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【ケース7】是正勧告ケースから学ぶ「管理監督者」と「労働時間の把握」―元労基署監督官の社労士が解説―

小菅将樹 2018.08.01

  • 働き方改革
広告会社やテレビ局が労働基準監督署から是正勧告を受けたことが、ニュースになりました。AD・HRニュースの読者である広告・マスコミ業界の経営者・人事担当の皆さまにとっても長時間労働の問題は関心が高いのではないでしょうか。今回、元労働基準監督官で、現在は社会保険労務士として活躍している小菅将樹氏に、労働基準監督署の実態や、企業としての対応策を解説していただきます。第7回は管理監督者と労働時間の把握についてです。(マスメディアン編集部)

大規模店舗における複雑な労務管理

食料品を中心に取り扱うスーパーマーケットを首都圏や近畿圏にて展開している会社のある店舗へ臨検監督を実施した事例です。この店舗には、店長、店長代理のほか一般正社員約30人と、パート・アルバイト労働者約160人が働いていて、農産、水産、畜産、惣菜、レジなどの部署からなり、それぞれの部署に正社員のチーフもしくはサブチーフが配置されていました。

店舗の営業時間は9時30分から25時までで、1カ月単位の変形労働時間制を採用し、所定労働時間を1日8時間として毎日の勤務シフトを組んでいました。労働時間の管理は、IDカードにより行い、これと併せて、社員と契約社員は始業終業管理表により時間外労働の申請を行い、パート・アルバイトについてはシフト計画実績管理表により時間外労働の申請を行うこととなっていました。このうち、店長と店長代理は労働基準法第41条の管理監督者として取り扱われていました。

臨検監督を実施した結果、IDカードの打刻時間と時間外の申請時間において乖離が認められ、各部署のチーフもしくはサブチーフが使用するパソコンフォルダの更新履歴を確認したところ、チーフとサブチーフが就業申請後の時間外の時間帯に働いている事実が認められました。

担当監督官は、(1)店長代理職に就いている従業員は、その働き方などから管理監督の地位にあるとは認められないと判断し、割増賃金の対象者としていないことによる時間外・深夜割増賃金の不払い、(2)社員・契約社員については始業終業管理表により終業時刻と残業時間を申請することとなっているにもかかわらず、終業時刻を端数処理して残業時間を申請していたことによる時間外・深夜割増賃金の不払い――の2点について是正勧告しました。

さらに、労働時間が適正に把握されていないと認められたため、このような状況を改善するための具体的な対策を講じ、改善内容を監督署へ報告すること、および改善報告後3カ月間、改善対策の実施状況と労働時間管理の状況を月に1回報告する旨の指導票を交付しました。

トップが中心となり社内改革を実施

会社は、全社員にヒアリングを行うなどして過去に遡り労働時間の調査を行い、不足額の支払いを行いました。さらに社長自ら時間外未払い撲滅宣言を行い、賃金不払い残業撲滅、店舗管理職の長時間労働防止、パート・アルバイトの勤務計画遵守について徹底するよう、全店舗の店長および本社の課長へ店長会議の場で話をしました。また人事部が主体となって労務管理研修を実施し、始業終業管理表の活用による時間管理の徹底、個人面談の実施、IDカード打刻前の出社禁止、打刻後の速やかな退社の促進などの改善措置を講じました。

一方、監理監督者の範囲については、その職責や処遇から、店長代理職は適正であるとの判断を示し、長時間労働による健康障害防止対策から、在社時間の把握を適正に行い、店舗管理職の在社時間一覧表を本社担当部長へ配布し、在社時間が長い場合は、担当部長が他店の時間短縮事例を共有しながら、会社全体として在社時間の削減に努めることとしました。

また、産業医と連携し、長時間労働による健康障害防止のための疲労蓄積度チェックリストを活用しながら、在社時間から推計月100時間以上の時間外労働となる可能性がある従業員には、産業医の面談を今まで任意であったものを義務としました。

改めてですが、労働基準法第41条の管理監督者とは、「労働時間、休憩、休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務形態も、労働時間等の規制になじまない立場にあるもの」に該当する者を言います。管理監督者の判断は、職務内容、権限、勤務態様に着目し、賃金などの待遇面にも留意しつつ総合的に見ていきます。

今回の臨検では、店長代理職が監理監督の地位にある者とは認められないとして、割増賃金の支払いを求められましたが、会社は、その職責や処遇から管理監督者との取り扱いは適正と説明しました。これについて、是正するよう指導を継続するか、説明を受け入れ、他の指導内容の報告と合わせて改善状況を見守るかは、監督署の判断になりますが、管理監督者の適正な範囲であるか、職務や責任などがマッチしているかなどの精査は必要です。厚生労働省では、管理監督者に該当するかについて調査した結果、管理監督者に該当しない者が管理監督者として取り扱われ、かつ、割増賃金の不払いが認められた場合は、是正勧告書の交付、必要に応じて指導票の交付をするとしています。

働き方改革関連法案の可決で、労働時間把握と健康管理が重要に

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律が6月29日参議院本会議で与党などの賛成多数で可決、成立しました。ここで重要ポイントの1つとなっているのは、「労働時間の適正な把握と健康管理体制の強化」です。改正労働基準法に盛り込まれる予定だった裁量労働制の適用拡大については、今後労働政策審議会における議論を行った上で早期に適正化策の実行を図るとしていることから、今秋、検討を開始すると予想され、動向が気になるところです。裁量労働制は、優秀な人材の確保や、時間に縛られない働き方、モチベーションアップなどのメリットがある一方、裁量労働の要件に適合しているか、実態と合ったみなしとなっているかなどの確認が必要です。そして従業員の健康への配慮を忘れてはいけません。

今後は多様な働き方が増えてくることも踏まえ、6月28日に参議院厚生労働委員会でなされた働き方改革関連法参議院付帯決議では、副業・兼業の際の働き方の変化などを踏まえた実効性のある労働時間管理のあり方などについて議論がなされました。結果、労働者の健康確保などにも配慮しつつ、検討を進めるとしており、厚生労働省では、7月17日に第1回「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」を開催しました。

トップダウンだけでなくボトムアップで安全で健康な職場づくりを

組織がトラブルや事故のリスクを最小限にするための予防措置の実施や是正措置を取れることが、安全で健康な職場をつくるための有効な方法です。安全で健康な職場をつくり、意図した成果を得るためには、トップダウンだけでなくボトムアップ(提案型)の必要性を認識した労使一体となった活動が求められます。このためには、従業員と代表者の協議および参加が重要です。具体的には、労使双方のコミュニケーション、すなわち、必要な情報を従業員にタイムリーに提供し、組織が意思決定する前に従業員からのフィードバックを得ること、そして、安全で健康な職場をつくることなどに関する意思決定プロセスに従業員が参加できるようにすることが大切です。
【執筆者プロフィール】
小菅将樹(こすげまさき)氏
社会保険労務士、労働衛生コンサルタント、CSCS、PES
アヴァンテ社会保険労務士事務所、アヴァンテ労働衛生コンサルタント事務所 代表
明治大学法学部卒業後、労働事務官として労働省へ入省し、法改正事務などを経験する。2004年に労働基準監督官へ転官し、厚生労働本省、神奈川労働局、複数の労働基準監督署で勤務後、2014年に独立開業。安心・安全な会社づくりのためのプロセスにこだわり、会社の顧問業務や各種セミナー、安全衛生教育等を行う。トレーナー資格を保有し、健康管理(機能改善に基づく運動指導)にも力を注ぐ。