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HRテクノロジーはあら探しではなく適材適所探しに使いたい―サイバーエージェント

マスメディアン編集部 2018.03.20

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HRテクノロジーはあら探しではなく適材適所探しに使いたい―サイバーエージェント
大手インターネット広告会社のサイバーエージェントには、HRテクノロジーを担う人材科学センターがあります。ここでは3000人以上の社員の人材データが分析され、社員の適材適所な配置に日々役立てています。今回AD・HRニュースでは、同センターの責任者の向坂さんに取材しました。HRテクノロジーを利活用する上で、大事なこと・気を付けていることなどをお聞きしました。
―まずは、向坂さんのご経歴について簡単にお聞きしたいと思います。
2003年にサイバーエージェントへ新卒入社し、広告代理店部門で営業をしてきました。その後、2011年に一旦退職し5年間上海でマーケティングに従事していました。2016年に日本に戻ってきて、サイバーエージェントへ再度入社しました。いわゆる出戻りなんです。それで、もともと所属していた広告代理店部門に配属だと思っていたのですが「人事でマーケティングをやりたいからどう?」と声をかけていただきまして。最初は「人事でマーケティングって何?」と、やることがまったくイメージできなかったのですが、組織をもっと良くするためにデータを活用していきたいという話を聞き、面白そうだと思い人材科学センターへ入りました。

―所属としては「人事部」ということになるんでしょうか?
そうですね。当社は事業部ごとに人事部門があり、さらに会社全体を横断した人事施策や労務、採用などを担う人事管轄が別であります。私が所属するのは、その会社全体の人事管轄で、その中に人材科学センターがあり、そこで活動しています。
人材科学センター 向坂真弓氏
―向坂さんが所属する人材科学センターについて詳しくお話いただけますか。
所属と言っても私一人なんですけどね(笑)。全社の人事データを分析して、経営や人事配置の意思決定に役立つような情報にするということを考えています。2017年5月に人事システム室という部署ができ、人材科学センターで扱うデータの整理や、データ自体の取得のためのシステムを開発してもらっています。

―人材科学センター自体の立ち上げも同時期ですか?
人材科学センターは、2015年設立です。当社では年2回、経営陣がそれぞれ新しい事業案や中長期での課題解決案などを出し合う「あした会議」という経営会議を行っているのですが、そこでとある役員チームから提案されて、設立が決まりました。

―何かしらの課題があってその解決案として提案されたのでしょうか?
いえ、早急に解決すべき課題があったわけではないです。当社では2013年から、GEPPO という、約3000人の全社員に自身の強みやキャリア志向、コンディションなどを尋ねる、適材適所のための、簡単な月次アンケートを取っていました。それが1~2年運用され、データがたまってきていたので、人事部にデータ分析を専門にするチームをつくり、アンケートの結果を科学的に分析して、適材適所や組織の課題発見につなげられないか、といった提案でした。

―もともと社内アンケートツールがあったんですね。GEPPOについてもう少し詳しく教えてください。
2011年ごろ、会社の事業領域をスマホにシフトする動きが加速し、アプリ開発のためのエンジニア採用を増やし、社員数が急増していました。社員一人ひとりの強みなどが事業部内にとどまってしまい、全社の人事管轄では把握しにくく、また直接現場の声を全部収集するのは大変なため、全社員に対し、一括で毎月3問のアンケートを取る仕組みを始めようとしたのがきっかけです。
GEPPOダッシュボード
―なるほど、そういった経緯だったのですね。ちなみに話はすこし戻るのですが「あした会議」で人材科学センターの立ち上げが決まり、向坂さんが抜擢されたわけですが、普通だったらデータサイエンティストやHRの人材がアサインされるのでは? と思ってしまいますが…
畑違いですよね。私もそう思いました(笑)。でも、最初に「向坂は会社のことをよく知ってるから」と言われまして。サイバーエージェントにはどういう社員がいて、どういう組織体系で、ということを肌感覚でわかっている人にやってほしいということでした。あと、一旦外を見て戻ってきてるというのも、フラットな視線で見れるため、後から考えると評価されていたのかなと思います。

