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デジタルリテラシーの高いIT企業がHRテクノロジーを駆使して成功していく―ケーススタディからみるデジタルHR推進

岩本隆 2018.03.22

  • HRテクノロジー
  • 働き方改革
デジタルリテラシーの高いIT企業がHRテクノロジーを駆使して成功していく―ケーススタディからみるデジタルHR推進
政府主導の「働き方改革」の推進にともない、企業は短時間でこれまで通りの成果を出すなど生産性向上が求められています。そのような状況で「HRテクノロジー」に注目が集まっています。採用データや従業員データなど人事にまつわるさまざまなデータを収集・分析し、生産性向上につなげる施策を見つける。そんなHRテクノロジーツールが数多くリリースされています。今回は、HRテックの第一人者である慶應義塾大学大学院 特任教授の岩本隆氏に、HRテックの最新動向から広告・Web業界での導入手引までお話いただきます。(マスメディアン編集部)
広告・PR業界ではビジネス面でのテクノロジー活用、つまり「デジタルシフト」が急速に進んでいる。広告業界では、2017年の日本の総広告費6兆3,907億円の内、インターネット広告費(媒体費+広告制作費)が1兆5,094億円まで成長し※1、インターネット広告ではAdTech(Advertisement×Technology:アドテック)などのテクノロジーが活用され、AdTechにAI(Artificial Intelligence:人工知能)のテクノロジーが活用されるなどして日々進化している。また広告はマーケティング目的で活用されることも多く、MarTech(Marketing×Technology:マーテック)もよく活用されている。特にマーケティングオートメーションというマーケティングを自動化するテクノロジーやインバウンドマーケティングという引きのマーケティングをするテクノロジーが広がりを見せている。

PR業界でもテクノロジーの活用が進んでおり、例えば、ICTを活用したプレスリリース/ニュースリリース配信サービスや動画配信サービスなどのテクノロジーを活用したサービスが急成長している。「PR TIMES」というプレスリリース/ニュースリリース配信サービスプラットフォームを運営する株式会社PR TIMESや「@press」を運営するソーシャルワイヤー株式会社など、テクノロジーを活用したPRサービスを提供する企業のIPO(Initial Public Offering)も増えてきている。

広告・PR業界では、最先端テクノロジーは身近なものとなっていてテクノロジーリテラシーが高い社員が多いのもあるからか、HRテクノロジーの活用が進んでいる企業が他業界に比べて多い。「HRテクノロジー大賞」実行委員会が主催したHRテクノロジー大賞では、インターネット広告大手の株式会社セプテーニ・ホールディングが、図表1に示すように、2016年に開催された第1回HRテクノロジー大賞で「ラーニング部門優秀賞」、2017年に開催された第2回HRテクノロジー大賞で「管理システム部門優秀賞」を、同じくインターネット広告大手の株式会社サイバーエージェントが、図表2に示すように、第1回HRテクノロジー大賞で「人事カテゴリー奨励賞」を、第2回HRテクノロジー大賞で「ラーニング部門優秀賞」を受賞している。
図表1 セプテーニ・ホールディングスのHRテクノロジー大賞受賞歴
図表2 サイバーエージェントのHRテクノロジー大賞受賞歴
株式会社セプテーニ・ホールディングスでは、「人的資産研究所」を社内に持ち、長年蓄積を続けてきた人材に関する膨大なデータを統合・分析することを通じて、成長産業における「人材育成の構造」を科学的な観点から明らかにし、自社の成長に活かしている。具体的には、1人当たり100を超えるパラメータでデータを蓄積し、その人材データベースをもとに、採用応募者の「入社可能性」、「戦力化可能性」、「定着確率」を定量的に予測し、これによって自社独自の判断基準を構築し、自社で活躍する人材を見極める構造ができあがっている。セプテーニ・ホールディングスは、また、動画を活用したオンライン・リクルーティングや、VR(Virtual Reality)ゴーグルを使用してオフィス見学ができるコンテンツを開発するなど、最先端のテクノロジーをいち早く人的資産管理に活用し、業績の向上に活かしている。

