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今こそ振り返りたい残業時間の基礎知識―元労基署監督官の社労士が解説

小菅将樹 2022.12.01

  • 働き方改革
今こそ振り返りたい残業時間の基礎知識―元労基署監督官の社労士が解説
2019年4月に導入された時間外労働の上限規制。時間外労働を抑制するため、月60時間超の時間外労働の割増賃金率は、2010年の労基法改正において25%から50%以上へと引き上げられました。適用猶予とされていた中小企業でも2023年4月から同じ割増率が適用されます。今さら聞けない残業時間管理の考え方について、そしてこうした法改正によって働き方がどう変わるのか、社会保険労務士が解説します。(マスメディアン編集部)
2023年4月から、中小企業での60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げになります。これによって働き方はどう変わるのでしょうか。

残業・時間外労働の定義

労働基準法では、労働時間は原則1日8時間、1週40時間までと定められています。この法定労働時間を超えて労働をさせた場合が、労働基準法の(法定)時間外労働です。これが割増賃金の対象になります。

残業時間の上限規制

■規制の根拠となる法律とその内容
時間外労働の上限規制は、働き方改革関連法の一環として2019年4月から施行されている改正労働基準法において、時間外労働を法律レベルで規制するというものです。中小企業では2020年4月から施行されました。

時間外労働の上限規制の概要は以下のとおりです。
・時間外労働の上限規制の目的
従来の時間外限度基準告示を法律へ格上げし、特別条項の上限を設定して罰則の適用による強制力を持たせる。
 
・上限(原則)
月45時間、かつ年360時間(1年単位変形労働時間制(3カ月を超える期間を対象期間として定める場合に限る)の場合は、月42時間、かつ、年320時間)

・臨時的な特別の事情がある場合(特別条項)
労使が合意して労使協定を結ぶ場合でも上回ることができない時間外労働を年720時間とする。この範囲内で、
1. 休日労働を含み、2カ月ないし6カ月平均で80時間以内とする。
2. 休日労働を含み、単月で100時間未満とする。
3. 原則である月45時間(休日労働を含まない)(1年単位変形労働時間制の場合は42時間)の時間外労働を上回る回数は、年6回までとする。

・適用除外等の取り扱い
1. 自動車運転業務(トラック、バス、タクシー等)(2024年4月1日から上限規制が適用され、時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年960時間(休日労働を含まない)を限度に設定する必要あり)
2. 工作物の建設等の業務(建設業)(2024年4月1日から上限規制が適用)
3. 新技術、新商品等の研究開発の業務
4. 季節的要因等により事業活動若しくは業務量の変動が著しい事業若しくは業務又は公益上の必要により集中的な作業が必要とされる業務として厚生労働省労働基準局長が指定するもの
5. 医師(2024年4月1日から段階的に上限規制が施行)

・罰則規定
「時間外労働の上限規制」に違反した会社に対しては、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」の罰則が科されることがあります。罰則が適用される場合、両罰規定に従い、直接の実行行為者(事業の責任者)のほかに使用者である法人または人(個人事業主の場合)が処罰対象になります。

■労働時間の状況把握とは?
健康管理時間のようなもので、健康確保措置を適切に実施するため、いかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものです。これは、労働安全衛生法第66条の8の3で明示されている事業者の義務であり、管理監督者や裁量労働制対象者も対象になります。ただし、高度プロフェッショナル制度対象者は除外されます。

・実態
36協定の限度時間と時間外労働の上限規制を超えて働かせたとして、茨城県常総市の企業が労働基準法第32条と36条違反で書類送検されるなど、企業の改革が浸透しきっていない状況が続いています。これは、管理者のマネジメントが足りていない、繁忙期と人出不足の事情、長時間労働を容認する風土など、いくつかの要因が考えられます。

