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【第2回】事業成長に寄与するインハウスクリエイティブ組織とは?─freee株式会社

マスメディアン編集部 2020.12.09

  • インハウス
【第2回】事業成長に寄与するインハウスクリエイティブ組織とは?─freee株式会社
商品やサービスがすぐにコモディティ化する昨今、企業は競争を勝ち抜くために、ブランド力を強化し、顧客とのコミュニケーションを重視するようになりました。こうした背景から、自社の事業や業界市場を熟知したクリエイターを社員として組織化する「インハウスクリエイティブ」に注目が集まっています。
 
本連載では「クリエイティブ組織のインハウス化」をいち早く取り入れ成功している企業にインタビュー。「なぜインハウス化するのか?」「どのようなクリエイターを採用すべきか?」「クリエイターが力を発揮できる組織とは?」……。組織づくりや事業成長のヒントをお聞きしていきます。
 
第2回は、freee(フリー)の事例をご紹介します。ブランドスタジオ クリエイティブディレクターの小川テツヤさんにご協力をいただきました。(マスメディアン編集部)

企業データ

【企業名】freee株式会社
【設立】2012年7月
【社員数】481名(2020年6月末時点)
【売上高】69億円(2020年6月期時点)
【事業内容】
・全自動のクラウド会計ソフト
・クラウド人事労務ソフト等の運営開発
 
【クリエイティブ組織の名称】
・ブランドスタジオ:ブランディングのためのプロジェクト企画・運営・制作を担当。
・コンテンツチーム:WebマーケティングのためのLPやバナー制作を中心にデザイン制作物全般を担当。
・プロダクトチーム:各製品のUI/UX設計・改善を担当。
 
【ブランドスタジオの組織構成】
・ブランドマネージャー、イベントプロデューサー、クリエイティブディレクター、アートディレクター、デザイナー、編集者が所属。
・freeeのブランドを通して社会をよりよくすることをミッションとして、 CI/VIのブランディングに留まらず、「#取引先にもリモートワークを」、「スモールビジネス映画祭」、「確定申告FES」などのプロジェクトを推進。
 
 

インハウスクリエイティブ組織のポイント

●統一されたブランド体験をつくり、継続的なコミュニケーションによりユーザーとの長期的な関係を構築することが、中長期的な売り上げの拡大につながる。

●BtoB領域の事業やサービスは、外部協力先が事業を理解する学習コストがとてもかかるため、社内クリエイターのほうが意図に沿ったクリエイティブを制作しやすい。

●企業ブランディングでは、CEOもデザインフィロソフィー策定に向けた議論に参加。フィロソフィーを深く理解する社内クリエイターとクリエイティブ制作を行うことで、現場各部門にも実務レベルでフィロソフィーが浸透。ブランドの社内定着につながった。

フィロソフィーを大切にしている組織だからこそ実現できるブランドにしたい

──組織を立ち上げたきっかけ
まずは、ブランドスタジオの前身となるブランドコミュニケーションチームについてご説明します。私が中途入社した2017年当時、クラウド会計ソフト「freee」をはじめとする当社の各種サービスは、Webマーケティングによって順調にユーザー数を伸ばしていました。その一方で、ユーザーとの最初の接点であるLP(ランディングページ)やバナーの制作は各事業部に委ねられていたため、デザインのトーン&マナーはそろっておらず、マーケティングのナレッジも蓄積できていませんでした。

目先の顧客獲得だけを考えるのであれば、事業部ごとに短いスパンでPDCAを回すのが効果的かもしれません。しかし、サブスクリプション(定期購入)のサービスを提供している会社が中長期的に売り上げを拡大するには、ユーザーとの関係構築が重要です。そのためには、統一された「freeeらしさ」というブランドをつくり、ユーザーと継続的にコミュニケーションをとる必要があります。こうした経営メンバーの課題意識からブランドチームが立ち上がりました。初めは私と広報担当の2名体制でした。
 
まずは、デザインフィロソフィーを言語化しました。経営層、マーケティング責任者、UI/UXデザイン責任者らのコアメンバーと議論を重ねて、「freeeらしさ」を「もうひと手間かけられる余裕」、「ちょっとした楽しさ」、「心地よい解放感」の3つの言葉に集約しました。そして、それをクリエイティブで表現するため、デザインルールの制定、ロゴのマイナーチェンジ、社内制作フローの見直しを1年がかりで取り組みました。

