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【第1回】メディアリテラシーと経営スキル―未来のメディア

志村一隆 2017.09.20

  • 未来のメディア
【第1回】メディアリテラシーと経営スキル―未来のメディア
WOWOW、NTT、ヤフーを経て、現在はメディア・コンテンツ分野の第一人者としてフィールドワークを進める志村一隆(しむらかずたか)さん。さまざまな国に赴き、現地の最新動向をレポートするコラムが始まります。世界各地のメディア・コンテンツにまつわるケーススタディなどを引き合いに、経営者の皆さまのアイデアのタネとなるコラムを発信していきます。第1回は「メディアリテラシーと経営スキル」がテーマです。(マスメディアン編集部)
先週も北朝鮮からミサイルが発射されました。テレビやSNSのタイムラインを見る限り、いまにも戦争が起こりそうな雰囲気です。とある広告会社は、韓国への出張が禁止になったらしい。その反面、自分の身の周りは、のんびりしています。週末、ソウルに旅行するものもいるようです。
 
さて、この身の回りの静けさとメディアのうるささ、どちらに身を委ねたほうがいいのでしょうか。いろんな情報を手にいれて自分で判断する。これを、メディアリテラシーといいます。

それでも判断基準が「テレビが言ってるから」「周りの誰も騒いでないから」といった身の周りの状況をそのまま受け入れたものになりがちです。それでいい人もいるだろうが、このコラムの読者である経営者の方々が、もしそうだとしたら、ちょっともの足りない。
 
メディアリテラシーとは、正しいニュースを見分けるだけでなく、いろんな視点を理解しながら、自分の進む道を決めることです。なんて、偉そうなことを言いましたが、知らずにメディアに影響されていることはよくありますし、多様な意見に触れる機会が減ってしまっているのが、昨今のネット界隈です。

では、メディアリテラシーを磨くにはどうしたらいいか。ちょうどいい素材を、最近よく見かけました。「東芝メモリ」を巡る報道です。
 
本コラムの読者も「東芝メモリ売却」が「迷走」とか「危機」といった見出しをよく見かけたのではないでしょうか。ただ、メーカーに勤める読者以外は、馴染みのない企業や製品名に、よくわからないまま読み飛ばしている人が多いのではないでしょうか。
 
この問題の争点は、東芝と提携していた米ウエスタンデジタル(WD)社が、自分たちに相談なく売却話を進めていると怒り、裁判に訴えているところにあります。
 
メディア上には、経済合理性だけでなく、国益、各陣営の思惑の入った記事が氾濫しています。「海外売却は技術流出だ」という立場で書かれた記事もあれば、「株主価値を毀損している」という投資家目線、また「半導体技術者にとって国は関係ない」という技術者の視点で書かれたものもあります。
 
日々の仕事に忙しいと、ネットニュースの見出しだけでわかったつもりになりがちです。すると、特定の視点、たとえば「米WD社が難癖をつけている」とか「東芝経営陣が不甲斐ない」のような、扇情的な見出しに影響された印象を持つようになるでしょう。
 
そこで、ぜひ技術者寄りの記事を見つけて読んでみて欲しい。そうすれば、これからのIoT時代が、真の情報爆発の時代であり、そこにビジネスチャンスを見いだした半導体メーカーの競争が激化していることに気づくでしょう。中国企業が何兆円も工場に投資し、その周りに学校や住宅地などの街をつくっていることなどもわかります。
 
いま30代の人に実感はないと思いますが、日本も半導体(つまりデジタル市場)市場で世界トップだった時期がありました。2000年前後は、日本のケータイが先行し、米国のケータイはアナログで、とても遅れていました。
 
しかしいまでは、日本人がアップルやサムスンのスマホに米国発のSNSを使っている。改めて振り返ると恐ろしい変化です。若いときは、「そんな20年後なんて」と思いますが、この長寿社会、50歳近くなっても、まだまだ生きていかねばなりません。そのときのことを自分なりに予想しておくのは、そんなにムダなことではないでしょう。
 
情報を集めて、自分で判断する「メディアリテラシー」を磨くことは、経営判断の基礎を磨くことにもつながるハズです。
【執筆者プロフィール】
志村一隆(しむらかずたか)氏
メディア研究者。1991年早稲田大学卒業後、WOWOW入社、2001年ケータイWOWOW代表取締役を務めたのち、2007年から情報通信総合研究所主任研究員。2014年にヤフーに。2015年に独立。著書に『明日のテレビ』(朝日新書、2010年)、『ネットテレビの衝撃』(東洋経済新報社、2010年)、『明日のメディア』(ディスカヴァー携書、2011年)、『群像の時代』(ポット出版、2015年)、『デジタル・IT業界がよくわかる本』(宣伝会議、2016年)など。著書でメディアイノベーションを紹介したメディア・コンテンツ分野の第一人者。現在は、独立メディア塾にて寄稿。2000年米国エモリー大学でMBA、2005年高知工科大学で博士号取得。水墨画家アーティストとして欧米で活躍。