マーケティング・営業戦略・広報・宣伝・クリエイティブ職専門の採用支援はマスメディアン【宣伝会議グループ】

  • HOME
  • ナレッジ
  • フェアネス重視のクリエイターの人事評価制度を構築し、高い納得感を醸成

フェアネス重視のクリエイターの人事評価制度を構築し、高い納得感を醸成

マスメディアン編集部 2023.11.17

  • 採用ノウハウ
フェアネス重視のクリエイターの人事評価制度を構築し、高い納得感を醸成
SPEEDAなどのサービスを提供するユーザベースのデザイン組織「SaaS Design Division」では、メンバーが相互で評価し合い、高い納得感を醸成する独自の人事評価制度を構築・運用しています。執行役員 SaaS事業CDOの平野友規さんに、具体的な制度の内容や、導入に至った背景、現在の課題などについて伺いました。

企業データ

【企業名】株式会社ユーザベース
【代表者】稲垣 裕介、佐久間 衡
【設立日】2008年4月1日
【社員数】1134名(2023年1月1日時点)
【事業内容】
企業活動の意思決定を支えるビジネス情報インフラの提供
・SPEEDA:ビジネスにおける情報収集・分析を効率化する経済情報プラットフォーム
・NewsPicks:ビジネスのニュースを楽しむ、ソーシャル経済メディア
・INITIAL:スタートアップの情報をワンストップで取得できるプラットフォーム
・FORCAS:受注しやすい顧客がわかる、営業DXソリューション
 

デザイン組織「SaaS Design Division」について

──「SaaS Design Division」の概要、チーム編成
「SaaS Design Division」は、当社のBtoB SaaS製品のデザインを担当する部門です。2020年4月にできた組織で、対外的には「DESIGN BASE」と呼んでいます。

所属人数は21名で、現在は6チームに分かれています。
ユーザベース SaaS Design Division チーム一覧
まず、「SPEEDA」「FORCAS」「INITIAL」などプロダクトごとの4チーム。それから、プロダクトの共通基盤となるフロントエンドやデザインシステムの管理を担当するデザインエンジニアチーム。そして、全社の広報・マーケティングに関わるデザイン制作をするコーポレートデザインチームです。コーポレートデザインチームは2022年12月に、全社のマーケティングチームから部署ごと移管してきた部署なので、役割が少し異なります。

職種はチームごとにおおよそ分かれており、プロダクト別チームに所属するのは、主にUIデザイナーとBX(Brand Experience)デザイナー。デザインエンジニアチームにはフロントエンドエンジニアが、コーポレートデザインチームにはBXデザイナーが在籍しています。

BXデザイナーの役割は、担当プロダクトに関するUI以外のあらゆるデザインをすることです。アウトプットは多岐にわたります。例えば、ブランドアイデンティティをはじめ、サービスサイトやWebセミナーのバナー、展示会ブース、ホワイトペーパーや営業資料まで制作します。

ただ、クロスセルを強化するという会社の方針や、縦割りになっている職種間の連携を強めたいというねらいもありますので、近いうちに機能別組織(職種別組織)に変えていく予定です。

──部署のビジョン・ミッション
私たちSaaS Design Divisionでは、「DESIGN FORWARD」というビジョンを掲げています。そこには、デザイナーとして「プロジェクトをけん引する」、「デザインのアウトプットでプロジェクトを引っ張っていく」というデザインの力を信じて、SaaSビジネスを支え、エンパワーすることに挑戦しようという思いを込めています。

人事評価制度について

──評価制度の概要
当社では評価ではなくフィードバックと呼んでいます。フィードバックは、四半期ごとに行います。

詳しくは後述しますが、当社の評価制度で最も重視しているのは「公正さを感じられること」です。そのために、メンバーの協議によって、一人ひとりの評価を決めています。その議論をするためには、統一的な評価基準が必要です。まずはその評価基準と、評価のために用いるツールの説明をします。

ユーザベースでは、全社共通で、「コンピテンシーテーブル」に基づいてタイトル(役職)が定められています。
コンピテンシーテーブル
ユーザベース SaaS Design Division「評価制度と給与」より
タイトルはJ(Junior Member)/M(Member)/L&P(Leader & Professional)に分類され、全部で7段階。各タイトルはさらに3つに細分化されます。例えば、「M4」のメンバーのうち、基準を80%程度満たしている方は「M4-1」、基準を100%満たしている方は「M4-2」というタイトルになります。給与は、タイトルと連動します。