株式会社サイバーエージェントでは、2015年1月に「人材科学センター」を設置し、人材マネジメントへのデータ活用を強化している。データ活用の一環として、従業員のコンディション変化発見ツールとして、「GEPPO」というHRテクノロジーツールを活用している。具体的には、「仕事満足度」、「人間関係」、「健康」に関する3つの質問とフリーコメントのアンケートを高速に回し、適材適所推進、体調不良へのケア、退職リスクの発見、経営・組織に関する提言、環境・設備改善、人間関係の悩みの解決などに活かしている。さらに「GEPPO」の外販を開始するために、株式会社リクルートホールディングスと株式会社サイバーエージェントとで2017年7月に株式会社ヒューマンキャピタルテクノロジーを設立し、現在、多くの企業にビジネス展開されている。

マーケティングとリクルーティングは類似している

HRテクノロジーサービスの中でも、人材採用に活用されるサービスはAdTechとの親和性が高く、AdTechを活用した人材採用サービスなども増えている。人材採用においては以下の5つのポイントを押さえる必要がある。
 
1. 採用したい人材の要件を定義する。
2. ターゲットとする人材に、自社を早期に認知してもらう。
3. ターゲット人材が欲する情報を、適切なタイミングで届ける。
4. ターゲット人材が、自社とカルチャーフィットするか判断する。
5. ターゲット人材が、確実に入社する仕組みをつくる。
 
これら5つのポイントから、モノやサービスを売る市場を「商品市場」、企業で働く人材の市場を「人材市場」と定義すると、商品市場で顧客に商品をアピールするためにターゲティング広告をすることと、人材市場で人材に自社をアピールするためにターゲティングリクルーティングをすることとはかなり似ていることがわかる。従って、広告・PR業界の企業が商品市場をターゲットにビジネスを展開するノウハウは人材市場にも適用しやすい。
 
また、MarTechも人材採用のHRテクノロジーサービスでよく活用されている。人材争奪戦になっている現状もあり、「リクルーティング=マーケティング」ととらえ、インバウンドマーケティングのテクノロジーを活用したインバウンドリクルーティング®、マーケティングオートメーションのテクノロジーを活用したリクルーティングオートメーション®(「インバウンドリクルーティング」、「リクルーティングオートメーション」は株式会社プロコミットの登録商標です)のHRテクノロジーサービスも多く市場に出始めた。

HR部門とファイナンス部門が連携する未来

さらに、HRテクノロジーのツールはAdTech、MarTechだけではなく、財務会計システム等のERP(Enterprise Resource Planning)ツールとの連携も進んでいる。HRテクノロジーのツールはグローバルでは「HCM(Human Capital Management:人的資本マネジメント)アプリケーション」と呼ばれていて、HCMツールとERPツールとの連携は、「HCM/ERP連携」と呼ばれているが、HCM/ERP連携は特に欧米企業で進み始めており、そういった企業の中では、CHRO(Chief Human Resources Officer)とCFO(Chief Financial Officer)とが連携するようになっている。CHROには人材を資本や資産として定量的にマネジメントすることが求められ、CFOには有形のカネやモノだけでなく無形の人材を有形化してマネジメントすることが求められる。
 
日本国内でも、ERPベンダーや財務会計ベンダーがHRテクノロジーの領域に参入してきており、HRテクノロジー大賞でもそういった企業の受賞が増えてきた。HRテクノロジーがさまざまなxTechと連携したサービスが今後さらに増えていくことが想像される。テクノロジー活用では他の業界より比較的進んでいる広告・PR業界の企業は、テクノロジーをビジネスで活用するだけでなく、自社で活用するにはどうすべきかを考えてみると、HRテクノロジーをいかに活用すべきかについても見えてくるのではないだろうか。
 
※1…電通、2017年 日本の広告費(2018年2月22日)
【執筆者プロフィール】
慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授 岩本隆(いわもとたかし)氏
「HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)」会長・代表理事。東京大学工学部金属工学科卒。カリフォルニア大学ロサンゼルス校工学・応用科学研究科材料額・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年から現職。その他、HR テクノロジーコンソーシアム(LeBAC)の発起人、経済産業省取材の「HR-Solution Contest―働き方改革×テクノロジー―」審査員長など。