―たしかに出戻りとなると、より会社のことがわかりますよね。2016年から人材科学センターとして活動を始めたということですが、最初はどうでしたか?
最初は本当に手探りでした。「これをやってくれ」というオーダーが経営からあるわけではないので、経営が意思決定に使えそうな情報や、事業部人事が課題解決に使えそうな情報を片っ端から出していました。たとえば、他社でもやってると思いますが、採用時の評価と入社後のパフォーマンス評価の相関を見るとか。

―それはどうやって?
すごく単純ですよ。採用時の評価情報は、どの会社でもありますよね。その人たちが半年後、1年後、1年半後とかに、予想通り活躍できてたかを3年間定点で調べてたんです。4年目以降の活躍は入社後の努力によって変わりますが、3年目までは本人が持ってる素養や、最初の現場の環境によるものが大きいそうです。このため、3年目までの社員で活躍してる人に1人1時間ぐらいかけてインタビューして「この3年間でどういう経験をしたのか」、「自分の成長に影響があったと思う経験は?」っていうのをヒアリングし、育成に活かせるよう体系化していきました。

―データ分析といっても結構アナログなことをされているんですね。
そうです。マーケティングの「消費者の声を聞く」という行為にかなり近いと思います。「どういった上司に学びを得たか」とかは、その人の上司履歴のデータを見ても分からない。直接聞くしかないんです。そうやって集めた情報を事業部人事や本社人事に共有しています。そのほかのアナログな話では、一番最初にやったことで、事業部人事と本社人事などにヒアリングして、今感じている課題などを聞きまわりました。それに対して、できるところから地道に証明していきました。

―その分析ではどういった結果が出てきましたか?
正直びっくりするような結果は出てこないです。肌感覚であったものが証明されるぐらい。でも、そういう小さな証明を繰り返していくことで、現場との関係性ができ、現場から課題が来やすくなる。それで少しずつ私の仕事も増えるようになりました。

―その後、どういう業務をしてきましたか?
事業部人事や役員会からのオーダーが固まってきたので、定期的にレポートを作成・提出しています。

―どんなレポートを作成しているのでしょうか?
毎月必ず提出しているものとしては、GEPPOを見てコンディションが良くない組織や、コンディションが晴れから急に大雨になるといったような社員の情報を役員会に出しています。GEPPOで毎月コンディションを質問しているため、これまでに蓄積したデータとも比較して分析を進めています。それ以外では、各事業部の数値表を作成しています。たとえば「生産性と就業時間」など気にするべきポイントを組織ごとに数値を分析し、レポートにまとめて提出しています。

―作成されたレポートはどういった使われ方をしているのでしょうか?
事業人事と担当役員との会議で、その資料を見ながら、組織変更などの人事施策の判断材料に役立ててもらっています。業績だけを見れば”いいチーム”でも、分解していくと「一人あたりの生産性が低い」とか、「就労時間がかなり長くなってしまっている」といった課題があることがわかれば、当然その組織を改変するという経営判断になります。

―そういった課題は、GEPPOで抽出しているんですか? それとも個別にヒアリングをして抽出しているのでしょうか。
部門を横断した全社での『適材適所』としたときは、GEPPOで収集したデータを使うことが多いです。ただGEPPOはあくまで社員本人の主観的なデータかつ、全社員共通の質問。8名いる取締役とGEPPOを運用している全社のキャリアエージェントチームしか閲覧できないようにすることで、社員に本音で回答してもらっています。そのため、事業部内の配置転換などについては、事業部ごとに取ったアンケートを活用しています。またその他の分析では、勤怠データなど社内の人事データも使用しています。

―事業部ごとのアンケートというのは、どういったものでしょうか?
事業部版のGEPPOをイメージしてもらえれば良いかと思います。GEPPOが全社で上手く運用されていることを受けて、事業部ごとにカスタマイズされたものが展開されています。GEPPOは内製ツールなので、ほんのすこしの開発だけで、各事業部へ渡すことができます。全社横断では共通質問として聞きづらいスキルや得意領域、例えば広告代理店部門だと「得意な広告種別」や「担当した業界」などをヒアリングして、事業部人事が『適材適所』に配置する参考にしています。