SaaS Design Divisionでは、この「コンピテンシーテーブル」をデザイナー向けに噛み砕いた指標「コンピテンシークライテリア」を作成しています。各タイトルに求められる能力を、デザイナーが理解・自分ごと化しやすいように具体的に定義したものです。
コンピテンシークライテリア
コンピテンシークライテリア(一部)「フェアネスを『感じる』デザイナー評価の描き方」(平野さん制作)より抜粋
コンピテンシークライテリアでは、「デザインディレクションの力」「デザインツールの力」「プロジェクトマネジメントの力」といった、デザイナーが実務上求められる能力ごとに項目を立て、項目ごとに各タイトルの到達目標を定めました。例えば、「M3」に求められる「デザインディレクションの力」は、「デザイナーに対して、制作物の意図を分かりやすく説明することができる。」です。評価の際には、これらの基準をどのくらい満たしているか?を考えていきます。

タイトルが「M5」までのメンバーの評価はデザイン部署内で決め、CDOである私が最終判断をします。タイトルが決定するまでの流れは以下の通りです。

(1) メンバーは、各四半期の成果や成長した点をまとめたポートフォリオを作成する。
(2) SaaS Design Divisionの全員に対して、ポートフォリオを用いて10分程度のプレゼンを行う。
(3) プレゼンを聞いた人は、所定のメンバーへのフィードバック(360度評価)を記入する。このとき、「コンピテンシークライテリア」を参照しながら、一人ひとりの各コンピテンシーの達成度を記入する。この点数により、タイトルが仮で決まる。
(4) シニアデザイナー(「M5」)以上が参加する「フィードバック協議会」を開き、一人ひとりの評価やタイトルが適切か、メンバー間での評価のばらつきがないかを確認する。
(5) マネージャーとメンバーが、フィードバック面談を実施する。
フィードバックサイクル
ユーザベース SaaS Design Division「評価制度と給与」より
「L6/P6」以上のマネジメント層は、また別のフローになりますが、今回は割愛します。

──四半期ごとに制作するポートフォリオ
ポートフォリオに盛り込む内容は、次の4点です。
(1) 評価対象期間(四半期)の制作物と制作過程、自分が果たした役割
(2) コンピテンシークライテリア上で、成長した点と伸び悩んだ点
(3) 1年後の理想の姿
(4) 「My DESIGN FORWARD」

(1)と(2)は各四半期での実績を知るための項目、(3)と(4)は本人の成長目標や志向に合わせてフィードバックをするための項目です。担当プロダクトが違ったり、同じプロジェクトに参加したことがなかったりと、同じデザイン部署内にいても、仕事ぶりや考え方を互いに知らないメンバーもいます。360度フィードバックをつけるときのため、また「フィードバック評議会」で参考にするために、このような項目を盛り込んでいます。

「My DESIGN FORWARD」は、SaaS Design Divisionのビジョン「DESIGN FORWARD」、つまりデザインの力を使って事業やプロジェクト、チームを引っ張っていくというデザインチームの理想像に基づくものです。自分がデザインの力によって物事を一歩前に進めた経験や、デザイナーとして成長できたことを書く項目です。

ポートフォリオは先述の通り、フィードバックの参考資料ですが、メンバー一人ひとりが自分の目標や組織のビジョンを定期的に振り返り、仕事に活かしてもらうためのものでもあります。

──360度フィードバックの方法
私たちの部署では全社共通のフィードバックシートと、部署独自に運用しているフィードバックシートがあります。全社共通のシートは部署全員に、部署独自のシートは主に同じ職種の人に対して記入します。

流れとしては、まず、全員分の前回のフィードバックシートを、全員に配付します。そして、プレゼンテーションを見て、コンピテンシーの観点ごとに、コンピテンシーテーブル上でどこに位置するかをアンケートフォームで回答します。例えば、Aさんは「デザインディレクションの力」は「M3」相当だけど、「デザインコミュニケーションの力」は「M4」に達している、といった評価の付け方ですね。

この評価により、次の四半期でのタイトルが仮で決まります。そして、そのタイトルが本当に適切なのかをフィードバック協議会で確認します。

──フィードバック協議会の運営
協議会の参加者はシニアデザイナー(M5=リーダー候補以上のタイトルのデザイナー)です。

まず、先述の360度評価の回答を集計して、全員の平均や職種別の平均、シニア層の平均などの数値を出し、これまでの平均値と比べて偏っていないかを確認します。次に、一人ひとりの評価について、「本当にこの人の働きは、このタイトルにふさわしいのか」という観点でチェックします。ポートフォリオやプレゼンの内容に基づき、実際の貢献度や成果がどうだったのか、上長や同じプロジェクトに参加していた人にヒアリングをし、360度評価での結果との誤差がないかを確かめます。

