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【第1回】働き方改革と副業・兼業(1)―社労士が見る時事ニュース

小宮弘子 2018.02.21

  • 働き方改革
政府が推進する「働き方改革」によって【副業・兼業】や【テレワーク】などの導入が加速することが予想されます。広告・Web業界は比較的適応しやすい業界。AD・HRニュースの読者である経営者・人事担当の皆さまも注視しているテーマかと思われます。今回新たに、『働き方改革の教科書』の著者である社労士の小宮弘子氏に、時事ニュースを社労士目線で解説する連載をスタートします。(マスメディアン編集部)
働き方改革という言葉を聞かない日はないほどになりました。安倍首相は、今国会を「働き方改革国会」と言っているほどです。この改革のなかで、これまでの労務管理の常識が変わったものがあります。それが「副業・兼業」に関する取り扱いです。従来は、「原則禁止」の取り扱いであったところ、「原則容認」の方向に変わります。国が一転して原則容認とするには、副業・兼業を希望する人が年々増加している背景があるようです。一方、多くの企業では、副業・兼業を認めていません。これは当然ながら、自社の業務がおろそかになることや、情報漏洩のリスク、競業や利益相反になることを懸念してのことです。

広告業界では他の業界に比べてクリエイティブな職種の割合が多く、副業・兼業の推進となれば、より多くの事案が発生することが予想されます。そこで今回は、広告業界における副業・兼業の留意点について解説していきます。

副業・兼業の法的解釈は?

■副業・兼業とは
副業・兼業について法的な定義は特にありません。一般的に副業・兼業とは、正社員なら始業前・終業後の他社での勤務、役員就任、委託請負で仕事を受けることなどが該当すると考えられ、非正規雇用者なら上述のほか複数の勤務先を掛け持ちすることも考えられます。

■副業・兼業と法規制
副業・兼業自体に法的な規制はありませんが、以前は厚生労働省が公表していたモデル就業規則には労働者の遵守事項として「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」と規定していました。ところが2018年1月に公表されたモデル就業規則では、労務提供上支障がある場合など、一定事項に該当する以外は原則容認とする規定例となっています。これは副業・兼業の裁判事例において、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的に本人の自由であり、各企業において制限することが許されるのは、次のいずれかに該当する場合と考えているためです。

(1)労務提供上の支障となる場合
(2)企業秘密が漏洩する場合
(3)会社の名誉・信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
(4)競業により企業の利益を害する場合

広告業界での副業・兼業の対応方針は?

■広告業界で想定される副業・兼業とは
広告主の場合は、特にインターネット広告において内容を日々改善するために社内で運用者を抱えるインハウス化も進んでおり、インハウス人材を取り込む場面で副業・兼業の問題が発生することが予想されます。

また、広告業の場合では、人材不足であるため、特定の企業に専属で雇用されるという形態に拘っていては、欲しい人材が採用できないことも予想されます。雇用者という形態で場所や時間を拘束することで人材が確保できないのなら、必要な仕事だけを必要な場面で依頼するといった請負などの形態が考えられます。一方、社内人材のキャリアアップのために副業・兼業を認めるということであれば、人材の定着に一役買う施策になるのではないでしょうか。

■企業の対応
国の方針や裁判例を踏まえれば、副業・兼業について原則容認の方向で検討することが適当でしょう。また、業界的にも魅了ある企業とするために、一度は副業・兼業による業務上の影響=上述の(1)~(4)=について精査したうえで、該当するような事情がなければ認める方向で検討することが求められます。また、原則容認となれば就業規則の見直しも必要です。

■副業・兼業を認めた場合の留意点
【1】労働時間の通算
労働基準法では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用は通算する」とされ、「事業場を異にする」とは、行政通達によれば事業主が異なる場合も含まれるとされています。従って、一般の労働者として他の企業に雇用されて副業・兼業をする場合、労働基準法の規制である1日8時間、週40時間の取り扱いは、通算して取り扱われるということになります。また、労働時間の把握については、自社で雇用する従業員が実際に働いた時間を把握することとされています。

【2】時間外手当の支払義務
上記【1】により1日に2つの勤務先で勤務する場合、8時間を超えて勤務している先で、時間外割増賃金の支払い義務が発生することになります。
例)事業主A:所定労働時間6時間
    事業主B:所定労働時間3時間
事業主Bにおいて1日8時間(法定労働時間)を超える1時間については法定時間外労働(時給の125%)となります。会社が副業・兼業を認めず内緒で副業・兼業を行っていた場合は、8時間を超えていても請求することはできませんでしたが、会社が認めた場合は、通算による時間外手当の請求が行われることが想定されます。

【3】労働時間の把握や管理
副業・兼業先での労働時間をどのように把握・管理するかについても、許可にあたっては重要な検討事項の一つです。本人の申告をそのままうのみにすることはできませんから、その従業員が副業・兼業先に負っている守秘義務に留意しつつ、労働条件通知書や契約書等の情報を提供してもらう、または本人の申告内容に対して証明してもらうなどの対応が必要と考えられます。

【4】労働時間の把握が法的に必要ない場合
個人事業主や委託契約・請負契約等により、労働基準法で定める労働者に該当しない形態、または労働基準法上の管理監督者として、副業・兼業をする場合は、労働基準法の労働時間の規制(1日8時間等)が適用されません。このような場合においても、過労などにより業務に支障をきたさないようにする観点から、自己申告により就業時間相当の時間を把握するなどして、長時間労働にならないよう配慮することが望ましい対応と言えます。副業・兼業を認めているわけですから、安全配慮義務も問われることに留意しましょう。
【執筆者プロフィール】
特定社会保険労務士 小宮弘子(こみやひろこ)氏
トムズ・コンサルタント株式会社 代表取締役社長
大手都市銀行本部および100%子会社で、人事総務部門を経験の後、平成15年にトムズ・コンサルタント株式会社へ入社。人事・労務問題のトラブルを解決、諸規定、賃金・評価制度の改定をはじめ、社内制度全般のコンサルティングを中心に行う。著書に『この1冊でポイントがわかる「働き方改革」の教科書』(共著)など。