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人材採用の国際標準化

岩本隆 2024.01.17

  • 人的資本経営
人材採用の国際標準化
人的資本報告のガイドライン(ISO 30414)をはじめ、人材分野における国際規格の開発が進んでいます。それらは人材採用領域での戦略策定に活用されており、「Attract(惹きつける)」「Source(発掘する)」など採用の各側面のROIを定量化して人材採用力の向上に役立てる動きが活発化しています。人材採用の国際標準化の全体像を、慶應義塾大学大学院 特任教授の岩本隆先生に解説いただきました。(マスメディアン編集部)
2011年にISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)に人材マネジメントのTC(Technical Committee:専門委員会)であるISO/TC 260が創設された(※)。

ISOは2023年末時点で169の国家標準化団体によって構成されており、日本からは、経済産業省に設置された審議会であるJISC(Japanese Industrial Standards Committee:日本産業標準調査会)がISOに加盟している。ISOでは、分野毎にTCが設置されて国際規格の開発が進められる。TCはPメンバー(Participating member:参加国)とOメンバー(Observing member:オブザーバー国)で構成され、Pメンバーが開発に参加する。

ISO/TC 260では、人材マネジメントのさまざまな領域における投資に対するリターン、つまりROI(Return On Investment:投資利益率)を測定するための国際規格の開発が進められており、日本は2023年2月にPメンバーとなって人材マネジメントの国際規格開発に積極的に関与している。Pメンバーになると、経済産業省から委託される国内審議団体が事務局となって、国内審議委員会を設置して日本国内の意見をとりまとめる。日本では、株式会社HCプロデュースが国内審議団体となり、国内審議委員会の委員長は市川芳明氏(多摩大学ルール形成戦略研究所 客員教授)が、副委員長は筆者が務めている。

ISO/TC 260では、2023年末時点で30の国際規格文書が出版されており、30の国際規格文書の中で最も多く出版されている領域が人材採用の領域である。具体的には人材採用領域で以下の国際規格が出版されている。文章番号中のTSはTechnical Specificationsの略で技術仕様の意味である。メトリック(Metric)は測定基準の意味であり、メトリクス(Metrics)はその複数形である。

・ISO 30405:2023
Guidelines on recruitment
リクルートメントのガイドライン

・ISO/TS 30407:2017
Cost-Per-Hire
採用毎のコスト

・ISO/TS 30410:2018
Impact of hire metric
採用のインパクトのメトリック

・ISO/TS 30411:2018
Quality of hire metric
採用の質のメトリック

・ISO/TS 30430:2021
Recruitment metrics cluster
リクルートメントのメトリクスクラスター

これらの他、タイトルに採用という言葉が入っていないものの、人材採用に関連するまたは人材採用を包含する国際規格文書として以下が出版されている。文書番号におけるTRはTechnical Reportsの略で技術報告書を意味する。

・ISO 10667-1:2020
Assessment service delivery – Procedures and methods to assess people in work and organizational settings – Part 1: Requirements for the client
アセスメントサービス提供における人材アセスメントの手順と手法-クライアントに対する要求

・ISO 10667-2:2020
Assessment service delivery – Procedures and methods to assess people in work and organizational settings – Part 1: Requirements for service providers
アセスメントサービス提供における人材アセスメントの手順と手法-サービスプロバイダーに対する要求

・ISO/TR 30406:2017
Sustainable employability management for organizations
組織に対する持続的な雇用力マネジメント

・ISO 30414:2018
Guidelines for internal and external human capital reporting
内部・外部への人的資本報告のためのガイドライン

・ISO/TS 30421:2021
Turnover and retention metrics
離職・リテンションのメトリクス

国際標準化の進展により、人材採用領域でも、ROIを定量化して自社の人材採用力を戦略的に高めていく動きが活発化している。人材採用における側面は、大きく、「Attract(惹きつける)」「Source(発掘する)」「Assess(査定する)」「Employ(雇用する)」に分けられるが、自社は人材採用のどの部分が強くどの部分が弱いのか、どの部分にどう投資すべきなのかといったことについて、ROIを測定しながら経営判断をしていくことにより、人材採用力を強化する。

今回は人材採用の国際標準化の全体像を説明した。インターネットで検索すると、人材採用のメトリックの数の多さが認識できる。次回のコラムでは、数多い人材採用メトリックの中で企業が最低限活用すべき主要なメトリックについて解説する。
人材採用の国際標準化 編集部によるまとめ
岩本隆先生コラムより編集部作成
※ISO/TC 260 - Human resource management(https://www.iso.org/committee/628737.html)
【執筆者プロフィール】
岩本 隆先生お顔写真

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、デジタル田園都市国家構想応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。