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【第5回】あ、それ、AIが書きます。〈後半〉―クリエイティブの超・変化がやってきた

黒澤晃 2018.03.20

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【第5回】あ、それ、AIが書きます。〈後半〉―クリエイティブの超・変化がやってきた
広告会社・博報堂にてコピーライター、クリエイティブディレクターを経て、クリエイティブマネジメントを手がけ、クリエイターの採用・発掘・育成を行ってきた黒澤晃さん。数々の素質を見抜いてきた黒澤さんがクリエイティブ領域のAI化の研究を進める第一人者に話を聞き、「クリエイティブの未来にAIがどのように関与するか」を探っていくコラム。第5回はAI特化型Webメディア「Ledge.ai(レッジエーアイ)」のプロデューサーをつとめ、また自身もAI開発・導入コンサルティングを行う株式会社レッジCMOの中村健太氏に話を伺います。
レッジさんの2回目です。今回は、取材の後半、いろいろAIにまつわる興味深いお話が出ましたので、それをレポートします。まずは、最近、話題のデータ学習について、から始まります。
 
黒澤:AIにデータを学習させるということは非常に大切なこと。量的に大きくなければいけないですし。しかし、大きければ大きいほどいいっていうことでもないんですよね?
 
中村:おっしゃる通りです。ただ多いだけでは学習が上手く進まず、意図せぬ方向性に振られてしまうこともあるので。
 
黒澤:やっぱり入れるデータをしっかり目的に沿って整頓しないといけないんですね。
 
中村:はい。僕らは『前処理』なんて言ったりしますが、その通りです。例えば先の例についても、中部経済新聞のデータなら何でもいいというわけではありません。極端な例ですが、スポーツ記事の書き口を学習させてしまえば、やはりコラムらしさは学習しにくくなりますし、目的に合わせた準備と前処理が必要になってきます。それに、今は巨大な量を入れなくても、ある程度のデータ量、たとえば数百とか数千とかがあれば、そこから何かを生成する…といったことも可能になってきている。これもまた事実だったりします。昔ほど大きなデータは要らなくなってきている…とも言えるかもしれませんね。
 
黒澤:むしろ質が大事ですか?
 
中村:そういうことです。あとは、データの拡張ですね。学習データとして足りないものを、機械的に生成。それを学習エンジンに取り込むんです。たとえば僕の顔の写真を学習させようとして、写真が全部で3カットしかないとします。それじゃ学習データ足りないねとなった時に、揺らすんです。髪の毛を伸ばした顔であったり、色を暗くした顔であったり、データとしての揺らしを機械で自動的に行って、結果どんな状態で僕の顔が写っても認識できるようにしていきます。人間の目もしてるじゃないですか。モノを見た時に、それ以外の状態の見え方を想像したり。与えられている情報を拡張してやるのが、マーケティングであったりクリエイティブですよね。それと同じことをやっていくイメージですかね。
黒澤:ところで、突然ですが、技術系出身なんですか?
 
中村:いや、違います! 文系でした。技術的な情報は正直、チームメンバーと共有しながら…という感じです。楽しくてある程度は自然と覚えてしまったというのもありますが。
 
黒澤:今回、AI×クリエイティブでインタビューした方は、みんな楽しそうでした(笑)。
 
中村:いやー、面白いですもんね。 何でしょうね? 先端で研究している人たちですらまだ何ができるのか本当にはわかっていない。そんな可能性の限界が見えないところに挑戦するって、すごくクリエイティビティを刺激されて、ワクワクしますよね。
 
黒澤:世の中的には、AIへのイメージは、まだまだクリエイティブなものではない面があります。最初に話題になったのは将棋や囲碁やチェスの世界。ものすごいニュースになりました。その時に「人間を負かすもの」みたいなイメージができました。人間が機械に負けた、という論調ですよね。AIにはもっともっと可能性があるにもかかわらずですね。将棋や囲碁やチェスのAIは、比較的簡単なジャンルのものだと技術者から聞いてもいます。
 
中村:ですね。要は『最善手を取り続ければいい』ので、目標が限られている分、例えば『雑談をして楽しませる』みたいな目的をもった対話エンジンなどと比べれば楽だと思います。
 
黒澤:急速に進化しているので、将棋・囲碁の世界も、もう最先端ではなくなってきているんでしょうね。今後は、人間の感情とか気持ちをAIが身につけてゆく。人間の感情もデータ化ができるようになってゆく。
 
