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【第4回】正直、待っていた。AIコピーライター「言葉 匠」。―クリエイティブの超・変化がやってきた

黒澤晃 2017.11.15

  • AI
【第4回】正直、待っていた。AIコピーライター「言葉 匠」。―クリエイティブの超・変化がやってきた
広告会社・博報堂にてコピーライター、クリエイティブディレクターを経て、クリエイティブマネジメントを手がけ、クリエイターの採用・発掘・育成を行ってきた黒澤晃さん。数々の素質を見抜いてきた黒澤さんがクリエイティブ領域のAI化の研究を進める第一人者に話を聞き、「クリエイティブの未来にAIがどのように関与するか」を探っていくコラムをスタートします。第4回はトランスコスモスが設立したコミュニケーション領域に特化したAI研究所「Communication Science Lab」のメンバーに話を伺います。(マスメディアン編集部)
「インフィード広告が得意なコピー生成AIが開発されましたよ」と、編集のKくん。なるほど。それは興味しんしん。その名も、「AIコピーライター言葉 匠(ことばたくみ)」。かなり人気者になりそうなネーミング。まだβ版だが、2018年春頃のサービス化を予定していると言う。さ、さっそく、取材へ行こう! というわけで、開発者であり、「Global Digital Transformation Partner」を掲げるトランスコスモスさんに伺いました。

前提として。急成長中のインターネット広告のなかでも、インフィード広告(編集部注:Twitter、FacebookなどのSNSや、ニュースアプリのフィード上に表示する広告)は生活者に浸透し、きわめて日常的なテキスト情報となってきています。ところが、コピーライター/ライター側から見ると、スピーディに多種多様に大量に制作することが求められ、とても人間技では対応しにくくなりつつある、いや、きっとなる。どうしよう? という状況なのです。



―先日、電通さんのコピー作成AI「AICO」の話を聞いてきました。教師データとして、電通は協力してくれる社員コピーライターがコピーを入れていき、どんどん成長していく形。「AIコピーライター言葉匠」はどういう仕組みなのかを教えていただけますか。
北出:「言葉 匠」はSNSであるとか、テキスト系のインフィード広告を対象としたものとして考えています。生成するのは、極めてダイレクトマーケティング的なコピーです。コピーひとつにいろいろ検討した結果を凝縮したものというよりは、デジタルマーケティングが対象です。そのジャンルの広告だと、ABテストを進めて良いものをどんどん生き残らせていくアプローチが重要だったりするので。どちらかというと、テキスト広告のコピー案を大量生成するということに主眼があります。
トランスコスモス・アナリティクス株式会社 COO 主席コンサルタント
兼トランスコスモス株式会社 コミュニケーションサイエンスラボ 副所長 北出大蔵氏
―立ち位置が全然違うということなんですね。
北出:ええ、そうです。デジタルマーケティング領域での過重労働が問題になっていますが、大量生成をするために業務負担が大きく、テキパキとこなせる優秀なコピーライターがいたとしても人数が限られてしまうため、生産制約になってしまう。ある一定の品質で、テキストコピーを大量生成するためにはなにができるだろうか。現場が楽になるような方法はないだろうか。そこが私たちの出発点です。

―現場の問題から、開発ニーズが生まれたわけですね。
北出:これを松澤の部隊が考えていて、議論が始まりました。過去の文章で優秀な成果のあったコピーを、私たちはデータベースとして持っている。それを学習用データとしつつ、0から1にするのは、現状のAIでは厳しいが、1を100にすることはできる。こういう訴求、こういうキーワードを押さえてほしいということを条件に、種になるコピーを1つ入れると1が100になって、過去のコピーの型を参考にしながら増殖させる。そんな仕組みになっています。

