【第5回】ボタンからボイスへ~機械がメディアになる日~―未来のメディア
志村一隆 2018.01.24
- 未来のメディア

2018年1月にラスベガスで開催された家電の世界最大級の見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)で、大手家電メーカーのパナソニックやサムスンだけでなくトヨタなども、次々とアマゾンやグーグルと音声アシスタント領域での提携を発表していました。
音声アシスタントとは、機械操作を音声で行う機能のことで、アマゾンやグーグル、それにアップルなどのIT企業がプラットフォームを提供しています。あらかじめボタンに割り振られた機能が決まっている従来のリモコンに比べ、音声操作は、言葉の曖昧さ、多様さのため、ビッグデータを人工知能で解析し最適化した回答をユーザーに返す必要があります。
そのため、検索サービスやeコマースでユーザーとの接点が多く、ビッグデータを集約できるIT企業が、その先端を走っています。なかでも、アマゾンは、自社のスマートスピーカー「Amazon Echo」を米国で2,000万台も販売し、腕時計から、スマートホームやクルマといった領域にまで広げています。音声アシスタントは、IT企業が提供する人工知能プラットフォームのインタフェースであり、消費者とのタッチポイントを確保するために、多くの企業と提携しています。
こうした音声サービスのマネタイズにはどんなビジネスが可能なのでしょうか。まず思いつくのが、検索広告と同じように、ユーザー行動履歴から、最適な情報を広告として配信することです。CNBCによれば、Amazon Echo内に組み込まれている自社音声アシスタントの「Alexa」がユーザーに回答するときに、特定の商品をさりげなくレコメンドするような実験をしているそうです。
昔からリアルな店舗にもメーカーからの応援店員がいて、自社商品をすすめたりしてます。そのネットワーク版を行なっているのです。こうした音声サービスは、声質や文脈などを識別できますから、そのうちリアルな店員のように、ユーザーの声色ですすめる商品を変えたりするかもしれません。
また、声色をまねるだけでなく、合成することも可能です。中国企業iFlytekは、人工合成した声色で商品をオススメする広告を配信しています。一度、音声をアーカイブすれば、あとは自由にセリフを組み立てられるそうです。そのうち、トップセールスの声色が売りに出されるかもしれません。また、自分の好きな声色をブレンドしてつくることも可能になるでしょう。
CESには、ソニーが発売した犬型ロボット「AIBO」の展示もありました。AIBOの眼は、スクリーンになっていて目の表情がイメージとして映し出されています。スマートスピーカーにはないエモーショナルな機械です。AIBOを見ていると、機械と人間の共存社会というものを実感します。
Amazon EchoやGoogle Homeは、人間と機械のインタフェースを、リモコンのボタンからボイスにしました。現在は既存の家電製品を代替するものと見られていますが、そのうち犬や猫など、もっと動物や家族のようなものが増えてくるでしょう。愛着ある機械がボイスで伝えるメッセージは、それだけ信憑性が高まるでしょう。
テレビやスマホは「メディア」を配信する機械でした。音声アシスタントが導入されるこれからの機械は、機械そのものがメディアになってしまいます。つまり、家電製品だけでなくメディアも代替していくかもしれません。そのとき、メディアの立ち位置はどこにあるのか? メディア界隈で働く人は、Amazon EchoやGoogle Homeの動きをこうした視点で見てほしいと思います。
音声アシスタントとは、機械操作を音声で行う機能のことで、アマゾンやグーグル、それにアップルなどのIT企業がプラットフォームを提供しています。あらかじめボタンに割り振られた機能が決まっている従来のリモコンに比べ、音声操作は、言葉の曖昧さ、多様さのため、ビッグデータを人工知能で解析し最適化した回答をユーザーに返す必要があります。
そのため、検索サービスやeコマースでユーザーとの接点が多く、ビッグデータを集約できるIT企業が、その先端を走っています。なかでも、アマゾンは、自社のスマートスピーカー「Amazon Echo」を米国で2,000万台も販売し、腕時計から、スマートホームやクルマといった領域にまで広げています。音声アシスタントは、IT企業が提供する人工知能プラットフォームのインタフェースであり、消費者とのタッチポイントを確保するために、多くの企業と提携しています。
こうした音声サービスのマネタイズにはどんなビジネスが可能なのでしょうか。まず思いつくのが、検索広告と同じように、ユーザー行動履歴から、最適な情報を広告として配信することです。CNBCによれば、Amazon Echo内に組み込まれている自社音声アシスタントの「Alexa」がユーザーに回答するときに、特定の商品をさりげなくレコメンドするような実験をしているそうです。
昔からリアルな店舗にもメーカーからの応援店員がいて、自社商品をすすめたりしてます。そのネットワーク版を行なっているのです。こうした音声サービスは、声質や文脈などを識別できますから、そのうちリアルな店員のように、ユーザーの声色ですすめる商品を変えたりするかもしれません。
また、声色をまねるだけでなく、合成することも可能です。中国企業iFlytekは、人工合成した声色で商品をオススメする広告を配信しています。一度、音声をアーカイブすれば、あとは自由にセリフを組み立てられるそうです。そのうち、トップセールスの声色が売りに出されるかもしれません。また、自分の好きな声色をブレンドしてつくることも可能になるでしょう。
CESには、ソニーが発売した犬型ロボット「AIBO」の展示もありました。AIBOの眼は、スクリーンになっていて目の表情がイメージとして映し出されています。スマートスピーカーにはないエモーショナルな機械です。AIBOを見ていると、機械と人間の共存社会というものを実感します。
Amazon EchoやGoogle Homeは、人間と機械のインタフェースを、リモコンのボタンからボイスにしました。現在は既存の家電製品を代替するものと見られていますが、そのうち犬や猫など、もっと動物や家族のようなものが増えてくるでしょう。愛着ある機械がボイスで伝えるメッセージは、それだけ信憑性が高まるでしょう。
テレビやスマホは「メディア」を配信する機械でした。音声アシスタントが導入されるこれからの機械は、機械そのものがメディアになってしまいます。つまり、家電製品だけでなくメディアも代替していくかもしれません。そのとき、メディアの立ち位置はどこにあるのか? メディア界隈で働く人は、Amazon EchoやGoogle Homeの動きをこうした視点で見てほしいと思います。

志村一隆(しむらかずたか)氏
メディア研究者。1991年早稲田大学卒業後、WOWOW入社、2001年ケータイWOWOW代表取締役を務めたのち、2007年から情報通信総合研究所主任研究員。2014年にヤフーに。2015年に独立。著書に『明日のテレビ』(朝日新書、2010年)、『ネットテレビの衝撃』(東洋経済新報社、2010年)、『明日のメディア』(ディスカヴァー携書、2011年)、『群像の時代』(ポット出版、2015年)、『デジタル・IT業界がよくわかる本』(宣伝会議、2016年)など。著書でメディアイノベーションを紹介したメディア・コンテンツ分野の第一人者。現在は、独立メディア塾にて寄稿。2000年米国エモリー大学でMBA、2005年高知工科大学で博士号取得。水墨画家アーティストとして欧米で活躍。