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【第2回】技術とコンテンツ―未来のメディア

志村一隆 2017.10.18

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【第2回】技術とコンテンツ―未来のメディア
WOWOW、NTT、ヤフーを経て、現在はメディア・コンテンツ分野の第一人者としてフィールドワークを進める志村一隆(しむらかずたか)さん。さまざまな国に赴き、現地の最新動向をレポートするコラム。世界各地のメディア・コンテンツにまつわるケーススタディなどを引き合いに、経営者の皆さまのアイデアのタネとなるコラムを発信していきます。第2回は「技術とコンテンツ」がテーマです。(マスメディアン編集部)
先日、幕張メッセで開催されたCEATEC JAPAN 2017というイベントに参加してきました。展示の中心だった家電製品が減り、人工知能やスマートホーム、電気自動車といったIoT関連が増えました。トークセッションのテーマも人工知能やVRなどにシフト、そのなかから、面白かった話をお伝えしたいと思います。

まず、機械学習(人工知能における研究課題の一つ)などを提供するアメリカのDataRobot社の方が、データ利用の制度設計の重要性について話をしていました。機械学習を取り入れたい企業の多くは、「なにをやりたいか?」が明確でなく「とりあえずデータはたくさんあるから、なにか未知の法則が見つかるだろう」というフワっとした状態でプロジェクトを始めてしまうそうです。そんなプロジェクトを進めると、必要なデータほど保存されていないこともあるらしいです。システム設計などと同じですが、人工知能がなんでも解決してくれるのはまだ先のようです。

次に、アメリカのVizux社というスマートグラスなどをつくっている企業のトークセッション。スマートグラスとは、AR(Augumented Reality、拡張現実)機能を持ったメガネのこと。たとえば、スマートグラスをかけて野球観戦をすると、選手の打率や防御率、球速などのデータが選手の頭上に表示されたり、パーティーに行けば、目の前の人の名前や役職、いつ会ったか? といった情報がその人の横にポップアップされるでしょう。

なんだか、もの凄く近未来な感じですが、このスマートグラスとスマートフォンは、同じ部品でつくられているのだそうです。スマートグラスとスマートフォンの違いは、スクリーンがあるかないか。つまり、スマートグラスが流行るとなったら、量産可能であり、すぐに市場が急速に立ち上がります。

ただ、ポイントは、スマートグラスでなにをするかです。現在、スマートグラスの利用法は、組み立て工場向けなどに使われています。組み立てラインのマニュアルなどを映し出し、ミスを無くすのに役立っています。こうした法人向けの利用用途だけでなく、広く一般の人にも使ってもらうには、ニュースを流す、地図を表示するなどが想定されます。部品がスマートフォンと同じように、コンテンツも似たものになるのでしょうか。この辺は、冒頭の機械学習の話と似ています。結局、機械や技術が進歩しても、「なにをするか」によってその技術が広まるかどうかに影響を与えます。

イギリスのFuturesource Consulting社という調査会社が、2016年の家電市場は、前年から4%増え、6710億ドル(75.2兆円)になったと発表していました。そのなかでスマートフォン関連は50%。スマートフォンはその誕生からまだ10年しか経っていないにも関わらずです。かつて家電の王様だったテレビは14%。テレビ市場で大きいシェアを占めていた日本メーカーは、スマートフォン市場にうまく移行できませんでした。その代わり、台頭したのが、アップルやサムスン、そして中国メーカーです。

スマートフォンとスマートグラスが、同じ部品であれば、スマートグラス市場が急速に拡大しても、現状のスマートフォンメーカーはそれほど打撃を受けないかもしれません。先日、とある投資会社の方と話していたら、中国メーカーはマーケティングを重視し、市場ニーズに合った製品をつくる指向を持っているそうです。その分、職人的なモノづくりには興味がない。ちょっと意外な話でした。ともあれ、スマートグラスが普通になる時代になったら、こうした中国メーカーが世界を席巻しているかもしれませんね。
【執筆者プロフィール】
志村一隆(しむらかずたか)氏
メディア研究者。1991年早稲田大学卒業後、WOWOW入社、2001年ケータイWOWOW代表取締役を務めたのち、2007年から情報通信総合研究所主任研究員。2014年にヤフーに。2015年に独立。著書に『明日のテレビ』(朝日新書、2010年)、『ネットテレビの衝撃』(東洋経済新報社、2010年)、『明日のメディア』(ディスカヴァー携書、2011年)、『群像の時代』(ポット出版、2015年)、『デジタル・IT業界がよくわかる本』(宣伝会議、2016年)など。著書でメディアイノベーションを紹介したメディア・コンテンツ分野の第一人者。現在は、独立メディア塾にて寄稿。2000年米国エモリー大学でMBA、2005年高知工科大学で博士号取得。水墨画家アーティストとして欧米で活躍。