マーケティング・営業戦略・広報・宣伝・クリエイティブ職専門の採用支援はマスメディアン【宣伝会議グループ】

  • HOME
  • ナレッジ
  • マーケティング専門部署を立ち上げ、スタジアム来場者数が倍に伸長─株式会社名古屋グランパスエイト

マーケティング専門部署を立ち上げ、スタジアム来場者数が倍に伸長─株式会社名古屋グランパスエイト

マスメディアン編集部 2020.12.17

  • インハウス
マーケティング専門部署を立ち上げ、スタジアム来場者数が倍に伸長─株式会社名古屋グランパスエイト
マーケティングやクリエイティブの専門部署を立ち上げたい、または機能を強化したいという相談を事業会社の経営層からいただくケースが近年増えています。ソーシャルメディアの普及、次々と生み出されるツールやサービス……。デジタルテクノロジーの進化に伴い、マーケティングを取り巻く環境は凄まじいスピードと勢いで変化しています。自社の事業や市場環境を熟知し、マーケティングやクリエイティブのスキルを持つスタッフを社内に置くことで、環境変化に迅速に対応しようとしています。「マーケティング・クリエイティブ機能のインハウス化」の動きは今後も広がりそうです。

こうした取り組みをいち早く進めている企業を取材し、組織体制やその目的、課題と取り組み、運営について事例をまとめました。

今回は、名古屋グランパスエイトの事例をご紹介します。プロサッカーJ1チームを運営する同社では、マーケティング部を立ち上げてから3年で、スタジアム来場者数が以前の倍近くまで伸びたといいます。マーケティング部 部長の戸村英嗣さんにお話を伺いました。(マスメディアン編集部)

企業データ

【企業名】株式会社名古屋グランパスエイト
【設立】1991年7月
【社員数】42名(2019年11月時点)
【売上高】非公開
【事業内容】
・プロサッカー試合の開催・運営
・サッカースクール、およびサッカー普及活動の企画・運営
・オリジナルグッズの制作・販売など

【マーケティング組織の構成】
マーケティング部(20名)は、部長の下、4つのグループに分かれている。イベントプロモーショングループには、社内デザイナーが在籍している。

・ファンディベロップメントグループ:チケット戦略、ファンクラブ運営、データベース管理
・MDグループ:オフィシャルグッズ製作、グッズショップ運営、ECサイト運営
・運営マネジメントグループ:試合運営管理、場内演出、会場アクセス改善
・イベントプロモーショングループ:イベント企画、プロモーション、デザイン制作
 

マーケティング組織のポイント

●スタジアム来場者数とファン愛着度が低迷したことがマーケティング部を立ち上げるきっかけに。全社を挙げてマーケティング強化に取り組んだ結果、来場者数は部署立ち上げ時から倍へ伸長した。

●新規のお客さまを増やすために、スタジアムへの集客イベントを年間200回以上実施。子ども向け、女性向け、1年以上足を運んでいない「休眠層」向けなど、ターゲット属性を定めてイベント・集客企画を実施している。

●社内デザイナーがいることで多種多様な制作物やスピードが求められる案件に対応できる。ロゴやエンブレムの使用ルールをまとめたデザインガイドを作成し、社内デザイナーがそのガイドに沿って制作することでクリエイティブのトーン&マナーを統一している。

スポーツビジネスの一丁目一番地は、スタジアム集客数。スタジアムでしか感じられない一体感やサッカーの面白さを提供していきたい

──マーケティング部を立ち上げたきっかけ
名古屋グランパスは2010年にJ1リーグで初優勝し、その後数年はチーム成績も良かったのですが、スタジアムへの来場者数は伸び悩んでいました。それを裏付けるように、2013年にJリーグが実施したサッカー観戦者へのアンケート調査では「ファンのチームへの愛着度」という項目で、全J1チームで最下位になってしまったのです。クラブのメンバーはショックを受け、危機感がより一層高まりました。

そこで、当時の経営層が陣頭に立って、まずはスポーツビジネスの一丁目一番地であるスタジアム集客数の増加を目指し、全社を挙げてマーケティング強化に取り組みました。外部からサッカービジネスの専門家を招き、全社員参加のワークショップを複数回開催。サッカークラブとは何のために存在するのか、という存在意義から見直していきました。