また、長野県軽井沢町の企業が、時間外労働の上限規制を超えて働かせたとして、同社代表者が労働基準法第36条(時間外および休日労働の上限規制)違反の疑いで書類送検されたという事例があります。同社は、繁忙期の1カ月間に最長で180時間の時間外・休日労働をさせることで、月100時間の上限を超過した疑いが持たれています。1日の時間外労働についても、36協定で定めた上限7時間を超えていた疑いが持たれています。軽井沢地域は毎年7~8月が観光のハイシーズンとなり、飲食店や宿泊施設での長時間労働が増える傾向にあるといいます。繁忙期で人員と仕事量のバランスが崩れ、長時間労働になった可能性が考えられます。

■36協定が労働基準法違反対象となるケース
主に以下のケースが考えられます。
・労使で定めた36協定の上限を上回って働かせた場合
・特別条項を締結している場合で、特別条項を発動するに当たり、労使で決めた手続きを踏んでいない場合
・過半数代表者の選任要件を満たしていない場合

■実務上、必要な対応
・36協定の締結と労働基準監督署への届け出について
労働基準法では、1日および1週間の労働時間(※原則として、1日8時間・1週40時間以内)ならびに休日日数を定めていますが、同法36条の規定により時間外労働・休日労働協定(いわゆる「36協定」)を締結し、労働基準監督署に届け出ることを要件として、法定労働時間を超える時間外労働及び法定休日における休日労働を認めています

「36協定を1度提出すれば、それ以降は36協定を提出しなくても残業させてもいい。」と思われている会社もあるかもしれませんが、36協定には有効期間があり、毎年、管轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。 特に、1月や4月を起算日として、1年間の有効期間を定めている場合が多いため、残業がある会社におかれては、一度、自社の36協定の有効期間を確認し、有効期間が切れている場合には速やかに36協定届を届け出る必要があります。

■労働時間の把握について
使用者には労働時間を適正に把握する責務があります。労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たります。

例えば、参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習などを行っていた時間は労働時間に該当します。使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録することが必要です。

(1) 原則的な方法
・使用者が、自ら現認することにより確認すること 
・タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること

(2) やむを得ず自己申告制で労働時間を把握する場合
1. 自己申告を行う労働者や、労働時間を管理する者に対しても自己申告制の適正な運用等ガイドラインに基づく措置等について、十分な説明を行うこと。
2. 自己申告により把握した労働時間と、入退場記録やパソコンの使用時間などから把握した在社時間との間に著しい乖離がある場合には実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。
3. 使用者は労働者が自己申告できる時間数の上限を設けるなど適正な自己申告を阻害する措置を設けてはならないこと。さらに36協定の延長することができる時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、労働者などにおいて慣習的に行われていないか確認すること。

■賃金台帳の適正な調製
使用者は、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければいけません。

裁量労働制、みなし労働時間制を採用している場合の取り扱い

■専門業務型裁量労働制
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分などを大幅に労働者にゆだねる必要がある業務として、厚生労働省令および大臣告示により定められた19の専門業務の中から、対象となる業務を労使協定で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定で定めた時間労働したものとみなすことができます。本制度の実施により、対象労働者については、実際の労働時間と関係なく、労使協定で定めた時間労働したものとみなす効果が発生します。

制度の導入にあたっては、原則として次の事項を労使協定により定めた上で、所定の様式により、所轄労働基準監督署に届け出ることが必要です。
(1) 制度の対象とする業務
(2) 労働時間としてみなす時間
(3) 対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
(4) 対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
(5) 対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
(6) 協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい)
(7) (4)および(5)に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間およびその期間満了後3年間保存すること

■企画業務型裁量労働制
事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析等の業務であって、業務の性質上これを適切に遂行するには、その遂行方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行の手段や時間配分の決定などに関し、使用者が具体的な指示をしないこととする業務で、所定の要件を満たした場合には、労使協定で定めた時間労働したものとみなすことができます。

本制度を実施することにより、対象労働者については、実際の労働時間と関係なく、決議で定めた時間労働したものとみなす効果が発生します。本制度を実施するためには、労使委員会を設置し、そこで、所定の事項を委員の5分の4以上の多数による議決により決議し、所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要です。

