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【第3回】事業成長に寄与するインハウスクリエイティブ組織とは?─貝印株式会社

マスメディアン編集部 2021.04.29

  • インハウス
【第3回】事業成長に寄与するインハウスクリエイティブ組織とは?─貝印株式会社
商品やサービスがすぐにコモディティ化する昨今、企業は競争を勝ち抜くために、ブランド力を強化し、顧客とのコミュニケーションを重視するようになりました。こうした背景から、自社の事業や業界市場を熟知したクリエイターを社員として組織化する「インハウスクリエイティブ」に注目が集まっています。

本連載では「クリエイティブ組織のインハウス化」をいち早く取り入れ成功している企業にインタビュー。「なぜインハウス化するのか?」「どのようなクリエイターを採用すべきか?」「クリエイターが力を発揮できる組織とは?」……。組織づくりや事業成長のヒントをお聞きしていきます。

第3回は、刃物メーカー、貝印の事例をご紹介します。同社は、2017年に外部から招いたクリエイティブディレクターを中心に、クリエイティブやブランディングの強化に取り組んできました。前述のクリエイティブディレクターで、同社のマーケティング本部 広報宣伝部・ブランド企画部・デザイン部 部長を務める鈴木曜さんにお話を伺いました。(マスメディアン編集部)

企業データ

【企業名】貝印株式会社
【設立】1954年11月(創業1908年6月)
【社員数】426名
【売上高】249億円(2020年3月期時点)
【事業内容】刃物を中心とした調理用品や化粧道具、衛生用品の製造・販売
【クリエイティブ組織の構成】
マーケティング本部に「ブランド企画部」「デザイン部」「広報宣伝部」「マーケティング部」「商品企画部」「お客さま相談室」の部門がある。

クリエイティブディレクターである鈴木さんは「広報宣伝部」「デザイン部」「ブランド企画部」の3部門の部長としてブランディングとクリエイティブを統括。

<広報宣伝部(11名)>
・広報業務、広告宣伝業務を担当
・広報6名、宣伝5名

<デザイン部(12名)>
・プロダクトデザイン、パッケージデザイン、カタログ制作を担当。
・プロダクトデザイナー6名、グラフィックデザイナー6名が所属。

<ブランド企画部(8名)>
・ブランドごとの育成計画、トーン&マナーの設計を担当。
・担当ブランド毎にブランドマネージャーが所属。CI/BI担当1名、カミソリ美容用品担当3名、家庭用品担当2名、BtoB商材(医療用刃物など)担当1名が所属。
 

インハウスクリエイティブ組織のポイント

●クリエイティブディレクターが、開発部門や製造部門、経営層も巻き込んで議論を交わし、マーケティングにおける最上流の意思決定に関与。会社方針や商品に込められた開発者の思いを踏まえて、中長期的なブランド育成戦略から、商品・広告のデザインまで一本の軸をもってディレクションしている。

●従来商品の改良ではなく、ブランドストーリーを起点にしたプロダクトデザインへ制作フローを見直した。社内デザイナーの柔軟な発想力が発揮されて、前例のない魅力的な商品が生まれやすくなり、クリエイターとしての能力やモチベーションの向上にもつながっている。

●商品ブランドごとの育成計画、トーン&マナーの設計を担うブランド企画部を新設。所属するブランドマネージャーは、商品企画、プロダクトデザイン、広告プロモーションなどブランド形成に関わる機能を持つ各部門をつなぎ、企業および各商品が、一貫した世界観をもつブランドとして発信されるようディレクションしている。

貝印のブランド価値をより高めていくことが私のミッション

──鈴木さんの経歴
私はもともと富士重工(現SUBARU)のマーケティング推進部に所属し、プロデューサー・ディレクターとして、モータースポーツのプロモーション、デジタル広告を総括していました。その後、自動車の領域にとらわれず、クリエイティブの仕事を行いたいと考え、クリエイティブエージェンシー「グレートワークス」に転職。クリエイティブディレクターとして経験を積み、現在はチーフクリエイティブオフィサーを務めています。貝印には、グレートワークスのチーフクリエイティブオフィサー(CCO)を務めつつ、2017年に外部委託という形態で貝印のマーケティング本部広報宣伝部 部長に就任しました。2019年からデザイン部、同年新設されたブランド企画部も管掌するようになり、現在は広報宣伝部・デザイン部・ブランド企画部の3部門の部長を務めています。

──鈴木さんが貝印のマーケティング本部に参画した経緯
貝印の商品は、年齢問わず、幅広い世代に使ってもらっていますが、若年層のブランド認知に課題がありました。若年層に向けてWebサイトやSNSなどのデジタルを活用したコミュニケーションを強化する必要性を経営層も感じていましたが、社内にノウハウがなかったため、専門性の高い外部人材を活用することになったと聞いています。私はグレートワークスでデジタルを活用したコミュニケーション設計を得意としていたため、現副社長の遠藤から声をかけてもらい、参画を決めました。とはいえ、クリエイターとしてさまざまなクライアントとの仕事も行いたい気持ちもあったため、グレートワークスのCCOを続けながら外部委託で貝印の仕事に取り組んでいます。
 