このときの基本的な考え方は「代入」です。つまり、コンピテンシークライテリアに書かれた内容を、実務の中で実行しているのかどうかです。例えば、「リサーチの力」については、「M4」に求められるのは「伴走者に相談しプロジェクトに関するリサーチができる」ことだと定義しています。ポートフォリオを見て、(1) どのプロジェクトに参加したのか、(2) 伴走者(上長やプロジェクトリーダー)は誰だったのか、(3) どんなリサーチを行ったのか、(4) その結果、どんなアウトプットをしたのか……という現実の事象を代入していきます。タイトルの決定には、最低でも一人30分、平均40~50分はかかります。

制度設計にあたって

──この評価制度を導入した理由
SaaS Design Divisionができた当初の2020年頃は、私一人で全員の評価をしていました。ただ、会社も組織も大きくなる中で、「私の仕事をきちんと見てくれていない」「評価が平等でない」という不満が出てきて、トラブルも起きました。それで、できるかぎりフェアで納得感がある評価制度にしたい、そのためにはメンバー同士の相互評価が必要だと思ったのがきっかけです。

作成にあたっては、元クックパッドのデザイン戦略部 部長(現:KRAFTS&Co. 代表・デザインストラテジスト)の倉光美和さんに定期的にご相談をしていました。

──ポートフォリオを利用する理由
ポートフォリオを作成してもらうのは、3つの理由があります。

(1) ユーザベースで働くことで、デザイナーとしてのマーケットバリューの向上が目に見える状態にしたい。
これは私個人の考えなのですが、ユーザベースで働くことが、メンバーそれぞれが目指す地点につながる道になるといいと思っています。やりたいことがユーザベースでできるのならユーザベースで働いてほしいですし、そうでないなら卒業を選ぶでしょう。自分のスキルや目標をポートフォリオとして3カ月に1回まとめていれば、これまでの成長や、目標に向かって進めているかどうかを確認できます。

(2) 目立たない貢献を目に見える形にしたい。
自律性が高い組織である分、「縁の下の力持ち」的な仕事ほど、周囲からは見えづらくなります。例えば、社内のトップ営業のために営業資料をつくっているメンバーがいたのですが、一人の営業だけが使う資料のたった1ページの話だったので、Design Divisionの誰も知らなくて。でも、ポートフォリオ発表で初めてそれを見たとき、難解な話をわかりやすい図解にまとめているし、営業にも絶賛されていて、会社に貢献している仕事だとすぐにわかりました。このような発見ができることは大きなメリットです。

(3) デザイナー一人ひとりに、自分の作品を大事する気持ちを持ってほしい。
ある有名なデザイン事務所の方が、「面接で自分のポートフォリオを丁寧に扱わない学生は採用しない」というお話をしていたことがありました。それくらいポートフォリオは大事にするべきということ。当社での制作物は事業の成長のためのものではありますが、各デザイナーの作品でもあります。定期的に発表する場を持つことで、それに誇りを持ってほしいと思っています。
ユーザベース SaaS事業部 CDO 平野友規
──評価制度の設計にあたり、特に重視した点
みんなが納得できることですね。そのために、フェアネス(偏っていないこと、公正であること)をみんなが感じられる制度になるよう努めています。

現在は、評価制度に課題感を感じているメンバー2名が自主的にワーキンググループをつくり、ブラッシュアップを進めてくれています。先述の「ポートフォリオに盛り込む4点」もそのワーキンググループが整理し、提案してくれたものです。評価制度そのものにも意見が反映されているためか、SaaS Design Divisionのフィードバックへの納得度は、全社平均よりも高いです。

今後の課題

──現在の課題
課題は2つあります。

(1) ポートフォリオの準備に時間をかけすぎること。
ポートフォリオそのもののクオリティはフィードバックに反映しないと明言しており、先ほどのワーキンググループがポートフォリオ制作のガイドラインをつくってくれましたが、デザイナーなのでこだわりたくなってしまうメンバーも多くて。もっと簡略化できたらと考えています。

(2) シニアデザイナーの評価項目と実際の仕事に乖離があること。
M5以上、つまりシニアデザイナーやマネジメント層のタイトルを決定するのは担当事業の責任者や執行役員です。また、コンピテンシーの点数だけではなく、担当事業の売り上げや期初に決めたKPIの達成度などを評価に反映します。例えばユニークユーザー数やDAU数ですね。ただ、日々の業務ではそれらを追うばかりではないので、難しさがあります。

※2023年9月に取材した内容を掲載しています。