―なにも無い状態から発想するのが、0から1。種になるコピーがあって広げてゆくのが、1から100ということ。
松澤:その意味で、電通さんとは方向性が違います。広告・ブランディング系ではない。ネット専業の代理店なのでブランディングよりダイレクトレスポンス系のものが多い。要は「一球入魂系のコピー」ではなくて、成果が悪ければすぐ新しいものに差し替えていく必要がある。大量の広告ストックを持っておかなくてはいけないのがブランディングとの違い。これをAIにアシスタントしてもらうのが表の狙いです。
トランスコスモス株式会社
デジタルマーケティング・EC・コンタクトセンター統括 アカウントエグゼクティブ統括
事業推進本部 コミュニケーションデザイン部 部長 経営学修士(MBA) 松澤義倫氏
―「一球入魂系」。いいコピーですね(笑)。コピーライターがメインにやってきたのは、まさにその領域でつくることでした。
松澤:クリエイティブのつくり方として大きく2つを考えています。1つ目は、“正常進化”といわれている、今あるものを微改訂・微調整して良いものに変えていくという考え方。対して2つ目は、ガラリと変える“突然変異”。進化論の2つをやっていかないといけない。人工知能を使って両方できる形にするのが裏の狙いだと思っています。“正常進化”はわかりやすく言えば類語で追いかける、言葉を言い換えていく、意味は同じだが別の表現を使うこと。“突然変異”は大きな本質的な意味は同じだとしても表現的には全然違う形をとる。「言葉 匠」では、機械学習や自然言語処理技術でその2つを行っていて、AI技術でコピー生成クリエイティブの精度を上げていくことにトライしています。“突然変異”自体は簡単にできるけど、イケてるかどうかの確率は低いと思います。そこは人間と同じですね。

―従来型の広告会社でも、デジタルのテキスト広告系のビジネスは明らかに増えていて、マスの領域は明らかに少なくなってきています。まさにデジタル・トランスフォーメーションです。そんな進化のなかで、待望のAI化だと思いました。
松澤:ビッグデータの時代になると、オーディエンスセグメントがすごく細かくできるようになります。マスだとできないがデジタルだとできる領域。でも、私たちもできていないのが、細かく切ったオーディエンスセグメントに対して、クリエイティブをつくり分けしていくこと。例えば1000パターンのクリエイティブをつくれているかと言われるとできていない。進化してデータが細かく見られるようになっている環境なのに、人手が追いついていない。その部分でAIのような、人手をなるべくかけず、人間をアシストしてくれる存在が必要になる。それは、ビッグデータの未来に備えて、私たちがやらなくてはいけないことだと感じています。

―One to Oneが当たり前になってゆくなかで、手間がかかるところはAIにまかせてゆく。それをどうまかせるかは、やはり人間が考えるということですか?
松澤:人間がコントロールしなくてはいけないところは、クリエイティブの領域に関してはやはりあるなと。AIが、人間を超えられない部分というのはクリエイティブに関してはあると感じます。

北出:AIに対して大きな誤解があるんです。人間ができないことをAIがやってくれるというのは大きな間違いです。時間や労力をかけて、人間が頑張ればできることを夜中でも24時間休まずやる、それがAIのできること。人間ができないことでAIができることはまだないです。将棋や囲碁の影響で「人間を超えた」「神の領域に入った」とかいうのはやや違和感があります。大昔から続く、棋譜のすべてのパターンを学習させて、処理速度で競えば、囲碁や将棋みたいにAIが勝つということはある。しかし、そもそも戦術やゲームのルールなどをつくったのは人間。あくまでそれありき。だから人間はゲームをつくる側にいる。やる側ではなく。そういうところを人間が考えていかなくてはいけない。これからは、それが人間らしい仕事であり、AIが仕事を奪うというのはちょっと筋違いの論調かなと個人的には思っています。

