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イノベーションを起こすために組織や仕組みを壊す─amadana株式会社

マスメディアン編集部 2019.09.01

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イノベーションを起こすために組織や仕組みを壊す─amadana株式会社
マーケティングやクリエイティブの専門部署を立ち上げたい、または機能を強化したいという相談を事業会社の経営層からいただくケースが近年増えています。ソーシャルメディアの普及、次々と生み出されるツールやサービス……。デジタルテクノロジーの進化に伴い、マーケティングを取り巻く環境は凄まじいスピードと勢いで変化しています。自社の事業や市場環境を熟知し、マーケティングやクリエイティブのスキルを持つスタッフを社内に置くことで、環境変化に迅速に対応しようとしています。「マーケティング・クリエイティブ機能のインハウス化」の動きは今後も広がりそうです。

そんな企業さまに有益な情報を提供する目的で創刊したマガジン冊子『Mレポ』。創刊号の「マーケティングの組織」は、インハウス化の取り組みをいち早く進めている企業を取材し、組織体制やその目的、課題と取り組み、運営について事例をまとめました。

今回はその中から、amadanaの事例をご紹介します。クリエイティブ総合商社amadanaのCEOである熊本浩志さんは、会社も個人も固定化せずに進化し続けることが、急激な変化の時代にイノベーションを起こすコツだと語っています。その真意を熊本さんに迫りました。(マスメディアン編集部)

ポイント

●組織ありきではなく、プロジェクトありきで考えている。プロジェクトに応じて、毎回、アサインの判断軸が変わるため、組織を固定できない。

●勝機を逃さないために、誰よりも早く意思決定をする。そのために、モックアップの段階で世の中に出す。モックアップだから、世間の反応を見て中止することも修正することもできる。

●マーケティングのプロセスがもはや古い。製品を企画する段階で、すでに消費者とのコミュニケーションを設計している。

●会社も個人も何をしているかわからないことが強みになる。会社も個人も固定化せずに進化し続けることが、これからの時代に求められる。

●人間はパラレルキャリアであるべき。多彩さが一つの武器になるし、それによって客観視できる能力が身につくと、もっと専門性が磨かれる。
 

答えがないほうが意思決定も早いし時代にあっている。だから今は、組織や仕組みを完全に壊しています

──貴社はどのような体制になっているのですか?
昔は組織を固める方向にドライブをかけていましたが、最適な形が見つかりませんでした。でも固定された組織ではないほうが意思決定も早いし、時代に合っているように感じます。だから今は、組織や仕組みを完全に壊しています。

──組織を壊したなかで、どのようにビジネスを回しているのですか?
組織ありきではなく、プロジェクトありきで考えています。そのため、その人のバックグラウンドや得意分野によってプロジェクトごとにアサインしています。ただし、クオリティやアウトプットを何より重視しているので、最適な人材だと思えば、社外メンバーをアサインすることもあります。プロ
ジェクトに応じて、毎回、アサインの判断軸が変わります。だからこそ組織を固定できないのです。

──どのような方が貴社に所属しているのですか?
当社で輝けるのは、プロジェクトに対してクレイジーなくらい愛情がある人です。みんなが売れると思うマーケットは、みんなが参入してくるので競争が生まれます。僕は競争が好きではないので、競争がないところにマーケットをつくっていくことを好みます。そうすると、「不合理な心」をしっかりと読み解ける必要があります。そもそも人間は不合理な感情でモノを買うんですよ。CDが衰退している時代に、思い出やコレクション欲に惹かれCDプレイヤーを買ったり、履く機会も少ないのに何足も白いスニーカーをコレクションしたりします。僕は、不合理でも心を満たすマーケットにお金が動
くと考えています。そして、そんなマーケットを生み出すことができるのは、そのプロジェクトに愛情がある人です。ゼロイチの火をつけても、3回ぐらいは消えてしまいます。そうすると普通は心が折れてしまいます。でも愛情がある人は、心が折れてもずっと笑っていられるんです。YouTuberもまさにそうですよね。ひたすら投球し続けている動画が200万回も再生されたりするのは、そのYouTuberも視聴者も、野球に対して異常なほどの愛情があるからです。今の時代は、そういう現象から新たな境地が見えてくるし、イノベーションが起こるのだと思います。

