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フリーランス新法

岩本 隆 2024.06.05

  • 働き方改革
フリーランス新法
通称「フリーランス新法」が、2024年11月に施行されます。フリーランスとの取引適正化と就業環境整備を目指し、フリーランスと取引をする事業者に対して、給付内容の明示、ハラスメント対策、中途解除の事前予告などをするよう定めました。その内容について、慶應義塾大学大学院 特任教授の岩本隆先生に解説いただきました。
2023年4月28日に、いわゆる「フリーランス新法」、すなわち「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)が可決・成立し、2024年5月12日に公布され、2024月11月1日に施行される予定となった。「特定受託事業者」はフリーランスのことであるが、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないものをいうため、個人事業主に加え、法人成りしていて雇用保険の適用対象となる従業員を雇用していないフリーランスも含まれる。

フリーランスは労働者とみなされていないため、労働関係法では守られていない。そのため、フリーランスである個人が事業者として受託した業務に安定的に従事できる環境を整備するための法制が求められていた。フリーランス新法では、フリーランスに係る取引の適正化及びフリーランスの就業環境の整備を図り、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的として、フリーランスに業務委託をする事業者について、フリーランスの給付(業務・成果物など)の内容その他の事項の明示を義務付ける等の措置を講ずることが定められた。

筆者は、2020年9月9日に一般社団法人日本パブリックアフェアーズ協会から「ポスト・コロナ社会におけるニューノーマルな働き方~『WorkTech×フリーランス』がもたらす潜在的労働力活用と経済成長~」というタイトルの政策提言レポートを発表した。WorkTechとは働く場で活用されるテクノロジーのことであるが、WorkTechのサービス提供者の一種である「フリーランスプラットフォーマー」が世界で成長しており、日本でもフリーランス活用が進んでいる海外の国・地域並みに、フリーランスが働きやすい環境を整えることの重要性を政策提言レポートにおいて述べた。

この政策提言レポートが「中小企業の生産性革命を実現する議員連盟」で取り上げられ、2021年3月23日に開催された中小企業の生産性革命を実現する議員連盟の第2回総会でフリーランスの政策について議論された。議員連盟での議論を受け、2021年5月17日に中小企業の生産性革命を実現する議員連盟から経済再生担当大臣へ、フリーランス等の雇用関係によらない働き方の適正な就業環境整備のための政策提言申し入れが行われた。その後、2021年11月8日に会議決定された新しい資本主義実現会議による「緊急提言~未来を切り拓く『新しい資本主義』とその起動に向けて~」においてフリーランス保護のための新法を早期に国会に提出することが記され、2023年4月28日のフリーランス法の可決・成立に至った。

特定受託事業者の就業環境の整備に関し、法の委任に基づき下位法令において定めることとされている事項を検討するため、2023年9月11日より、厚生労働省にて「特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会」が開催されており、2024年5月20日に開催された第9回特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会において「特定受託事業者の就業環境の整備に関する検討会 報告書(案)」がまとめられ、政令、省令及び告示に規定する事項並びに関連する事項として、以下の6つが定められた。

1. 募集情報の的確な表示(法第12条関係)
2. 妊娠、出産若しくは育児又は介護に対する配慮(法第13条関係)
3. ハラスメント対策に係る体制整備(法第14条関係)
4. 特定業務受託事業者が適切に対処するために必要な指針(法第15条関係)
5. 中途解除等の事前予告・理由開示(法第16条関係)
6. 厚生労働大臣の権限の委任(法第23条関係)

働き方の多様化が更に進んできたことにより、日本でもフリーランスとして働く人が増えてきた。総務省の調査(※1)によると、2022年のフリーランス人口は257万4000人であり、派遣社員の149万人より多くなり、契約社員の283万人に近い水準になった。

また、2024年2月19日の日経産業新聞の記事によると、直近の国内での1年間のフリーランスの報酬総額が約20兆円と5年前と比べて約2倍となっている。20兆円という報酬総額は正社員の給与総額(約180兆円)の9分の1にあたる。この比率は2017年には25分の1だったことから、フリーランスの報酬総額も大きく増加してきたことがわかる。

フリーランス新法の施行により、フリーランスが安心して働け、活躍するフリーランスが多く生み出される社会になることを期待している。

※1:総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」(https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2022/pdf/kgaiyou.pdf)
【執筆者プロフィール】
岩本 隆先生お顔写真

岩本 隆(いわもと たかし)
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授
東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ、日本ルーセント・テクノロジー、ノキア・ジャパン、ドリームインキュベータを経て、2012年6月より2022年3月まで慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。2018年9月より2023年3月まで山形大学学術研究院産学連携教授、2022年12月より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。ICT CONNECT 21理事、日本CHRO協会理事、日本パブリックアフェアーズ協会理事、SDGs Innovation HUB理事、デジタル田園都市国家構想応援団理事、オープンバッジ・ネットワーク理事、ISO/TC 260国内審議委員会副委員長などを兼任。