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【第3回】COVID-19で重要性が高まる従業員エンゲージメント─WorkTechとニューノーマル

岩本隆 2021.05.18

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【第3回】COVID-19で重要性が高まる従業員エンゲージメント─WorkTechとニューノーマル
コロナ禍によるリモートワークで、多くの国では生産性が上がっているのに対し、日本では生産性が下がる傾向が見られ、従業員の自律性が低いことが示唆されています。諸外国では従業員エンゲージメントの向上が急務とみなされており、同分野でのクラウドアプリケーション市場が急成長しています。海外企業との比較により浮かび上がる日本企業の課題と先進的な企業の取り組みについて、WorkTech研究の第一人者である慶應義塾大学大学院 特任教授の岩本隆先生にお話しいただきました。(マスメディアン編集部)
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の広がりによりリモートワークが常態化している。2020年にオラクル・コーポレーションとWorkforce Intelligence社が共同で実施した日本の1000人を含む11カ国(米国、英国、アラブ首長国連邦、フランス、イタリア、ドイツ、インド、日本、中国、ブラジル、韓国)、1万2000人以上の従業員、マネージャー、人事部門リーダー、経営幹部を対象とした調査によると、コロナ禍によるリモートワークで、多くの国では生産性が上がっているのに対し、日本では生産性が下がる傾向がみられた(*1)。生産性が上がる傾向にある多くの国では、従業員が自律的に働く企業文化があるのに対し、日本では従業員の自律性が低いことが示唆される。特に、新卒一括採用した従業員を社内で育成する日本企業では、新卒入社した従業員の自律性を、リモートワークをしながら育むことに苦労をしている。

新卒入社した従業員を含めすべての従業員の自律性を高めることがニューノーマルな働き方では急務となっており、そのためには、従業員エンゲージメントを高めることの重要性が高まっている。従業員エンゲージメントは1990年代前半に提唱された概念で、従業員と企業とが、対等に、コミットし合う関係性のことであるが、多くの国で、従業員エンゲージメントが企業の持続的成長に与える影響について研究が進められている。例えば、英国では、2008年から英国政府主導で従業員エンゲージメントの企業の持続的成長への影響についての研究が行われており、多くのエビデンスが蓄積されている(*2)。

昨今のテクノロジーの進化により、パルスサーベイ(心臓のパルス(鼓動)のように頻繁に実施するサーベイ)ができるようになり、かつ、サーベイ結果の分析にAI(人工知能)などを活用することで高付加価値化できるようになった。パルスサーベイは従業員エンゲージメントを測るためにも活用されており、従来は年に1回程度しか実施しなかった従業員エンゲージメントサーベイを頻繁に実施することができるため、「従業員エンゲージメントサーベイ」→「従業員エンゲージメントに関する重要課題の抽出」→「重要課題解決のアクション」→「結果の測定」のサイクルを高頻度で回すことができるようになった。このサイクルの高頻度化により従業員エンゲージメントを効率的・効果的に高めることができるようになり、この数年、従業員エンゲージメントのクラウドアプリケーション市場が急成長している。

2017年にギャラップ社が発表した「従業員エンゲージメントサーベイ」の結果によると、日本企業はエンゲージメントの高い「熱意あふれる従業員」の割合が6%で、調査した139カ国中132位と最下位レベルだった(*3)ため、COVID-19が広がる以前からの従業員エンゲージメントを高めることは日本企業の大きな経営課題ではあったが、COVID-19による生産性の低下が、日本企業が従業員エンゲージメント向上への取り組みを加速させている。2020年9月30日に経済産業省が公表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会~人材版伊藤レポート」(*4)においても、ソニー、中外製薬、サイバーエージェントなどの従業員エンゲージメント向上の取り組み事例が紹介されるとともに、経営における従業員エンゲージメントの重要性が指摘されている。

2020年6月15日に設立された「中小企業の生産性革命を実現する議員連盟」でも、WorkTechの一つである従業員エンゲージメントのクラウドアプリケーションの事例やクラウドアプリケーションを活用して従業員エンゲージメントを高め持続的成長を実現した事例などが紹介され、従業員エンゲージメントの活用促進策について議論された。2021年4月20日に開催された第3回総会では、「従業員エンゲージメントを活用した持続可能な企業価値向上のための提言」が決議され、以下の提言がまとめられた。

(1) 大企業向け施策1:従業員エンゲージメント銘柄の創設
(2) 大企業向け施策2:ISO 30414に準拠した日本版人材情報開示ガイドライン策定
(3) 中小企業・小規模事業者向け施策:従業員エンゲージメント活用ガイドライン策定

ISO 30414とはISO(国際標準化機関)の人材マネジメントのTC (技術委員会)であるISO/TC 260で開発された人的資本のレポーティングの標準で、タイトルは「Human resource management - Guidelines for internal and external reporting」であり、企業内部や資本市場、労働市場など企業外部への人的資本レポーティングのガイドラインがまとめられている。ISO 30414では、合計58のメトリック(測定基準)において人的資本を定量化する計算式が定義されており、企業の経営戦略に合わせて重要なメトリックを抽出し、どのメトリックがROI(投資利益率)にどう影響を与えるかを導き出しレポーティングする。58のメトリックの中でも特に従業員エンゲージメントのメトリックはROIへの影響という観点では中心に据えられるメトリックである。


*1:https://www.oracle.com/jp/corporate/pressrelease/jp20201104.html
*2:https://engageforsuccess.org/
*3:https://www.gallup.com/workplace/238079/state-global-workplace-2017.aspx
*4:https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/pdf/20200930_1.pdf
【執筆者プロフィール】
岩本 隆(いわもと たかし)

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より、慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、「HRテクノロジー大賞」審査委員長などを兼任。