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“インハウスデザイナー”がいたからこそ生まれた「ヘルス・グラフィックマガジン」―アイセイ薬局

マスメディアン編集部 2018.01.18

  • インハウス
“インハウスデザイナー”がいたからこそ生まれた「ヘルス・グラフィックマガジン」―アイセイ薬局
大手調剤薬局チェーンのアイセイ薬局ではクリエイティビティに富んだ季刊誌『ヘルス・グラフィックマガジン』が発行されています。この季刊誌、かなりエッジの効いた表紙・紙面で、デザイン誌はもとより、さまざまなメディアで取り上げられています。2015年度にはグッドデザイン賞も受賞するなど、各方面で評価されています。なぜこのようなデザイン性の高い季刊誌を発行するに至ったのか、また季刊誌の制作体制はどうなっているのか、などを管理本部 コーポレート・コミュニケーション部部長 飯村誠一郎さんにお聞きしてきました。
―最初にコーポレート・コミュニケーション部の設立について
順を追って説明しますと、以前から広報・IR室として活動していました。その後2012年3月に、コーポレート・コミュニケーション部へ改称します。これは単に広報・IRのみを司っているだけでなく、もっと広い概念でコーポレート・コミュニケーションを行うべきだ、という考えのもとです。調剤薬局は同業他社との間で医療サービスにおける差別化や優位性をうたうことが難しい業態であるため、この部門を通して世の中に情報を発信していく、ブランディングをしていく、そういった考えが込められていました。

―なるほど、そういった立ち上がりの経緯だったのですね。ではつぎに、貴社で発行している季刊フリーペーパー「ヘルス・グラフィックマガジン」についてお聞きしたいと思います。発刊の経緯などについて教えていただけますか?
さきほどの部署名の改称と時に先立って、2010年9月、「体脂肪」をテーマに第一号を発行しました。これは、宣伝・広告活動を制限され、扱っている薬も値段も他社と同じであるという前提において、「選ばれる薬局になる」ための活動です。いわゆるコンテンツマーケティングの1つといえると思います。
『ヘルス・グラフィックマガジン』は、「高血圧」「痛風」「ドライアイ」など毎号ひとつの症状にフォーカスし、医師や各分野の専門家が症状や改善方法をさまざまな角度から、楽しいビジュアルで解説する季刊フリーペーパー。1、4、7、10月に発行。自社店舗をはじめ、自治体の図書館などでも展開し、年間60万部を発行。
―そういった業界特有の事情があるなかでの工夫なんですね。「ヘルス・グラフィックマガジン」を拝見させていただいたのですが、グラフィックが多用され、すごくポップな印象を受けました。これにはどういった編集意図があるのでしょうか?
当時、広報・IR室の管理職に、デザイナー出身の者がいました。その者が、「薬局は体調の悪い患者さまが主に来る場所でしょう。そういう方が医療情報・健康情報が詰まった堅苦しい文字ばかりの制作物を見ますか?」と提言しました。この発想をもとに、直感的に理解できる制作物、まるで絵本のような紙面をつくろうというのが原点です。もちろん、薬学的な知見を持った社外の監修者を立てたり、社内の薬剤師や管理栄養士などへの確認もしっかり取り、エビデンスのある紙面づくりをしています。さらに「素通りできない」ようなインパクトのある表紙にすることにもこだわっています。

―たしかにおっしゃるとおりですね。小難しくなく理解しやすい絶妙なバランスですよね。表紙はユニークすぎて、周囲の反対などもありそうですが…?
実は第一号の発刊に対して、社内からブーイングもありました。薬剤師などの方からすると、グラフィックを多用したコミュニケーション手法が感覚的に相容れないものだったようです。
アイセイ薬局 管理本部 コーポレート・コミュニケーション部部長
飯村誠一郎氏
―やはり…それに対してどのように説得をされたのでしょう?
話は少し飛びますが、当社は、他の調剤薬局企業と比べると異色なのかもしれません。というのも、他社は薬剤師出身の人が、本社体制をリードしているケースが多いように見受けられます。それに対して当社は、「多種多様なバックグランドを持った人材が多様な発想をもたらす」という考えがあって、薬剤師以外にも専門家の社員が在籍しています。一部からは反対もありましたが、デザイナー出身の管理職の者が根気強く説いたことで、この施策が実施されました。だからある意味、「ヘルス・グラフィックマガジン」は“インハウスデザイナー”がいたからこそ生まれたと言っても過言ではないです。

―ヘルス・グラフィックマガジンの制作体制について教えていただけますか? 
発刊当時と体制は変わりましたが、現在は、編集長兼アートディレクターと他のスタッフがインハウスで編集に携わっており、フォトグラファーやイラストレーターなどに随時協力を得て制作しています。季刊誌で3カ月に一度発行しているのですが、ひとつの号の制作に約6カ月かかるため常時2冊を並行して編集している状況です。

―インハウスのクリエイターはヘルス・グラフィックマガジンにつきっきりなのでしょうか?
いいえ、広報担当者が毎月発信しているマンスリーレポートのデザインや、国が推進する「健康サポート薬局」をわかりやすく説明した店舗用のポスターなど、さまざまなものを制作しています。さらには、リクルート用のツールの制作にも関わっていたりします。
採用広報ツール「アイセイピープル」。社内のアートディレクターが同様に作成している。
―採用ツールの制作ですか? なぜでしょう?
コーポレート・コミュニケーション部では、当社が社外に送り出すほとんどの制作物を監修しています。そのため当社の採用に関わる部署と密に連携を取りながら、方針を固め、それを表現するツールも制作するというわけです。外部のエージェンシーやプロダクションで制作する方法もありますが、おそらく当社の文化・哲学をくみ取った制作物を効率良くつくり出すことは難しいでしょう。やはりインハウスのスタッフだからこそ、会社の文化や空気を日々感じ取ることができ、まとめ上げ、表現できるのだと思います。もちろん、エージェンシーと密な関係をつくれば外部制作も可能かもしれませんが、そうなるまでに長い時間がかかる。だから、現実的な選択としては、クリエイターのインハウス化は有効な手段だと確信を持って言えますね。

―たしかに、広報だけでなく採用も、企業の文化・哲学が表れる最たる例ですね。制作物はすべて内製化しているのでしょうか?
いえ、内部と外部を使い分けています。根幹ではない限られた領域で、比較的容易にブリーフィングが可能なものであれば、外部に依頼しています。ただコアとなる部分は我々がコントロールしています。ブランド・ビルディングやレピュテーション・マネジメントの観点から判断しています。

クリエイティブのインハウス化は、“外部に任せられない根幹となる大きな仕事を内製できる面”と、“外部だと余計なやりとりで時間がかかってしまう仕事を手早くできる面”の、2つのメリットがあると思っています。別の部署と細かく連携を取りながらデザインの修正を重ねてつくりあげる販促ツールなどは、まさに後者です。こうした小技・ひねり技も内部でしつつ、根幹を司ることもする、クリエイティブのインハウス化は必須です。

クリエイティブのインハウス化のメリットが十分に理解できました。他の事業会社の皆さまのヒントとなる内容だったかと思います。アイセイ薬局の皆さま、取材にご協力いただき、ありがとうございました!