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多様な働き方と解雇規制―元労基署監督官の社労士が解説

小菅 将樹 2023.02.14

  • 働き方改革
多様な働き方と解雇規制―元労基署監督官の社労士が解説
外資系企業・大手IT企業での大規模な解雇が話題になっています。働き方の多様化が進むなか、これからの解雇規制はどうなるのか、社会保険労務士が解説します。(マスメディアン編集部)
SNSによる身近なサービスを提供してきた巨大IT企業が、多くの社員を解雇するというニュースが話題となりました。また、大手金融や通信系の企業などが年功序列を事実上廃止し、役割給の要素を強めるという改革も進んでいます。企業の中で今何が起こっているのでしょうか。

外資系企業と内資企業の差

外資系企業においての給与は、社員の専門性や能力を重視し、成果に対する報酬という性格が強い傾向にあります。内資系企業では、企業によって違いはあるものの、年齢や経験に応じた賃金体系を敷いているところが多い印象です。

これは、外資系企業はもともと海外の企業を本社として事業展開しており、欧米などの海外における雇用の考え方が色濃く反映されているからだとも考えられます。企業が求める専門性や能力が確保されているか、という観点で雇用を見るため、これに満たない場合は雇用継続が難しく、退職金を多く支払うなどの金銭保障を講じた上で退職勧奨を余儀なくされるケースもあります。

内資系企業の場合は、年功序列、終身雇用といった日本型雇用慣行を遵守してきた企業が多いということが背景にあり、安定した雇用を確保し、採用当初から専門性や能力を重視するというよりは、相当期間をかけて人材育成を行うということが主に行われてきたというところがあります。

日本にある企業で働く以上、日本の法令が適用されるという点では同じですが、専門性や能力に重きを置くか、雇用の安定に重きを置くかで雇用に対する捉え方は変わります。前者はみなし労働やフレックスタイム制など、社員の決断力や自律が求められる働き方が多いのに対し、後者は通常の労働時間管理を基本とした働き方が比較的多いという違いも見受けられます。

解雇規制の緩和についての今後の見通しについて

日本経済発展のために、経済成長率(GDP)と関係が強い全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)を上昇させることが重要です。これは、資本や労働の量的増加ではなく、質的な成長が求められているということでもあり、能力のある人材が不足しているという現状があります。

日本型雇用慣行のもとでは、法律で雇用が守られ、長く同じ企業で働き、時間をかけて成果を出すことが行われてきました。企業が社員を解雇する場合には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められなければならず、雇用契約を途中で解除するには高いハードルが設置されてきました。人手不足を解消し、能力のある人材を確保していくには、雇用の流動性を高めることが効果的な方法の1つですが、雇用の流動性は高いとはいえない状況です。

こうした中で、役割や職務遂行に応じて賃金を支払い、経験年数に関係なく昇進する仕組みを打ち出す企業が増えました。年功序列、終身雇用という仕組みを踏襲している企業は減少し、従来の日本型雇用慣行は崩壊したといってもいい状況になっています。能力発揮や成果に対して賃金を支払う仕組みを取っているところでは、労働時間や休憩休日など、働き方は社員の判断に委ねられる幅が広いことも多いように感じます。働き続けることが第一ではなく、能力発揮に重きを置いているところが増えるということは、そうでない場合には、別の道を選んで自分が力を出せる環境で働く方がいい、という考え方もできそうです。

働き方が多様化し、働き続けることが第一優先でないという傾向が高まる中で、解雇は必ずしもネガティブなものではなく、能力発揮の機会を得るためのきっかけとして機能する、という観点からの議論も検討の余地があるといえます。具体的には、労働者保護に係る一定の規制はあるという前提で、金銭の補償を行い、解雇の規制を緩和するということが考えられます。