貝印株式会社 マーケティング本部 広報宣伝部・ブランド企画部・デザイン部 部長 鈴木曜さん
──鈴木さんが指揮する「広報宣伝部」「デザイン部」「ブランド企画部」について
グレートワークスでの、コミュニケーション戦略の提案やブランド構築支援の経験を活かして、現在は、マーケティング本部内の3部門を指揮しています。

「広報宣伝部」は、外部パートナー(広告会社など)と協業しながら自社商品のプロモーションを担当しています。各商品のコミュニケーション戦略に応じて、最適なパートナーを選んでタッグを組みます。グレートワークスとは、デジタル領域が中心のプロモーションで協業することが多いです。

「デザイン部」では、プロダクト、および広告、販促物のデザインを担当しています。パッケージやカタログも基本的には社内デザイナーが手掛けていますが、マス広告やデジタル領域の制作は外部パートナーに依頼することが多いです。

「ブランド企画部」では、商品ブランドごとの育成計画、トーン&マナーの設計を担当しています。所属するブランドマネージャーが指揮者となって、各部署をつなぎながら設計した通りにブランドが形成されるようにディレクションしています。

前述の通り「ブランド企画部」は2019年に新設された部署です。それ以前は、商品企画、プロダクトデザイン、広告プロモーションといったブランド形成に関わる機能を持つ各部門がバラバラに動いていました。そのため、企業および各商品を、一貫した世界観をもつブランドとして発信することができていませんでした。当社の商品である刃物は機能も構造もシンプルでコモディティ化しやすいものです。商品がすぐにコモディティ化していく中で売り上げを継続して伸ばすためには、お客さまに品質や価格だけではなく、ブランドに共感してもらい、ファンになってもらうことが必要です。お客さまに共感していただけるブランドをつくり育て、貝印のファンを増やすことがブランド企画部設立の狙いです。

以上の3部門を指揮するクリエイティブディレクターとして、私は各部門で進めるプロジェクトの戦略、企画、デザインの良し悪しを判断する役割を担っています。

──組織運営のポイント
クリエイティブディレクターである私が、開発や製造などの他部門と連携し、経営層と議論を交わしながらマーケティング本部を指揮しています。商品づくりの最上流から現場まで、つまり、会社が目指す方向から、個別の商品に込められた思いまでを把握できる立ち位置です。中長期的なブランド育成戦略から、一つひとつの商品やクリエイティブ制作に至るまで、一本の軸を持ってディレクションを行うことで、貝印という企業ブランドの向上に貢献していると考えています。

ブランド向上に貢献した例ではデザイン部のケースが挙げられます。一般的に社内のデザイン部門の仕事は、関係部門からの依頼をもとに進めるため、機械的なデザイン作業に陥りがちです。以前の貝印のデザイン部もそうでした。

私が参画した際、まずプロダクトデザインのフローを見直しました。従来商品の改良点を考える前に、競合他社と差別化するためのブランドストーリーをしっかりつくり上げてから、プロダクトのデザインを行うことにしました。制作フローを見直すことで、社内のデザイナーもこれまでの慣例に捉われず、柔軟な発想ができるようになりました。

具体的な成果として、たとえばカミソリのデザインも今までの慣習ではT字型が基本でしたが、コンセプトや競合他社との差別化を考えた結果、T字型ではない、機能的にもデザイン的にも優れたVIO専用カミソリ「FEMINICARE(フェミニケア)」「DANDYCARE(ダンディケア)」が生まれました。
左「FEMINICARE」右「DANDYCARE」
これまでの貝印の商品づくりの慣例では出てこなかったアイデアを形にして、きちんと世の中に出せるようになっています。クリエイティブディレクターがディレクションしつつ、デザイナーがブランドストーリーから考えてプロダクトデザインに落とし込むフローに変えたことで、前例のない魅力的な商品が生まれやすくなりましたし、社内デザイナーの能力やモチベーションの向上にもつながっています。

──今後のビジョン
貝印のブランド価値をより高めていくことが私のミッションです。

貝印のような日本のものづくり企業は創業100年を超えている企業が多く、岐路に立っている会社が多いです。20世紀型の大量生産、大量消費をベースに成長してきた会社が、人口減少社会、コモディティ化などの環境変化にうまく適応できづらなくなっていると思います。また、SNSが台頭してきたことによって「我々の商品は素晴らしいです」という企業からの一方的な発信では共感が得られず、消費者と一緒に価値をつくる共創価値、体験価値が、そのままブランド価値となります。

貝印のブランド価値向上を担う責任者として、社会の変化を常に感じ取りながらお客さまに共感されるブランドにし続けなければならないと思っています。また、デザインや技術の素晴らしさだけではなく、貝印のフィロソフィーに価値を感じてお客さまに選んでもらえる商品を数多く生み出したいと考えています。

現在、貝印でクリエイティブディレクターとして働いているのは私だけですが、今後、魅力的な商品をどんどん生み出すためには、私と同様の役割を担える人材が必要になります。ブランド育成戦略から、商品やクリエイティブ制作に至るまで、一本の軸を持ってディレクションを行うことができる人材を育成することも私の目標です。