中村:学習データを多少強引にでも引っ張ってくることで、それ(人間感情のデータ化)もできるようになってきた…というかできそうな気配がしてきていますね。しかし、あくまでも、こうじゃないかっていう人間の類推があって、それを教え込むことでって話になるんですけど。
 
黒澤:コンピューターが勝手に機械的に学習すると思っている人も多いですよね。
 
中村:多いですね。もちろん、綺麗に精査されたデータが世界中に散らばっているのであればできると思います。しかし、今はそうなっていません。そうなるまで、まだまだかなりの時間がかかるでしょう。
 
黒澤:人間が教師になっていかないといけないことが多いんですね。ここが、僕はすごく大切なポイントだと思っています。
 
中村:なので、結局やっぱり人間がしっかり教えてあげないとダメなんです。たとえば『いろんなこと知りたいんだよ!』っていう子どもに、授業をまったく受けさせないで、ネットだけ与えて、自由に情報をとりなさいとしたら、どうなるか? 絶対に、偏っていきますよね。もしかしたら良くない政治思想を頭に入れてしまうかもしれないし、自分の好きな情報ばかり覚えてしまうかもしれないし、反対意見は黙殺して勝手な人間になっていくかもしれない。ポイントは、「何が正しいのかという軸」を人間が与えないといけないということなんです。それは親や先生の役目というか。何が正しいかということを、評価をしつつ導いていく、そんな存在の人間です。軸をつくってあげる必要があります。
 
黒澤:正しいか正しくないかの軸、というのは面白いですね。
 
中村:実は、今のコンピューティングの世界では、フェイクニュースのほうがバズってしまう傾向があります。量の情報を優先すると危険なことが起こってしまう。データ比重でいくと重い方を優先してしまう。量が真実ではないんだということ。教える人間が正しいことを教えられるっていう前提が、まず必要なんです。
 
黒澤:フェイクニュースの方がバズる、というのは確かにある話ですね。フォロワーが多いから、「正しい」つぶやきでもないということ。初めに、正しいことを学習させても、あとから悪に転じるということはないんでしょうか。
 
中村:ありえます。ですので、放置はだめで、チューニングをしていかないといけないですね。人間はやってはいけないことに対してストップする力が働きますが、ITの世界では何もしなければ働きませんので。データの質とか、学習方法とが大事です。
 
黒澤:人間は、やはりAIの先生であらねばいけないんですね。
 
中村:どのデータをどういう重み付けで与えるかっていうのが、人間のやるべきところになるかなと思っています。たとえば、予測系のエンジンを組んで、競馬の予測をしましょうかという話になった時、人によって重要視するデータは違いますね。予測屋さんの中でも、体重が大事なんだよとか、騎手との相性が大事だよとか、いやいや血統だよとか。比重の置き方はまさに設計者の個性だと思います。後は結果が出るので、その結果を見ながら、精度を上げていく。設計側の人間の個性によって、AIの能力は大きく変わります。
 
黒澤:誰がつくったかで能力が変わる。ということは、設計者間の競争が激しく起こるということですね。
 
中村:だと思います。能力の話になるので。
 
黒澤:設計側の個性という話で思ったのですが。頭が良くて理科系でバリバリの人より、世の中を知っていて人間の感情とかがよく分かる優しい人がいれるデータのほうが心に響くみたいなこともありえますか。
 
中村:充分ありえますね。実際にクリエイターさんとかライターさんみたいな方のほうが、設計サイドでの需要は上がっています。僕らもたとえば、ボットに何を学習させるのか、喋らせるのかっていう設計はシナリオライターさんにお願いしたりもしています。
 
黒澤:AIのプログラマーの方とクリエイターがジョイントして、能力を創造していく。そういう時代だと。
 
中村:本当に人に訴えかける文章って、やっぱり人間のプロの領域なんですよ。たとえば、うちで言えば、パナソニックさんのチャットボットの案件では、シナリオライターさんにガチガチに入ってもらってます。人間がこう話した時になんて答えてほしいのかっていう仮説の部分をデータで感情値を測って、どう返すべきかのスクリプトをつくらなければならない。結局、女の子の気持ちが分かるというよりは、ユーザーが男性になるでしょうから、男性が言われてうれしい言葉が必要だろうと。その視点でゲームのシナリオライターさんに依頼して書いてもらっています。
話は少し変わりますが、マスメディアンさんは人材紹介業ですよね。クリエイターが心にビッとくるようなキャリア相談を、ボットで自動的に言えるようになるかというとそうではないんです。それ言われたら気持ちよくなっちゃうなって言葉をつくり出すことは、どれだけ膨大なデータを学習したところでAIではできないと思います。それは、やっぱり人間がシナリオを書いて、比重の置きかたを考え、こういう言葉なんだよっていうのを教え込まないといけないんです。