 
amadana株式会社 CEO 代表取締役社長 熊本浩志さん
──事業開発は熊本さんが主導されているのですか?
僕ももちろん手がけますが、事業開発を任せられる社員が他にも何名かいます。今度、コーヒーのビジネスを立ち上げますが、その担当者は異常なほどコーヒーに愛情があります。彼は元々コーヒーメーカー出身で、コーヒーブランドをつくりたいという思いから当社に入社しました。当社には、プロジェクト立ち上げのために必要なピースがいっぱい転がっています。やりたいという気持ちだけではなく、さまざまな仕事を通して学びながら、ピースを拾い集め、組み合わせていきます。そして、ピースがそろったタイミングで、プロジェクトを立ち上げていきます。

──どのようにしてプロジェクトは進んでいくのですか?
10個ピースがあるとしたら、2個そろった時点で、なんとなくその先の6個目までが見えてきたら事業化できそうな感覚があります。そのタイミングでテストをして判断していきます。いきなり大きな投資はしません。必ず実験をします。そこで駄目ならプロジェクトを潰します。例えば、6個目の段階ではまだ実物は完成していないけれど、コンセプトムービーをクラウドファンディングで公開して、共感を募ってみる。そこで資金調達をしているわけではなくて、4000万円集まったという現象をみて、共感してくれている人たちを数値化して可視化しているわけです。これだけのニーズがあることがわかれば、パートナーも協力的になり、ピースが10個まで埋まっていきます。一方で、大企業は、ピースが9個まで集まらない限り動けないんですよね。そうするとすでに勝機を逸しているので、消費者に見向きもされません。

──貴社はメーカーではなく企画会社みたいなスタンスになるのですか?
そうですね。製造は別の会社ですし、販売権も渡して別の会社が担っています。僕らは、アイデアやブランドを形にして知的財産をつくることが仕事です。だから権利はすべて売ってしまいます。販売して利益を稼ぐということを放棄しています。例えば、1万台のマーケットがあるとき、自分たちで製造して販売すると7割の利益を稼ぐことができます。でもそれをすると、ヒト・モノ・カネのすべてを1つのプロジェクトに投下しなければならなくなり、他のプロジェクトには手が回らなくなります。でも、僕らの強みはアイデアがたくさんあることだから、いろいろなプロダクトを世の中に出していきたい。たくさんのプロダクトを世の中に出すためには、製品の販売は、販売代理店に任してしまったほうがいい。販売の利益はいらないから、ブランドを横展開し続けていくことが、僕らの本分です。

──ビジネスモデルは独占販売権の譲渡ですか? それともライセンスフィーですか?
どちらもあります。製造した段階で権利が発生する場合もありますし、売り上げから企画・デザインの手数料をもらう場合もあります。パートナーとして組む企業もさまざまで、いろいろなビジネスモデルがあります。

──すべてamadanaブランドで展開しているのですか?
いいえ。amadanaブランド以外の製品もたくさんあります。amadanaブランドで製品を乱発すると、何のブランドかわからなくなるからです。例えば、ホリスティックキュアドライヤーは、黒子として企画とデザインのみを行っています。

