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【第4回】テレワークの労働時間管理(2)―社労士が見る時事ニュース

小宮弘子 2018.04.25

  • 働き方改革
政府が推進する「働き方改革」によって【副業・兼業】や【テレワーク】などの導入が加速することが予想されます。広告・Web業界は比較的適応しやすい業界。AD・HRニュースの読者である経営者・人事担当の皆さまも注視しているテーマかと思われます。『働き方改革の教科書』の著者である社労士の小宮弘子氏に、時事ニュースを社労士目線で解説してもらいます。(マスメディアン編集部)

テレワークの労働時間管理で知っておくべきこと

前回は、テレワークの労働時間管理について、雇用者側の視点で制度の利用効果や労働時間管理の留意点について解説いたしました。時間や場所にとらわれないテレワークは、雇用側にとって時間の有効活用など効果がある一方、やはり会社の目がとどかない場所で労働者が就業するため、労働時間の取り扱いや仕事の進め方について注意していく必要があります。では労働時間の取り扱いごとにどのように導入することができるかについて、以下ご紹介していきます。

通常の労働時間制とする場合

テレワーク(在宅勤務、モバイル勤務、サテライトオフィス勤務)において、オフィス勤務と同様に通常の労働時間制を適用する場合、中抜け時間の問題があります。特に在宅勤務の場合、自宅という私生活のスペースで業務を行うため、育児や介護、そのほか生活上の都合で、労働者が業務から離れる時間が生じやすいと言われています。これがいわゆる「中抜け時間」と言われるものです。

通常の労働時間制を適用すると、オフィスの代わりにテレワークの場所で、1日の所定労働時間労働することが求められ、実際の労働時間について把握(記録)しなければなりません。

仮に1日の所定労働時間が8時間とした場合、中抜け時間が1時間あると、この時間の穴埋めとして予定終業時刻以降に1時間労働しなければ遅刻や早退と同じですから、給与から控除します。労働者側とすると給与控除されては困りますから、1時間の時差勤務をするようになります。中抜け時間が1時間程度ならまだしも、2時間、3時間となり、夕食の支度をしてから、あるいは子どもを寝かしつけてからの労働となれば、時差勤務する時刻は22時以降といったことも珍しくはありません。在宅勤務の頻度が少なければ問題ないのですが、中抜け時間の長さや頻度によっては、恒常的な深夜労働になるリスクがあるのです。これでは時間の生産性を上げる、仕事と家庭生活の両立といった本来狙っていた効果が半減してしまいます。
こうなると労働者側からよく出る要望としては、時間単位年休の取り扱いです。中抜け時間に時間単位年休を充てることができれば、深夜労働になることもなく、生活のリズムを崩すこともありません。会社側としても、在宅勤務をすることでリズムが崩れ、この影響が翌日のオフィス勤務に持ち越されることは避けたいところです。

また、残念ながら性悪説で考えると、この中抜け時間が正確に申告されない場合も想定されます。一定期間の連続した在宅勤務の場合は、仕事のアウトプットで判断するしかありませんから、オフィス勤務者との比較で与える業務の質や量には注意したいものです。

事業場外みなし労働時間制とする場合

テレワークにおいて事業場外みなし労働時間制を導入するには、(1)常時通信可能な状態でないこと、(2)随時具体的な指示を受けて仕事をしていないこと―の2要件を満たす必要があります。この2要件を満たし、みなし労働時間制を適用する場合、労働時間は実際の労働時間ではなく取り決めた労働時間で取り扱われます。従って、上述の中抜け時間があったとしても、労働時間は取り決めたみなし労働時間で取り扱われますから、中抜け時間の問題はなくなります。また、給与から中抜け時間分を控除することもありません。

みなし労働で雇用者側が気をつけなければならない点は、中抜け時間による業務の遅延をカバーするために、恒常的にみなし労働時間を超える時間外労働や深夜労働が行われないようにすることです。業務効率を上げる工夫は、オフィス勤務に限ったことではありません。電話による業務の中断や会議を気にせず、自分の仕事に集中できるテレワークだからこそ、時間の生産性を意識して取り組んでもらいたいものです。

一方、中抜け時間に象徴されるように誘惑も多いテレワークです。自己管理が苦手な人には向かない、時間外が多くなるといった意見もあります。テレワーク対象者には、このようなテレワークの特徴を踏まえたうえで、テレワークの目的を忘れずに有効活用するよう徹底しておくことが重要です。

また、営業職などでは、モバイル勤務のためオフィスで固定席を持たないフリースペース制を導入している企業もあります。ほとんどがモバイル勤務となる場合、営業なら売り上げなど数値で判断できるものはよいのですが、仕事ぶりなどの評価は正直難しくなります。何をどのように評価するのか、オフィス勤務者とのバランスを含めて、今後は人事評価制度の見直しも必要になります。
【執筆者プロフィール】
特定社会保険労務士 小宮弘子(こみやひろこ)氏
トムズ・コンサルタント株式会社 代表取締役社長
大手都市銀行本部および100%子会社で、人事総務部門を経験の後、平成15年にトムズ・コンサルタント株式会社へ入社。人事・労務問題のトラブルを解決、諸規定、賃金・評価制度の改定をはじめ、社内制度全般のコンサルティングを中心に行う。著書に『この1冊でポイントがわかる「働き方改革」の教科書』(共著)など。