当時は、集客に関わるイベント企画やグッズ制作、チケット販売、ファンクラブ運営などをそれぞれの担当者が各自の方針で実施していました。担当者同士の連携がうまく取れず、統合的なマーケティングが実現できていなかったのです。イベントでは、ターゲット属性を明確に定めていなかったり、実施後のアンケートを取っていなかったりと、担当者の主観や従来の経験に即して運営している状態でした。そこで、各部署に点在していたマーケティング機能をひとつに集約し、2016年にマーケティング部を立ち上げました。認知度や満足度などのデータを取得・活用し、PDCAを回しながらマーケティング施策に取り組める体制を整えました。
──マーケティング部の機能
ファンディベロップメントグループ、MDグループ、運営マネジメントグループ、イベントプロモーショングループの、4つのグループに分かれており、スタジアムの集客・運営に関する業務を担当しています。

特に、イベントプロモーショングループにはマーケティング、クリエイティブ経験のあるメンバーが所属し、スタジアムへの来場者数を増やすためのプロモーション施策に取り組んでいます。具体的には、子ども向け、女性向け、1年以上足を運んでいない「休眠層」向けなど、ターゲット属性を定めたイベントを企画。中でも力を入れているのは、新規お客さま向けの集客プロモーションです。ゴールデンウィークや夏休みは、多くの子どもたちにスタジアムへ来てほしいという思いから、小・中・高校生を対象に1試合につき1万名無料ご招待という思い切った施策を展開しました。イベントは、単発的に行うものと、季節ごとで定期的に行なうものがありますが、2019年は1試合につき平均10本程度、年間合計で220本程度実施しました。

また、ポスター、チラシ、パンフレット、試合会場の看板、POPなどイベント告知ツール全般のクリエイティブ制作は、当グループに所属する社内デザイナーが担当しています。

──社内にデザイナーがいるメリット
各イベントの狙いやお客さま属性にあわせて、多種多様なクリエイティブを制作する必要があります。たとえば新規のお客さまの場合、ポスターのメインビジュアルには、「サッカー選手」よりも「キャラクター」や「家族観戦の様子」を起用したほうが集客効果は高まります。社内にデザイナーがいることで、グループ内で密にコミュニケーションを取り、イベント趣旨を深く理解してデザインを制作することができます。

またシーズンが始まると、毎週の試合とセットでイベントを実施することが多いです。短納期で制作するスピードが求められますが、急な制作や修正が社内で対応できる点もメリットだと思います。

さらに、社内で制作しているからこそ、クリエイティブのトーン&マナーを統一できています。デザイナーを採用する以前は、それぞれの事業部から外部の制作会社に依頼してプロモーションツールを制作していたのですが、シリアスなデザインだったり、ポップなデザインだったりと、トーン&マナーがバラバラでした。そこでマーケティング部を立ち上げる際、ロゴやエンブレムの使用ルールをまとめたデザインガイドを作成しました。現在は、そのガイドを熟知した社内デザイナーが制作を進めているので、一定のルールに則って統一されたデザインが実現できています。

──デザイナー採用のポイント
当社のデザイナーは、マーケティング部の制作物だけではなく、営業資料や広報ツールの制作も担当しています。営業部門や広報部門の社員は必ずしもデザイン制作に精通しているわけではないため、制作指示が曖昧になる場合もあります。さまざまな部署とコミュニケーションを取りながら業務を進めなければならないため、デザイナーを採用する際には、相手の意図を汲み取って速やかにデザインできる力を特に重視しています。

──組織立ち上げの効果
2019年の1試合あたりの平均来場者数は約2万7600人。マーケティング部を立ち上げた2016年と比べて倍近い人数のお客さまにご来場いただけています。お客さま属性に応じたプロモーション、特に新規のお客さまを増やす施策が成果につながっているのだと思います。

現在、新型コロナウイルスの影響でスタジアムへの来場者数は制限されていますが、今後もプロモーションに注力して、スタジアムでしか感じられない一体感やサッカーの面白さを提供していきたいです。

※2020年10月に取材した内容を掲載しています。