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マネージャーと組織も育つ。事業貢献とスキルの2軸で伸ばすクリエイターの人事評価制度

マスメディアン編集部 2023.12.19

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マネージャーと組織も育つ。事業貢献とスキルの2軸で伸ばすクリエイターの人事評価制度
サイバーエージェントのメディア事業部では、メディアごとにデザイナーが所属する体制を取り、「事業貢献」とメディア事業部横断の「技術成長」の2軸でクリエイターの評価をしています。評価制度の設計に携わった同社クリエイティブマネージャーの井上辰徳さんに制度の詳細やフィードバックのポイントについてお話を伺いました。

企業データ

【企業名】株式会社サイバーエージェント
【代表者】代表取締役 藤田晋
【設立日】1998年3月
【社員数】6337名(連結/2022年)
【事業内容】メディア事業、インターネット広告事業、ゲーム事業、投資育成事業
 

クリエイターに関する組織体制

──クリエイティブ組織の概要
サイバーエージェントには現在、1000名を超える規模のクリエイターがいます。社内の部署の構成は、まず、メディア事業、インターネット広告事業、ゲーム事業といった事業ごとに分かれています。クリエイターは、各サービスの専任として、事業・部門別に所属しています。

また、社長室直下には、クリエイターに関わるマネジメントやガバナンス整備を担う全社横断組織「CA Creative Center(CCC)」があります。クリエイターの評価制度は、このCCCの管掌です。

──井上さまのポジションと役割
現在は、CCCと、FANTECH(ファンテック)本部の2つの部門に所属しています。CCCにはおよそ5年在籍していて、主な担当はメディア事部所属のクリエイターのマネジメントです。また、FANTECH本部では、デザイン室のマネージャーとして、所属するデザイナーのマネジメントや制作物のクリエイティブディレクションを行っています。

今回は、メディア事業部所属のクリエイターをマネジメントする上で、私たちが設計したデザイナーの評価制度についてご説明します。

メディア事業部門に所属するクリエイターの人事評価制度

──メディア事業部のクリエイティブ組織
メディア事業部は、「ABEMA(旧・AbemaTV)」や「Ameba」、「タップル」などのサービスごとに部門が分かれており、サービス別にクリエイターが所属しています。総勢、約100名のクリエイターがメディア事業部にいます。職種としては、クリエイティブディレクター、アートディレクター、デザイナー、映像ディレクターなどです。
クリエイティブマネージャー 井上辰徳さん
──目標設定と評価の仕組み
個人の目標は、(1)事業貢献と(2)技術成長の2軸で定めます。評価は、この両軸の達成度で総合的に決まります。

(1)事業貢献
事業貢献の面での目標設定には、OKR(Objectives and Key Results:目標と成果指標)を利用している部門が多いです。例えば、「MAUを5%上げる」という目標があった場合、各メンバーは、その目標に自分がどう貢献するか、具体的な行動を決めます。例えば「アプリのトップページのUIを改善する」などですね。また、評価の際には、「実行したかどうか」ではなく、「その結果、どのような影響があったか」を確認します。目標は、80%、100%、120%など達成度ごとに設定します。適切なストレッチ目標になるよう、本人とマネージャーとで目標設定を行います。

(2)技術成長
事業貢献のために必要なスキル・マインドについて、そのプロセスや完成度の面から目標を立て、評価するのが技術成長の目標です。スキル・マインドの指標としては、グレードごとに求められる「職能(職務を果たすための能力を示すもの)」と「職務(担当するミッション)」を定義した「キャリア指標(キャリアアップを目指すためのキャリア開発プラン)」を社内で公開しています。

メディア事業部で使用しているキャリア指標は7段階で、グレード3で一人前、つまり本人が自分の判断で動けることを基準としています。メディア事業部には映像クリエイターやUIデザイナーなどさまざまな職種のクリエイターがいますので、どの職種でも自分ごととして使えるように、やや抽象的で汎用性が高い記載内容になっていますが、「技術専門性」「課題解決能力」「メンバーシップ」が軸となるのは共通です。

目標に対する評価や上位グレードへの昇格は、半年に1回、各マネージャー間でメンバーへの評価の目線を合わせる「キャリブレーション会議」で行っています。また、キャリア指標に関しても定期的な見直しを行なっています。