制度と実態のずれ

現行の労働基準法は、労働時間に応じた賃金支払いを原則としています。優秀な人材を確保し、モチベーション高く働いてもらうには、役割を果たした、能力を発揮したことに対して賃金を支払うことが効果的な方法の一つです。賃金支払いの基準が働いた時間にあるのか、生産性にあるのかで社員の働き甲斐が変わってきますし、増えつつある能力重視の人事制度と評価指標がずれてくるところはあります。もちろん、社員の健康管理は重要ですので、働きすぎやメンタル不調とならないようにするための就業状況の把握は必要だと思います。

「新しい働き方」への雇用保護の現状と今後

■ギグワーカー
単発、または短期の仕事をする人のことをいいます。好きな時間に働けることや、隙間時間を活用できるといったメリットがあります。副業として働くにも効率がいい働き方だと思いますので、働き方の多様化が進み、副業兼業が広がると、増えていく働き方でもあると感じます。ただ、この働き方を主にすると、働き方によっては雇用保険や社会保険の加入要件を満たさないこともあり、収入も不安定となりやすく、雇用が不安定になりがちであるともいえます。

■フリーランス
いわゆる個人事業主として委託先の需要に応じた仕事をすることで、報酬を得ている人のことをいいます。成果を出した分、自分の収入になるため、高額収入を得られる場合もあり、専門性を活かして好きな仕事に取り組めるなどのメリットがあります。社員として専門性を発揮できる環境を選んで働くか、フリーランスで独立して能力発揮の機会を持つかという働き方の選択肢を持つ人は増えていると感じますので、今後はフリーランスとして働く人の割合は増加すると推測されます。ただ、労働基準法などの適用がないため、全て自己責任で仕事を行う必要があり、高度の自己管理能力が求められるともいえます。

■副業社員
2箇所の勤務先と雇用契約を結んで副業をする場合には、勤務先が法令やガイドラインに沿って労務管理をする必要があります。主の仕事を正社員、副業の方を個人事業主として働くような場合は、労働者が自分で健康管理を行う範囲が広くなります。どのような雇用形態の組み合わせで働くか、どの程度の時間働くか、心身の負担度などにより、企業の許可基準が変わる可能性も考えられます。副業を認める企業は増えている印象ですので、雇用における労務管理を原則として見ていくことで、社員の健康確保にも繋がると思います。

今後、働き方はどうなるか

最近では、大手金融系の企業が新卒採用者に対し、専門性の高い人材には高額の初任給を支払うというニュースが話題となりました。相当期間かけて人材を育成し、専門性を高めるということだけでなく、早期に優秀な人材を確保しようという流れが加速化しています。広告制作会社のデザイナーにおいても、専門職として必要な能力を発揮し、成果を出すことが求められている職種です。専門性を高めながら、仕事と生活の調和を図れるような働き方が今後は増えていくと思いますし、同時に、このような働き方が機能するためには、自分で働き方を決めて実行できる人材が求められています
【執筆者プロフィール】
小菅 将樹(こすげ まさき)氏
アヴァンテ社会保険労務士事務所、アヴァンテ労働衛生コンサルタント事務所 代表
社会保険労務士、COH労働衛生コンサルタント、CSCS、NASM-PES
2000年に労働事務官として労働省へ入省し、厚生労働本省、産業医学総合研究所(現・労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所)で勤務後、労働基準監督官へ転官。福島労働局郡山署、須賀川署で監督安全衛生業務を経験し、厚生労働本省、労働保険審査会で労災関係の業務に従事した後、神奈川労働局相模原署労災課、川崎南署第4方面(監督安全業務)、神奈川労働局労働保険徴収課で勤務し2014年3月に退官。現在は各企業の顧問業務、法定教育、各種セミナー等を行う。サッカー、フットサルの競技における運動器障害や大けがの経験を経て、運動指導のトレーナーライセンスを取得。アスリートや企業で働く方等を対象に、機能改善、パフォーマンス向上へ導く運動指導を行う。
Yahoo!ニュース公式コメンテーターとしても活動中。
著書:『職長が問われる事業者責任 STOP!撲滅!労災かくし』(清文社、2021年9月)
新著『(仮称)労働災害を未然に防ぐ 全員で実現させる 建設現場の安全の 見える化』(清文社、2023年8月発刊予定)