―人間がルールをつくる側というのは安心しました(笑)。学習データも人間の大事な仕事になりますね。
北出:広告にしろ、それ以外の領域にせよ、昔から、ビジネスパーソンがやっていた業務は一過性のフローの業務。やったら、ほぼそれで終わり。記録は残らない。残すことをしてこなかった。それをストックしていく。ちゃんとデータとして残していくことでなにが良い悪い、なにが勝つ負ける、かの答えがわかる。それをAIに与えてあげればAIは育ちます。それがないのになにかができるということはない。だからデータを記録する仕事は必要。野球部のスコアボードをつけるマネージャーみたいな仕事は残っていく。

―コピーのデータとしては、類語だけでもたくさんありますね。あと、主語述語を倒置すると伝わり方がまるで違うとか、女性言葉とかもあります。
北出:そういう言語のメソッドは、いろんなものがあって、実際それらを組み合わせて使っています。レトリックが入ってもいます。ただ長文の文章をつくることはまだまだできません。ですので、ある程度型を教えてあげる必要があります。
「AI コピーライター 言葉 匠」(β版)が書いたインフィード広告コピー
―使えば使うほど表現が豊かになる可能性がありますね。
北出:でも、適当に入れてしまえばバカになるということもあります。ある意味、ペットに近いですね。もしくは子育てとか。ちゃんとしつけや教育をして、塾とか教材とか準備して、ちゃんと育てれば賢い子になる。

―本当に大切なんですね、育て方が。AIを導いていくという職業が生まれそうです。
北出:ニュースでも暴走したAIの話がありましたが、そういうことにもなりかねないです。有害図書を与えたら間違ってしまうのは人間と一緒。これは売れる良いコピー・悪いコピーという判断には、一定の経験値や専門技能を要求されますので、その水準を持った人でないとAIは育てられないと思います。

―もっと時代が進んでAIコピーライターが当たり前になったときに、コピーを書き続けてきた人がいなくなる。育てるという視点でいうと、その時どうなるかは気になります。
松澤:書き続ける人はやっぱり必要かなと思っていて、AIコピーライターも完璧な存在には、未来永劫ならないんじゃないかなという気はしています(笑)。少なくとも5年10年では完璧にはならない。クリエイティブをつくる上でなにを言うか、どう言うかという部分。WhatとHow。HowはAIができるけどWhatはできないと思っている。たとえばiPhone8を売りたいとなったときに、AIがどうやってiPhone8の特徴を得るのか。人間が情報収集して、整理してどう伝えるかを考える。最初のWhatは人間がやらないといけない。だからコピーライターの仕事はなくならない。出だしの1つ目の、どういう方向にするかは人間がやらないといけません。

―最近の傾向でもコピーを書く人ではなくコンセプトを考える人がコピーライターになりつつありますが、より考える仕事が増えるということでしょうか?
松澤:おっしゃる通りです。

―産学連携についてもお聞きしたいと思います。御社のプロジェクトでは、AI研究の第一人者である東京大学の松尾先生も関わっていらっしゃいますが、どういう関わり方なのでしょうか。
北出:「言葉 匠」とはまた別プロジェクトなのですが、松尾研が主催しているプログラムで、「グローバル消費インテリジェンス寄付講座」というものがあり、スポンサードしながらデータを提供しています。松尾研のみなさんが、私たちの提示した研究課題に対していろんなアウトプットを返してくれる感じです。ただ、産学連携をやるときに、UIの優れた製品がでてくるとか、きれいで美しいアウトプットがでてくるとかを私たちは期待していないし、期待してはいけない。アカデミアと連携するときは、自分たちの常識や調べた方法論だったら、アプローチAしか思いつかなかったけど、専門家の方からアプローチBもあるし、Cもあるよ、という思ってもみなかった提示があるものだと捉えておくことが大事です。根幹のアプローチのオルタナティブを与えてくれるものとして、アカデミアと連携すべきだと思っています。松尾研をはじめ、さまざまな外部研究機関との産学連携で得た知見がAIコピーライターにも役立っています。研究者に、根幹のコンセプトが間違っていないと言ってもらえるのは、非常に頼もしい限りです。