──評価の流れ
まずは各メンバーが自分で目標設定をします。このときは、キャリア指標を参照しつつ、フォーマットの決まった「目標シート」を使用します。評価は半年に1回、この目標の達成度について振り返りをし、自己評価と直属の上司からの評価をすり合わせます。その後、事業部内のマネージャーが集まって「キャリブレーション会議」を実施し、部門内で評価のばらつきや評価基準のブレがないかを確認します。

──フィードバックの工夫
フィードバックの工夫として、マネージャーは、部下に必ず「お手紙」を渡しています。お手紙とは何かというと、各メンバーの半期ごとの「良いところ」と「今後の期待」をだいたい3行程度で、簡潔にまとめたもの。テキストデータとして共有する人もいれば、中には手書きのメッセージで送る人もいます。重要なのは、必ずテキストで残すこと。「あなたのことをちゃんと見ていますよ」という気持ちを伝えるためのものでもあるからです。口頭で伝えると内容を忘れてしまう可能性もありますしね。

これは当社CHOの曽山が始めたものを、クリエイター組織向けにアレンジした仕組みです。私も上司からもらうのですが、文章で残っていると、1年、2年という長期間での振り返りができるので、成長を感じることができます。また、直属の上司以外にも、関わったプロジェクトの責任者からもらうこともあって、自分の仕事を、周りの人がきちんと見てくれているのだと実感できます。

導入理由、作成プロセス、反響

──評価制度の導入理由
私が入社した2011年当時は、まだしっかりした評価制度がなくて、目標設定のやり方もバラバラでした。クリエイターが生み出す価値には、定量化しづらいという課題もありましたが、評価基準とは、それ自体が「どのようなクリエイターを目指しているか」を示す会社からのメッセージでもあります。組織を大きくしていくためにはそれが必要だと思い、制度の整備を始めました。

──評価制度の策定方法
この評価制度は、CCCの発足時に全社基準として使えるものを目指して起案しました。当時、私がデザイナーに必要なスキルを27種類に分類して、そのフレームを社内に広めていた(*1、2)こともあり、そのエッセンスを入れ込みながらつくりました。

そもそもスキルの分解をしようと考えたのは、多くのデザイナー、特に新卒メンバーが、組織において求められていることや、自分の課題点がわかっていないように見えたからです。それで、まずは各自がスキルの現在地を知るための物差しとして、必要なスキルを可視化しました。これができたことで、誰にでもわかりやすく、「良いところ」と「今後の期待」をセットでフィードバックできるようになりました。

──評価制度の導入当時の反響
当初は評価基準におけるスキル目標を具体的に提示していたので、「自分の業務に当てはまらない」と悩む人や、事細かに実行しようとするあまり目標に書かれていることしかしなくなってしまう人もいました。それでは本末転倒です。そのため、今はあえて抽象度の高い言葉を用いて、余白を取っています。その余白の中で自分に求められる行動はどんなものか、デザイナー自身が自らの役割について考えるのは、成長のために必要なことです。

──評価制度を導入して良かった点
一人ひとりの成長ですね、やはり。特にマネージャーが成長したという実感があります。フィードバックの仕方や、部下の個性に合ったマネジメントの仕方を、各々が考えるようになりました。また、以前はマネジメントに興味があるデザイナーが少なくて、キャリブレーション会議でも発言が少なかったのですが、今では活発に議論が交わされるようになってきました。また、以前は若手の育成にはシニア層だけが関わっていたのですが、最近はミドル層にも任せられるようになってきて、組織の仕組みとしての成熟を感じます。

今後の課題

──今後の課題
UI/UXから、グラフィックや映像のディレクションなど、社内のクリエイターの職域はどんどん広がっています。また、現在は社内に限らず、デザイナーの働き方やものづくりの仕方が変わりつつある局面だと思います。例えば、生成AIの普及によって、デザイナーの役割は、自分で手を動かすよりも、ディレクション・プロデュースする役割の比重が大きくなっていくだろうと思います。また、制作以外においても、事業戦略や経営戦略などさまざまな職域や知識を組み合わせ、キュレーションする能力が求められるかもしれません。クリエイターの仕事の重心、クリエイティビティが発揮される場所の変化に合わせて、評価指標をブラッシュアップしていきます。

*1:「デザイナーが伸び悩まないためのスキル18分類【基礎スキル編】」https://developers.cyberagent.co.jp/blog/archives/4875/
*2:「デザイナーが伸び悩まないためのスキル18分類【標準スキル編】」https://developers.cyberagent.co.jp/blog/archives/5038/


※2023年9月に取材した内容を掲載しています。