―事業部内の異動だったら、たしかにそれを参考にしたいですね。
本当は一人ひとりと面談をして、本人の志向やコンディションを把握するのが理想ですが、それができないような大きな組織だと、まずアンケートで一次情報を取得するのはありかと思います。あと、アンケートだとデータで蓄積されていくメリットもありますね。

―『適材適所』以外ではどういう時に使うのでしょうか?
センシティブで、常に気をつけようと意識しているのが、HRテクノロジーを活用して「退職しそうな社員をフォローしたい」とか「組織のボトルネックになっている課題を発見したい」とか、ネガティブな因子を見つけたくなるのを、止めることです。これは「社員のいいところを上手く活かすためにデータを使いたい」という思想が根底にあります。だから、やはり一番大きなテーマは『適材適所』です。HRテクノロジーの発展で、「退職リスク分析」や「ハイパフォーマー分析」などを導入している会社もよく見ます。たしかに、この仕事をやっていると、なんでもかんでもデータで証明したくなりがちですが、『データの罠』もあると思っています。

―『データの罠』ですか。どういうことでしょうか?
たとえば退職リスク分析で「この社員は3年以内に辞める確率が70%です」という数字が出たとすると、一見いいことのように思えますが、仮にその社員が活躍したとしても、「あの人はきっと3年以内で辞めるから」というレッテルが貼られてしまって、その活躍を正当に評価できなくなってしまう。データによってついたレッテルはなかなか剥がれないので、すごく怖いんです。このため、データの取り扱いはすごく慎重にやってます。

―なるべくポジティブなものにつながる証明をしていくということでしょうか?
おっしゃる通りです。

―それは、ご自身の考えでしょうか? それとも経営が求めているのでしょうか?
少なくとも社長の藤田は、社員全員が活躍してほしいと思っている経営者なので「活躍してる社員を上からリストアップして持ってこい」というようなオーダーはないと思います。多くの会社が新卒採用などで導入している適性検査を当社は創業以来やったことがありません。人をタイプ分類してカテゴライズするということをやってきていないんです。「カテゴライズするとレッテルを貼ってしまう可能性がある」という明確な藤田の意思があります。そういうことからも、すべてをデータで証明していくことを経営側も求めていないのだと思います。

―それが創業して20年来ぶれずにあるのはすごいですよね。そして向坂さんがその不文律を汲み取れるからこそ、2016年にアサインされたのだろうなと感じました。私が人事だったら全データを洗いざらいにしたいと思ってしまいそうです。
カルチャーが染み付いてるせいかもしれません(笑)。当社でGEPPOがうまく運用できているのも、経営や人事や会社に対して、自分のやりたいことや、今の状態を素直にみんなが言ってくれるというオープンなカルチャーがあったからだと思います。今でも自分への戒めとして、「扱ってるのはデータじゃなくて社員の声なんだ」ということはしっかり意識するようにしています。

―皆さんGEPPOに正直に答えてらっしゃるんですね。GEPPOによる具体的な改善例などあったりしますか?
コンディションがネガティブに変化している社員を、GEPPOで見つけて面談をしたり、障がいを排除したり、結果異動をしてもらったという例はいくつかあります。その社員の異動後の天気を追うと晴れになっていて安心します。あと、「ビックリ退職」は減りましたね。

―ビックリ退職? それはなんでしょう?
退職を予想もしていなかった社員がいきなり辞めるといったケースです。もちろん退職する社員は一定数いますが、ビックリ退職はかなり減っています。常になにかしら声を収集していたり、あるいはもうGEPPOへの書き込みすらなくなってしまったりで、フラグが立つので、退職の兆候は事前にキャッチできるようになりました。

―最後に今後の展望についてお聞きできますでしょうか?
ちょうど現在進行中ですが、GEPPOのアンケート回答を含むセルフインフォメーションと、組織からの評価情報や査定評価、給与、昇格などの外部情報つまりレピュテーションをうまく掛け合わせて、社員の活躍度合いを可視化したいと思っています。周りは評価しているけど本人はずっと雨になってるとか、逆もしかりですが、そこを可視化して、社員の優劣をつけるというよりは、伸び悩んでいる人材を発見して早期に手を打てるようにするために、2つのデータを掛け合わせるロジックを構築していきたいと思っています。

―ありがとうございました!