―何人くらいのチームでやっていますか?
松澤:北出と私をいれて、コアは6人でやっています。開発・AI3人、マーケ・コピー3人。おもしろいですよ。ぜんぜん違う人種でやっているので。

北出:僕からすると、そもそもコピーって、どうやってつくっているんですか? から始まるんです。そこがわからないと、どんなデータつくってどんなアウトプットを出していくかがわからない。いろんなパターンをお互いに出しながら、話が膨らんでく。異文化交流というか、ケミストリーは非常におもしろかったです。広告のコピーの世界だけじゃなくて、AI技術やデータ活用を行うときには、すり合わせの儀式、プロセスは絶対重要なんです。AIのツールを入れたら、今までやってたことがもっと賢くスマートにできるんでしょ? というのは、絶対ない。標準化されて、自動化されて、やっとAIによる自律化がある。そこをちゃんと議論しつくすこと。そのためには異文化のケミストリーが必要です。

―今後どういう風に育てていかれますか。
北出:別のアプローチを試したり、フィードバックを与えて、もっと賢くしていきたいと思っています。将来的にはソーシャルメディアの声だったり、コールセンターで集めた声、顧客の生の声を材料にしてコピーを生み出していくことができるはず。またゆくゆくはスマートスピーカーで取得した音声データも視野に入れています。

松澤:メディア別、クライアント別、業種別の表現をしっかり、つくり分けをしていきたいですね。さらに、ここまで実現できたらいいなと思うのが、提供する対象の心理状態に合わせて言い方を変えること。大きな安心を与えなきゃいけない状況であれば励ます系とか、心理状態・パラメーターに合わせた表現に変えることができたらすごくいいなぁと思っています。感情認識までやっていきたい。最終的にはいろいろなそういうものが組み合わさって、3代目「言葉匠」(笑)みたいな未来像は一応描いています。

―世の中全体が元気じゃないときに、「言葉匠」が元気なインフラをつくるという壮大なプランもありですね。
松澤:音声と感情が絡むと、AIのもう一段階成長が必要ですが、目指しているところはそういうところですね。

北出:私が所属しているコミュニケーションサイエンスラボでは、AIは人間の能力の拡張(augmented)するもので、あくまで人間を補助し利便性を高めるための技術だと捉えています。IBM社のジニー・ロメッティ会長も、Watsonは「Artificial Intelligence」ではなく「Augmented Intelligence(拡張知性)」を省略した「AI」だと語っています。本当にそう思います。

AIには、目的がある。その違いによって、まるで違うワークをする。目的とは、Whatの領域だ。なにをしたいのか、なにをかなえたいのか。今回の取材を通して、Whatがきわめて重要で、かつ、人間がクリエイトしなければいけないことがわかった。しかも、「言葉匠」には、Whyもあると思った。なぜ、つくったのか、その理由もハッキリとしている。デジタル領域でのテキスト広告制作の負荷から、人間を解放する。WhyとWhatがあって、学習データや生成プロセス、そしてアウトプットなどのHowが決まる。AIとPCでディテールは異なるかもしれないが、PCをクリエイティブマシーンにしよう! と発想したスティーブ・ジョブスの試みを、個人的には思い出した。

トランスコスモスのみなさま、貴重なお話をありがとうございました。

3回目の電通のAIコピーライター「AICO」についても、ぜひお読みください。Whatの違いが興味深いと思います。
【執筆者プロフィール】
黒澤晃(くろさわあきら)氏
横浜生まれ。東京大学卒業。1978年、広告会社・博報堂に入社。コピーライター、コピーディレクターを経て、クリエイティブディレクターになり、数々のブランディング広告を実施。日経広告賞など、受賞多数。2003年から、クリエイティブマネージメントを手がけ、博報堂クリエイターの採用・発掘・育成を行う。2013年退社。黒澤事務所を設立。東京コピーライターズクラブ(TCC)会員。