・労使委員会の要件
労使委員会は、労働条件に関する事項を調査審議することなどを目的とする委員会で、次の要件を満たす必要があります。
(1) 委員の半数が、過半数労働組合(これがない場合は過半数代表者)に任期を定めて指名されていること。
(2) 委員会の開催の都度、議事録を作成し、3年間保存すること。
(3) 議事録を、作業場の見やすい場所への掲示、備付けなどによって労働者に周知していること。
(4) 委員会の招集、定足数、議事その他労使委員会の運営について必要な事項を規定する運営規程を策定すること。
(5) (4)の規定の作成・変更について、委員会の同意を得なければならないこと。
(6) 委員会の委員であることなどを理由として不利益な取り扱いをしないようにすること。

・届出・定期報告
労使委員会の決議を所轄の労働基準監督署長に届け出るとともに、当分の間、その決議が行われた日から6カ月以内に1回、対象者の労働時間の状況、健康・福祉を確保する措置の実施状況について所轄の労働基準監督署長に報告しなければなりません

・労働時間の把握について
裁量労働制の対象となる労働者に対する使用者の労働時間の把握義務はありません。ただし、事業者は、労働者の健康管理を行う義務を負っていることから、裁量労働制の対象者に対しても、労働安全衛生法に基づく労働時間の状況(いかなる時間仕事に関わったかを指し示す時間のこと)を把握する義務はあります。

■事業場外労働のみなし労働時間制
営業職など専ら事業場外で労働する労働者には、使用者の具体的な指揮が及ばず、労働時間の算定が困難な業務については、
(1) 原則として、その業務に要する労働時間を所定労働時間とみなす。
(2) その業務を遂行するためには、通常、所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合には、その業務に通常必要となる時間労働したものとみなす。
ことができます。

上記(2)の場合に、労使協定で定めた時間があれば、労使協定で定めた時間とすることができ、この時間が法定労働時間を超える時は、所轄労働基準監督署へ届け出なければいけません。なお、事業場外労働のみなし労働時間制の対象労働者も、休憩、法定休日に関する規定や深夜業の割増賃金の規定は、原則どおり適用されます。

今後の見通し

労働時間の状況を客観的に把握することを企業に義務付けたことにより、裁量労働制の労務管理は難しくなりました。また、在宅勤務やテレワークの機会が増え、みなし労働時間制を適用して働くことも増えています。

以下の要件をすべて満たせば、在宅勤務でも事業場外みなし労働時間制の適用が可能になります。
(1) 業務が自宅で行われること
(2) パソコンが使用者の指示で常時通信可能な状態となっていないこと
(3) 作業が随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと

今後は、職務・成果に重きを置いた賃金制度、変形労働時間制とフレックスタイム制を活用した柔軟な働き方の増加、仕事だけでなく、生活との調和が可能な働き方へのシフトが考えられます。そして、同時に、労働基準法等の適用を受けない業務委託契約などの契約形態で個人事業主として働くケースが増えると推測されます。
【執筆者プロフィール】
小菅 将樹(こすげ まさき)氏
アヴァンテ社会保険労務士事務所、アヴァンテ労働衛生コンサルタント事務所 代表
社会保険労務士、COH労働衛生コンサルタント、CSCS、NASM-PES
2000年に労働事務官として労働省へ入省し、厚生労働本省、産業医学総合研究所(現・労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所)で勤務後、労働基準監督官へ転官。福島労働局郡山署、須賀川署で監督安全衛生業務を経験し、厚生労働本省、労働保険審査会で労災関係の業務に従事した後、神奈川労働局相模原署労災課、川崎南署第4方面(監督安全業務)、神奈川労働局労働保険徴収課で勤務し2014年3月に退官。現在は各企業の顧問業務、法定教育、各種セミナー等を行う。サッカー、フットサルの競技における運動器障害や大けがの経験を経て、運動指導のトレーナーライセンスを取得。アスリートや企業で働く方等を対象に、機能改善、パフォーマンス向上へ導く運動指導を行う。
Yahoo!ニュース公式コメンテーターとしても活動中。
著書:『職長が問われる事業者責任 STOP!撲滅!労災かくし』(清文社、2021年9月)
新著『(仮称)労働災害を未然に防ぐ 全員で実現させる 建設現場の安全の 見える化』(清文社、2023年8月発刊予定)