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【第2回】潜在的フリーランスの活用による経済成長─WorkTechとニューノーマル

岩本 隆 2021.04.20

  • 働き方改革
  • HRテクノロジー
【第2回】潜在的フリーランスの活用による経済成長─WorkTechとニューノーマル
アメリカなど海外のフリーランス人口が多い国々では、事業者とフリーランスとを効率的にマッチングするサービスが急成長しています。同分野の最大手企業の1社であるUpworkは、2024年までに世界の働き手の30%がリモートワーカーになると予測しており、フリーランス市場もそれに伴う拡大が見込まれます。日本でもニューノーマルな働き方の定着は重要なテーマで、政府は副業・兼業やフリーランスの環境整備に積極的に取り組んでおり、WorkTech研究の第一人者である慶應義塾大学大学院 特任教授の岩本隆先生も政策提言の議論に参加されています。連載第2回の今回は、諸外国と日本のフリーランスの環境整備の現状と問題点について執筆いただきました。(マスメディアン編集部)
2020年7月17日に閣議決定された成長戦略実行計画の中で、新しい(ニューノーマルな)働き方を定着させることが重要なテーマとして取り上げられ、兼業・副業やフリーランスの環境整備に取り組むことが計画された。フリーランスについては、多様な働き方の拡大、ギグ・エコノミー(インターネットを通じて短期・単発の仕事を請け負い、個人で働く就業形態)の拡大による高齢者雇用の拡大、健康寿命の延伸、社会保障の支え手・働き手の増加などに貢献することが期待されている。

その計画を受けて、2021年3月26日に、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働者の四者により「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」が公表され、フリーランスが安心して働けるように、事業者とフリーランスとの取引について、独占禁止法、下請代金支払遅延等防止法、労働関係法令を適用される。独占禁止法は、取引の発注者が事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されることから、事業者とフリーランス全般との取引に適用される。下請代金支払遅延等防止法は、取引の発注者が資本金1000万円超の法人の事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されることから、一定の事業者とフリーランス全般との取引に適用される。労働関係法令は、フリーランスとして業務を行っていても、実施的に発注事業者の指揮命令を受けていると判断される場合など、現行法上「雇用」に該当する場合に適用される。

米国など海外の先進国では、フリーランス人口が日本に比べて桁違いに多く、事業者とフリーランスとを効率的・効果的にマッチングするWorkTechのクラウドアプリケーションのビジネスが急成長している。図表1にフリーランスのクラウドアプリケーションで売上高世界トップ企業のUpworkの売上高推移を示す。この数年、年率18~26%で売上高が成長しており、急成長市場であることがわかる。Upworkは、2020年度の実績で、約14万5000社の企業に対して仕事とフリーランサーとのマッチングを実現している。リモートワーカーの増加とともにフリーランサーも増加しており、Upworkの分析によると、2024年までには、世界の働き手の30%がリモートワーカーになると予測しており、その動きに伴ってフリーランスの市場は益々大きな成長が見込まれる。
図表1
図表1. Upworkの売上高推移
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」はフリーランスを守る意味では重要な施策であるが、それに加え、フリーランスに関わる産業を大きくする施策も必要であると鑑み、WorkTechの日本市場が海外市場並みに大きく成長することを期待して、2020年9月9日に日本パブリックアフェアーズ協会から『ポスト・コロナ社会におけるニューノーマルな働き方~「WorkTech×フリーランス」がもたらす潜在的労働力活用と経済成長~』というタイトルの政策提言レポートを出版した(*1)。このレポートでは、「フリーランスやクラウドソーシングの存在を知らない」、「発注の前提となる依頼業務の整理ができない」、「納品物のクオリティに不安があるため発注を躊躇してしまう」という発注者側の課題と、「フリーランスという働き方が選択肢として一般的ではない」、「フリーランスをは保護するセーフティネットが足りない」という受注者側の課題を解決するために、以下の2点について提言を行った。
 
1.  発注事業者及び準発注型の仲介事業者に対する認証制度の創設
2.  フリーランス等の活用を促進する発注事業者向け啓発活動の強化
 
「中小企業の生産性革命を実現する議員連盟」が本レポートに関心を示し、2021年3月23日に開催された本議連の第2回総会でWorkTechによる潜在的フリーランスの活用と経済成長についての政策について議論された。本総会には筆者に加え、WorkTechのサービスを提供する事業者とWorkTechのサービスを活用する事業者も参加し、以下の要望についても議論された。
 
●  「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」は最低限の法令遵守で、実際にはさらに高度な取組みが必要であり、そういった高度な取組みを行っている事業者への優遇措置を行うこと
●  下請代金支払遅延等防止法では資本金1000万円以下の企業は対象外になっているが、資本金1000万円以下の企業もフリーランスを活用する事業者となるため、資本金の条件を外すこと
●  ガイドラインを遵守している事業者かどうかの判断がフリーランサーからはできないため、フリーランサーがガイドラインを遵守している企業を評価し判別できるようにすること
●  就労資格の確認や所得税法上の源泉徴収義務なども網羅すること

フリーランス市場の活性化は日本経済にとっても大きなインパクトとなるため、産業視点での政策の検討も進むことを期待する。



*1:https://www.j-paa.or.jp/policyproposal/401
【執筆者プロフィール】
岩本 隆(いわもと たかし)

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より、慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、「HRテクノロジー大賞」審査委員長などを兼任。