──では、プロモーションもパートナー企業に任せているのですか?
いいえ。プロダクトを企画開発して、次にプロモーションをして、最後に販売をして、というプロセス自体がもはや古いと思っています。企画する段階で、すでに消費者とのコミュニケーションを設計しています。だから、製品は完成していないにも関わらず、クラウドファンディングで公開するように動画までつくるんです。既存のビジネスプロセスは踏みたくありません。ビジネス全体のモックアップをいかに早くつくれるかが大事なのです。またプロダクトもモックアップの段階で世の中に出します。モックアップだから、世間の反応を見て、中止することも修正することもできます。これがポイントです。誰よりも早く意思決定をして、世の中に問うて、次のステップへ進むかどうかを素早く判断する。
──起業をしようとしたときから同じ考えだったのですか?
いいえ、違います。起業しようとしたきっかけは、ファブレス(工場を所有せずに製造業として活動する)でモノづくりがしたかったからです。2002年頃の日本では、工場を持たずに製品をつくっている企業はなく、新たなビジネスプロセスでした。でもある瞬間から、これは大きな資本がないとやっていけないビジネスだとわかりました。僕らはたくさんのアイデアがあるから、同時多発的にプロダクトをローンチしていきたい。製造から販売までしていると、一つのプロダクトに労力がかかり過ぎてスピーディーにモノづくりができない。今のアイデアは今の空気を感じて発想しているものだから、今実現しないと意味がありません。来年では遅すぎます。

──貴社ホームページに「クリエイティブ総合商社」と書かれていますが、かなり特異なビジネスモデルですよね。
当社と同じようなビジネスモデルの会社はないと思います。だから、説明しづらく、困っています。でも、企業も個人も何をしているかわからないことが強みになると思っています。僕は一人の人間が一つのキャリアで終わる時代は終結すると常々言っています。人間はパラレルキャリアであるべき。多彩さが一つの武器になるし、それによって客観視できる能力が身につくと、もっと専門性も磨かれる。特にデザイナーはその素質があるわけですから、肩書にどんどんスラッシュを追加していろいろな顔を持っていくべきです。ひとりダイバーシティです。当社がクリエイティブ休暇という制度をつくって週休3日にしたのもそのためです。先ほどもお話ししたように熱意を注ぎながらも、ビジネスになるかを考えられる力が僕らには求められています。マーケットのつくり方も変わってきていますので、そういうセンスを磨いていく時間を与えないといけないと思っています。現在、社員20名の内7名がデザイナー出身です。しかしデザイン業務だけでなく、パートナーと商談もするし、社内外でプレゼンもします。デザイナーがすべてできるとすごくいいですよ。僕の中で、デザイナーはもはや絵を描く人という認識ではありません。ビジネスをデザインする人です。

──社員がパフォーマンスを上げるために心がけていることはありますか?
まずクリエイターたちの理解者であることです。言葉が通じない人と一緒に仕事はしたくないですよね。そう考えると、組織を持ちたいと思っている人は、理解者ではない気がします。組織を課題として挙げる時点で、クリエイターのアイデアをまったく理解しようとしていない。組織ありきではなくビジネスやプロジェクトありきで、成功させるために必要なピースを埋める。これが真実だと思います。だって、世の中の人にとって、組織は関係ありません。プロジェクトやプロダクトが面白いかどうかだけです。僕らも昔は堅苦しい組織をつくったこともありました。上場企業の管理下に置かれて内部監査を受けていた時代もありました。そういう変遷を経て、うちの会社の強みって何だろうと向き合うようになりました。まだ、答えは出ていませんけどね。ただ、会社も個人も固定化せずに進化し続けることが、これからの時代に強いのではないかというのが僕の仮説です。

──会社も個人も固定化しない柔軟な体制だからこそ、プロジェクトを進められるのですね。
それともう一つ。すべてをニュートラルに考えたいです。バイアスをかけると間違ってしまうから。僕は、これまでたくさん判断を誤ってきました。だからこそ、常にニュートラルでいられるかを大切にしています。「どこに向かっているのか」「何をやりたいのか」とよく聞かれますが、答えはわかりません。目指すは「カオス」です。でも、それで良いのではないか、と思っています。


MレポVol.1 マスメディアンからマガジン・レポート 『マーケティング・クリエイティブ力が会社を強くする。』(2019年9月1日発行)から転載しています。