黒澤:この前、中国で「共産党は無能」と話したAIも、あれは暴発ではなく、ひょっとして人間が教えたんですか?(編集部注:2017年7月に起きた事件。中国の大手IT企業テンセントの提供する人工知能と会話するサービスで、この人工知能が中国共産党を批判。その後サービスは停止された)
 
中村:やった可能性はありますね(笑)。Facebookの事例が面白かったですね。ボット対ボットで交渉して値引きの成功率を上げるためのスクリプトは何かみたいなものを実験してたら、あまりにも効率を求めすぎて、人間には訳の分からないことをしゃべり始めた。文字ではなく、全部機械的に最適解を得ようと効率を求めすぎた結果、会話の中身がレモンレモンレモンりんごりんご2ドル、2ドル2ドルりんごりんご。で、返してくるものが、1ドル1ドル1ドル2ドル、1ドル2ドルりんごりんごみかん…みたいな事を言い出して(笑)。ちょっと待って!!! と停止された。なんて話もありました。
 
結局、効率化を求めていくと冷たいロボット的なAIに行き着いてしまうんです。効率よく人の心を動かす、情動させるみたいな話になった時に、すごい逆で、今まで以上に人間が考えないといけなくなるんです。
 
黒澤:効率化を求めていくときに、機械的な発想ではなくて、人間的な発想がいる、というのはものすごく示唆に富んでいます。効率化で思ったのですが、AI導入による人員整理を打ち出している会社も増えてきました。どう思われますか?
 
中村:確かに効率化にはなるので、ありえない話ではないとは思います。でも、今ある人間作業を自動化・最適化するイノベーションという観点でなく、今までできなかった価値を提供するイノベーションという観点のほうがはるかに面白いですよね。
 
黒澤:そう思います。コストカットAIではあまりに夢がない(笑)。
 
中村:僕らが携わった新聞社の仕事を例にすると、現場に行かなきゃ手に入らない情報こそ貴重だと思うんです。でも、次から次へPC上で情報が入ってきて、即時、記事化しないといけない仕事を自動化したらどうなんだろう。記者が画面にへばりついて、作業ライクに入稿するっていうのを一日やっているなら、機械化してしまおう。その代わりにICレコーダー持って現場にインタビューに行こう。そこに行かなければ手に入らない情報に新たな価値をつくっていく。そこの価値づくりに、AIがかかわっていく。
 
黒澤:いいですよね。現場でリアルに体感したことが文章になって、また良質なデータになっていくのがすごくいいと思います。
 
中村:極端な話、スポーツの結果速報っていうのは人間が書いてますが、AIが書くようになって、そこを書く人間を用意する必要がなくなる。その分、試合終わった後に全選手にインタビューして、彼らがなんて言ったかのデータをデータベースに蓄積していく。その選手の失敗や成功や葛藤などの感情がたまっていくと、時間軸に沿ったリアルなストーリーもできていく。そうすることで、記事はより人の心に迫ることができると思うんです。可能性が拓けます。記事としてもドラマが生みやすくなります。「前の投球のときにノックアウトされたが、今回は挽回するためにこう努力した」みたいな記事とか、「違和感はあった。もしかしたら怪我になっちゃうかもしれないけど、それを乗り越えようと心のなかでもがいた」みたいな解釈に使える可能性が出てきます。
 
黒澤:現場に行く・インタビューをする仕事が増えて、ライティング業務はAIにおまかせ。人間はストーリーやドラマをつくるほうにまわるということですね。
 
中村:ある程度、そうなっていくと思っています。そこも、音声認識と自動翻訳を使ってしまえばインタビューした音源をすぐテキスト化し記事にまとめられ、紙面に組み込まれるところまで自動になっていく。だから質問でいかに本音を引き出せるのか、の方に、よりクリエイティブな頭を使わなければいけなくなる。それこそ本質なんじゃないかなと僕は思っています。
 
黒澤:属人的な能力こそ、キーになっていく。プロフェッショナル度の問題でもありますね。
 
中村:ええ、ある程度、経験をつめば、みんな一定以上のクオリティが出せるものは、人間がやる必要はなくなっていくでしょうから。自分にしかできないオンリーワンなものを身につけるには? という方向に価値が求められていくと思っています。オンリーワンがある人は、新しい仕事の可能性を開いていくこともあるでしょう。そこを誤解しないようにしないといけないですよね。仕事がなくなるって言う話は全然ないと思います。むしろ増えちゃいますよ。
 