その後に組織の改編があり、現在、クリエイティブを担当している組織は、ブランドスタジオ、コンテンツチーム、プロダクトチームの3つです。コンテンツチームはWebマーケティングのためのLPやバナー制作を中心にSEOや制作物全般を担当。プロダクトチームは各製品のUI/UX設計・改善を担当しています。そして私たちブランドスタジオは、freeeのブランドを通して社会をよりよくするプロジェクトを企画・運営しています。
freee株式会社 ブランドスタジオ クリエイティブディレクター 小川テツヤさん
──ブランドスタジオの役割
ブランドスタジオの役割は、freeeのブランドを通して社会をよりよくすることです。

立ち上げの背景には、提供サービスの多様化があります。例えば、2019年から2020年にかけて「創業融資freee」、「福利厚生freee」をリリースしています。今では会計だけではないさまざまな領域のプロダクトやサービスが拡充され、ユーザーの幅が広がりました。利用サービスも興味関心もさまざまであるユーザーに、freeeにポジティブな印象を持ってもらうには、サービス以外の接点を持ち、そこから当社の理念やフィロソフィーに共感をいただくことが必要です。そのため、ブランドスタジオでは、「freeeはスモールビジネスの当事者のことを最も理解している会社」と思ってもらえるよう、さまざまな取り組みを通じて当社の価値観を発信しています。

最近では、「#取引先にもリモートワークを」というプロジェクトを主催しました。リモートワークの導入の障壁となるのは、自社内のITインフラや制度だけではありません。「はんこ出社」が取りざたされたように、契約書の締結や捺印など、社外とのやりとりにおいて出社が必要になるケースも多くあります。そのため、社会全体でのリモートワークを推進するためには、各社が取引先の状況改善にも積極的に取り組む必要があるのです。そこで、この考えに賛同した企業には、自社の取引先のリモートワークを可能とするアクションを1つ以上設定し、ハッシュタグ「#取引先にもリモートワークを」とともにSNSやプレスリリースで公表するよう呼びかけました。2020年7月末の時点で、100社を超える企業から賛同が集まりました。
 
──社内にクリエイティブ組織があるメリット
プロダクトやユーザーを理解したクリエイティブがつくれることです。
 
クリエイティブ制作にあたっては、ユーザーとプロダクトの価値を正しく理解した上で、アウトプットする必要があります。しかし、BtoBビジネスは、社外クリエイターにとってサービスを利用する機会がないため、業界・事業やサービスを理解するための学習コストや時間がかかるという特性があります。そのうえ、会社の理念や社風についても一から説明しなければなりません。その点、社内クリエイターは、すでに会社やビジネスについては理解していますので、制作に集中できます。プロジェクトに応じて、社内クリエイターと当社を理解している外部パートナーが協力しつつ、柔軟にクリエイティブをつくり上げています。

また、社内クリエイターが媒介となり、現場の各部門にデザインフィロソフィーを浸透させられることもメリットです。デザインフィロソフィーやデザインルールを深く理解している社内クリエイターと協働することで、依頼する側の営業やエンジニアなどにも理解が深まっていきました。ブランドの社内理解を得るためにも、社内デザイナーは必須だと思います。
 
──求められるクリエイターとは?
ブランドスタジオは、デザイン事務所を経営しているメンバーや小説家、副業で魚屋を営むメンバーなど、さまざまなメンバーが働いているハイブリッドな組織です。業務では、要件定義されたものをこなすだけではなく、さまざまなメンバーと協力しつつ、プロダクトとユーザーを深く理解して、新たなアイデアやクリエイティブを生み出すことが求められます。理解を深めるには、現在、在宅勤務の社員が多いこともあり、自ら動いて関連部署の社員から情報を集めてくる主体性が大事です。
 
──今後のビジョン
ブランドスタジオのチーム体制が整ったため、会社やサービスのブランド価値をより高めていきたいです。フィロソフィーを大切にしている組織だからこそ実現できるブランドにしたいです。

※2020年10月に取材した内容を掲載しています。