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【第6回】新聞社の再編とニュースの行方―未来のメディア

志村一隆 2018.02.21

  • 未来のメディア
【第6回】新聞社の再編とニュースの行方―未来のメディア
WOWOW、NTT、ヤフーを経て、現在はメディア・コンテンツ分野の第一人者としてフィールドワークを進める志村一隆(しむらかずたか)さん。さまざまな国に赴き、現地の最新動向をレポートするコラム。世界各地のメディア・コンテンツにまつわるケーススタディなどを引き合いに、経営者の皆さまのアイデアのタネとなるコラムを発信していきます。第6回は「レガシーメディアの未来」がテーマです。(マスメディアン編集部)
昨年11月にアメリカの出版社タイム社が、同じメディア大手メレディス社に28億ドルで買収されると報じられました。タイム社は1923年に創業、1989年に映画会社ワーナーと合併し、タイムワーナーとして、メディア企業の巨大化(メディア・コングロマリット)の走りになった企業です。2001年にはAOLを買収し、インターネットの世界にも進出していましたが、2014年に映画会社ワーナーと分離、元の出版社に戻っています。

また、2018年2月7日には、アメリカのロサンゼルス・タイムズ紙が、親会社のトロンク社から5億ドルで米国在住の医師パトリック・スンシオン(Patrick Soon-Shiong)に売却されると報道されてました。

他にも、2010年にタイムと並ぶ著名な雑誌「ニューズウィーク」が、同誌を所有するワシントン・ポスト社から、わずか1ドルで売却されています。そのワシントン・ポスト紙も、アマゾンCEOのジェフ・ベゾス氏が、2013年に買収しています。さらに、米国ニューズ社も、21世紀フォックスといった映像部門と新聞部門を分離しています。

こうしたメディアの買収はなぜ起こるのでしょうか。まず、新聞や雑誌の紙媒体ビジネスの苦境が挙げられます。エリアを絞るなど特定のターゲットに配信するインターネット広告は、アメリカの新聞のローカル広告収益を減少させてしまいました。世界的に著名なワシントン・ポスト紙でも、紙の購読者90%はワシントンエリア在住です。アメリカの新聞は基本的にローカル紙であり、したがってその収益源である広告もエリアを絞って出稿する狙いのものが多いのです。その収益が激減したのが、現在の新聞社の苦境の原因です。

つぎに、オーナーが所有する新聞社や雑誌の経営形態も買収しやすいと言えるでしょう。ロサンゼルス・タイムズはチャンドラー家、ワシントン・ポストはグレアム家が所有していました。また買収されていませんが、ニューヨーク・タイムズはザルツバーガー家が所有しています。ちなみに、日本でも朝日新聞は村山家がオーナーです。アメリカの新聞は19世紀後半に創刊されていますが、そのほとんどはかつての起業家によってつくられ、創業家に守られてきたのです。こうした資本構成のシンプルさも、売却、買収が進む一因でしょう。

では、ビジネス的な苦境にも関わらず、なぜ買いたいという人が現れるのでしょうか。「タイム」や「ニューズウィーク」といったブランドの知名度の獲得が目的なのでしょうか。ニューズウィークは、紙での発行は停止されましたが、現在はデジタル版で継続されています。名前だけ存続し、事業形態をデジタルに変換するのは買収価格によってはROIがいいかもしれません。また、歴史あるメディアを買収することで、特定の政治的なメッセージを発信する目論見もあるかもしれません。

いずれにせよ、メディアの進化はテクノロジーと密接に結びついています。16世紀の印刷技術を話に出すまでもなく、20世紀初頭のラジオ、1960年代のテレビ、そして21世紀に入って普及したインターネットで皆さんお分かりかと思います。1980年代に「Video killed the radio star」という曲が流行しましたが、一世代前のメディアは新しいメディアに代替されていきます。

その意味で、今後のメディア市場を俯瞰するには、こうした旧来のメディア同士の買収だけでなく、ソーシャルメディアなど新しい動きにも注目する必要があるでしょう。日本版が発行されているハフィントンポストやバズフィードだけでなく、VICEやニュースのアグリゲーションであるRedditなど、新しいカタチのメディアが生まれています。

これから、政治や行政の情報が透明化し、人工知能で記事が発信されるようになれば、大手メディアの合従連衡の外側で起きているこうしたメディアが、主役になっていくのではないでしょうか。
【執筆者プロフィール】
志村一隆(しむらかずたか)氏
メディア研究者。1991年早稲田大学卒業後、WOWOW入社、2001年ケータイWOWOW代表取締役を務めたのち、2007年から情報通信総合研究所主任研究員。2014年にヤフーに。2015年に独立。著書に『明日のテレビ』(朝日新書、2010年)、『ネットテレビの衝撃』(東洋経済新報社、2010年)、『明日のメディア』(ディスカヴァー携書、2011年)、『群像の時代』(ポット出版、2015年)、『デジタル・IT業界がよくわかる本』(宣伝会議、2016年)など。著書でメディアイノベーションを紹介したメディア・コンテンツ分野の第一人者。現在は、独立メディア塾にて寄稿。2000年米国エモリー大学でMBA、2005年高知工科大学で博士号取得。水墨画家アーティストとして欧米で活躍。