黒澤:なくなるものもあるけど、新しい雇用も生まれるから、問題ないと僕も思います。
 
中村:インターネット黎明期、どこもかしこもホームページを作成し始めた時代って、営業マンいらなくなるって本当に言われていたんですよ(笑)。あいつ、電源入れとけば24時間営業してくれるから、お客さんが見てくれて、問い合わせが勝手に来ちゃって、もう営業が行かなくていいんだから! みたいな。でも実際インフラが整ってみてすべての人がインターネットにつながったときに何が起こったか? 選べる情報が劇的に増えたので、うちのページを見てたのにいなくなっちゃった! 問い合わせしてくれてたんだけど離脱しちゃった! えっ、メルマガ閲覧率5%まで下がったぞ! となって、ホームページとかの再設計を考えたり。ま、とりあえず、営業の人員増やすか 、となったり。営業はなくならなかった。
 
黒澤:今後はどういうプロジェクトを?
 
中村:最近、結構増えてきたのは、人間の目でチェックしないといけないという業界ルールに縛られていた業務を機械化してしまって、よりクリエイティビティに使う時間を増やしたいというお願いですね。あとは、やっぱりコミュニケーションの高速最適化を狙う依頼が多いです。広告とかですね。
 
黒澤:AIが自動化することで、なにが変わりますか?
 
中村:SNSにしてもPPCにしても、なにを求めている人かというシチュエーション分類と属性分類、そこから類推されるなにが好きなのかのペルソナ情報、性別や時間帯などのタイミング。あとはテキストとクリエイティブ画像の2つ。これらの組み合わせによって、運用の最適化を模索していきます。しかし、この組み合わせを人間がやろうとすると無限になります。見てもらったけどクリックしなかった人はこういう属性の人だった、つまりその属性にひもづく人たちには広告を出さないようにしよう。そして、クリックしてくれて申し込んでくれた人は、こういう属性の人達だった、だから類似する人たちに次は広告を出してみよう。そして、その仮説が合った、いや違った…っていうのを、次々に試していくわけです。こういうところはもうAIに全部任せてしまうことができるようになります。そして、人間はなにをやるのか? というと、最適化されていく運用体制の中で、エッジの効いた広告クリエイティブをつくっていくことに集中する。そして、それがどこに刺さるのかっていうのを無限に試すことができる、そんな世界が始まるわけです。人間が予測しなかった組み合わせに当たったりするケースも出てくるでしょうし、コンテンツで実験することができるようになる。表現の幅が広げやすくなるわけです。
 
黒澤:そこはもう普通に運用されています?
 
中村:そうですね。始まりつつあります。
 
黒澤:自動化できるものは数限りなくある気がします。さきほど、出ていた営業の話をすると、社会全体の傾向として、営業のデスク在席率が昔と比べるとものすごく増えています。見積もり、週報月報、企画書、そして連絡メール。だからクライアント先に行かなくなっちゃった。広告会社でファッションの会社を担当している営業さんが、アパレルのお店に勉強のために行く時間もない。リアル情報が手に入らないので、全部ネットで調べて仕事をやっていく。現場力がどんどん落ちて来ている。思うのは、見積もり書や企画書の雛形がAIによって自動化されて、人間が最後の知恵の一手間をかけるというようになると、ずいぶん楽になりますよね。経費計算とかは、すでに変わりつつあるようですけれど。
 
中村:連絡メールとかも、ある程度は雛形をつくれるようになるでしょう。得意先を喜ばせる雛形とか、無理な注文をうまく断る雛形とか、成約率が高い雛形とかまでできる可能性もありますね。
 
黒澤:テンプレートメーカー(笑)。それをつくる新たな職業が出てくるかもしれませんね! ナレッジ共有できるところはしてしまおうという発想は面白いですね。
 
中村:どの会社でもメールのナレッジ共有はされてないと思いますが、実現できれば非常に革新的なことができるかもしれません。
 
黒澤:最後の質問なんですけど、甲子園とかの記事を書くと、高校球児の汗が~、みたいな熱い記事になったりします。例えば、中部経済新聞の記事だと、経済の話が多いんでちょっとクールになっちゃったりしますか?
 
中村:ちょっとクールになっちゃいますね。書き口の学習はやっぱりそうです。だから、侑杏(ゆあ)ちゃんでいうと「おっはよーん」みたいなことになっていきます。長年培われてきたアウトプットの中にある「我々とはなにであるのか」みたいなアイデンティティを、書き口として財産にしてしまえるのが面白いと思っています。
 
黒澤:「我々とはなにであるのか」ですか?
 
