設定して、疑似的なROIを測定するのも一案である。
 
最近は、各メトリックにおけるデータを整備している企業が増えてきていることもあり、これらのデータを容易に分析する採用アナリティクスのツールが増えている。次回は採用アナリティクスのツールについて解説する。
【執筆者プロフィール】
岩本 隆先生お顔写真

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、デジタル田園都市国家構想応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。