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経営におけるPRの重要性の高まり

岩本 隆 2024.07.03

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経営におけるPRの重要性の高まり
現代のビジネスにおいて、PRは経営に欠かせない要素です。日本では「PR」は「宣伝」の意味で使われることが多いですが、本来はもっと広い意味があり、米国ではMBAプログラムの一部としてPRコースが提供されているそうです。経営におけるPRの重要性について、慶應義塾大学大学院 特任教授の岩本隆先生に解説いただきました。
インターネット上に情報があふれる世の中になってきたこともあり、経営におけるPRの重要性が高まっている。PRはPublic Relations(パブリックリレーションズ)の略であり、19世紀末から20世紀にかけて米国で発展し、日本には第二次世界大戦後の1946年以降に導入された。米国で教科書として定評がある『体系パブリック・リレーションズ』(ピアソンエデュケーション)では、「パブリックリレーションズとは、組織体とその存続を左右するパブリックとの間に、相互に利益をもたらす関係性を構築し、維持するマネジメント機能である。」と定義されている(※)。日本では、PRを「宣伝」や「アピール」の意味で使う事例が多く見られるが、これはPRの定義からすると矮小化された用語の使い方であり、PRは「宣伝」や「アピール」を越えたもっと広い意味を有する。

PRは「戦略コミュニケーションズ」とも言われ、パブリックとのコミュニケーションを戦略的に行うものである。日本企業では広報部門がPRを担当することが多いが、昨今では、マーケティング部門が戦略的にPR活動を積極的に行うことが増えている。PRの活動としては、企業などの組織体が、どういう情報を、どういうメディアに、どういうタイミングや順番で出し、世の中(パブリック)のどういう反応を期待するのか、情報を出した結果、実際の世の中の反応はどうで、その反応に対して更にどういう対応をするのか、といったことを戦略的に行う。

PRを担当する人材は、PR戦略策定力、世の中に出す情報の開発力、テレビ、新聞、雑誌、ネットメディアなどのさまざまなメディアの特性の理解や、メディアとの関係性構築力、世の中の反応への対応力などが求められる。更にテクノロジーの進化に応じて、PRへのテクノロジー活用力なども求められ、最近では生成AIをどう活用するかがスキルとして重要になってきている。

米国では経営学としてPRを学ぶ必要があるという認識のもと、PRSA(Public Relation Society of America:米国PR協会)がビジネススクールの教員と連携して、Strategic Communications Course(戦略コミュニケーションズコース)を開発した。2012年から複数のビジネススクールでMBA(Master of Business Administration)プログラムのコースとして提供されており、2024年時点で提供校は15校まで増えている。

サンプルシラバスでは、戦略コミュニケーションズコースは18のセッションで構成されており、各セッションでは実在の企業などのケース(実例)を活用しながら学んでいく。図表にサンプルシラバスで示されている各セッションのテーマを示す。これを見ると、経営学として学ぶPRがカバーする範囲がいかに広いかがわかる。
図表.戦略コミュニケーションズコースのサンプルシラバス
図表.戦略コミュニケーションズコースのサンプルシラバス
日本では、PRのコンサルティングを提供するPRファームも増加しており、実務としてPRを行う人材は増えているものの、経営学としてPRを学ぶことはまだ少ない。筆者がビジネススクールで担当している授業の中でPRのセッションを行ってはいるが、PRの範囲の広さを鑑みると、PRのみで一つのコースが提供されるべきであり、そういったコースが日本のビジネススクールでも提供されるようになることを期待する。

※参考文献:駒橋恵子「パブリックリレーションズとは」日本パブリックリレーションズ協会(2024年)(https://prsj.or.jp/aboutpr/)
【執筆者プロフィール】
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岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、デジタル田園都市国家構想応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。