中村:ええ。中部経済新聞のAI作成の記事が実際に公開されたとき、Twitterで何人かのライターの方に、胸のしびれるような、ありがたいコメントをいただきました。「この堅苦しい書き口は、記者たちが積み上げてきた努力の結晶だ。知が財になる時代が来た」みたいなことを言っていて。確かに今までであれば継承は難しかったかもしれない人間の技を機械化し、共有ナレッジ化をする。我々とは何であるのかっていう絶対的な指標が持てるようになるわけです。
 
黒澤:なるほど。とても面白いですね。いま、思ったのは、広告会社の仕事で、競合に勝った案件を、膨大なデータとしてすべて分析して、集合知として貯められるとすごいかなと。企画書はこうで、アイデアはこうで、表現はこうで、スタッフィングはこうで、とベストなアンサーを導き出す。どうですか?(笑)
 
中村:ありですね。もう少し進むと汎用AIになりますね。彼に、この切り口で、この表現で、この構成で資料をつくらせるとより勝率が上がる、みたいな時代になるかもしれないですね。すべてをトータルで判断して、最強の答えを出すAI。
 
黒澤:そうか、汎用型になると優れてるけど、なんかかわいくない方に向かっていっちゃうっていうことですかね。
 
中村:なので、実際のやり方としては骨子までつくるにしておいて、その中身をどうするかっていうのは人間に任せるという分担が美しいかもしれないですね。結局は、毎度毎度勝ちパターンどおりにやってしまうのも面白くないし。業種業態、会社の成績、投資したいといっている金額などで、正解パターンみたいなものが共有されてしまった先に、結局はさらなる創意工夫がいるんだ! という感じかなと。
 
黒澤:汎用型になると、電通と博報堂が、同じ「勝てるプレゼン案」を持ってくる可能性もある。
 
中村:そうなんですよ、結果やっぱり起こるのは創意工夫のパターンが勝負どころになってくる。
 
黒澤:やっぱり人間の戦いなんですねぇ。
 
中村:ええ、いまは、ちょっとまだAIには真新しさがありますし、先に手出したモン勝ちみたいなところありますけど。
 
黒澤:これから成熟していくと、ですね。
 
中村:それは、紙のパンフレットでやっていた時代が、Webサイトになって、Webサイト持ってたらすごいからみんなWebサイトを持つようになって。結局、その画面の中で何をするのか、あるいは画面を飛び出して何をするのかみたいな話になっていって。だから同じことだと思います。
 
黒澤:結局、創意工夫なんですね。
 
中村:だから、人間に求められる仕事、特にクリエイティブに関しては、むしろしんどくなるくらいの話です(笑)。無駄な作業はなくなっていくかもしれないですけどね。
 
黒澤:これはこうだろうなっていう定型化したクリエイティブはやらないってことですよね。だから、今以上に特化しないといけなくなる時代になる。
 
中村:ええ、そうなると思います。人間の個性もより大切になっていくでしょうし。
 
 
世の中には、3つのタイプの人間がいる。ひとつは、変化を楽しむ人。ふたつめは、変化に受動的な人。そして、もうひとつは、変化を創り出す人だ。今回の、AI×クリエイティブの取材では、「変化を創り出す人」に毎回、インタビューしてきた。そこには、非常に人間的なオーラがあり、こちら側もそのオーラが心地よかった。
 
AIテクノロジーを開発することで、人間社会の持つ課題を解決したいという欲望、それをするためには従来型のアプローチではなく、クリエイティブなアプローチが必要だという認識。それらが、人間的なオーラの源であったように思う。
 
人間を機械的オペレーション業務から解放し、人間が本来もっている、文化的で創造的な本性を輝かせようとする。そのためには、コンピューティング社会の持っている「悪しき部分」も改善しなければならないだろう。AIによって、理想とされてきたが、なかなか実現できてはいない「ヒューマン・コンピューティングの世界」がかなえられるのを期待したい。そして、その変化に「受動的でなく能動的に」かかわってゆきたいと強く感じるインタビューであった。
【執筆者プロフィール】
黒澤晃(くろさわあきら)氏
横浜生まれ。東京大学卒業。1978年、広告会社・博報堂に入社。コピーライター、コピーディレクターを経て、クリエイティブディレクターになり、数々のブランディング広告を実施。日経広告賞など、受賞多数。2003年から、クリエイティブマネージメントを手がけ、博報堂クリエイターの採用・発掘・育成を行う。2013年退社。黒澤事務所を設立。東京コピーライターズクラブ(TCC)会員。