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クリエイティブの超・変化がやってきた(6)―耕す人に、なろう。

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黒澤晃 2018年6月6日(水)

広告会社・博報堂にてコピーライター、クリエイティブディレクターを経て、クリエイティブマネジメントを手がけ、クリエイターの採用・発掘・育成を行ってきた黒澤晃さん。数々の素質を見抜いてきた黒澤さんがクリエイティブ領域のAI化の研究を進める第一人者に話を聞き、「クリエイティブの未来にAIがどのように関与するか」を探っていくコラム。第6回は博報堂内で、受託ではなく自主開発を推し進める異端プロジェクト「スダラボ」代表の須田和博氏に話を伺います。

鏡を見ると自分の顔が映る。たとえば、ひげがだいぶ伸びていると、鏡に広告が現れて、「あなたには、〇〇のひげそり器を!」。気分が落ち込んでいると、「元気だそうよ、△△ドリンク!」と表示される。Face Targeting ADは、鏡に映った人の年齢、性別、表情などを読み取って、異なる広告を表示する。

この新しい広告の開発を行ったのは、博報堂内のプロジェクトチーム「スダラボ」だ(共同開発:博報堂アイ・スタジオ)。リーダーは、ECD(エグゼクティブ・クリエイティブディレクター)の須田和博さん。今までも、ユニークでアイデアフルな「広告に新しい波を起こす」商品・システムづくりを行ってきたが、今回のFace Targeting ADはその第6弾(*1)となる。

AI/デジタルテクノロジーとクリエイティビティの掛け算で、どんな動きを起こそうとしているのか。博報堂時代から旧知の仲の須田和博さんに、聞いてきました。まずは、Face Targeting ADを実際に体験。おもしろい!

黒澤:これは、トイレの鏡に使ったりするのもありですね。新しいメディアとしても考えられます。

須田:可能ですね。あるイベントではトイレの外、出てすぐのところに設置して体験してもらいました。そう、鏡をメディアにするということなんです。屋外メディアの新しいカタチとも言えます。

黒澤:24時間、日本のどこでも使えるメディアですね。

須田:はい、クラウドサーバー上の顔認識APIを使っているので、24時間、日本のみならず世界中で広告を出せます。インターネットとAIというテクノロジーが支えています。

黒澤:いつもチャレンジングな試みで世の中を驚かせているスダラボですが、どういう経緯でスタートしたのかを教えてください。

須田:今から4年前の2014年、スダラボを発足しました。それ以前にある役員に「なんか新しいことやったら?」みたいな感じで言われまして、構想(休眠)期間が2年ぐらいあったのですが。で、2014年に正式に発足してからは、わりとハイペースで1年に2個ぐらいずつプロトタイプをつくるようになりました。

いちばん最初にやったのが、評判が高かった「NATURE BARCODE (RICE CODE)」というアプリで、田んぼアートをQRコードのように読み込むとECサイトへつながり地元のお米が買えるというプロジェクトです。画像認証技術を活用しています。ふたつ目は、店頭で野菜に触ると野菜がしゃべる「TALKABLE VEGETABLES」。これはグループ会社の博報堂アイ・スタジオのチームと一緒にやりました。野菜の表面には水分があって、人間の手も同様に水分が含まれているので、触れ合うと電気抵抗が変化します。スマホの表面を触ると操作できるのも同じ原理です。それで野菜の表面を触ると認識され、あらかじめ録音していた農家の方の声で「美味しいよ~」とか「当別町のキャベツだよ~」みたいにしゃべるっていう仕組みです。一見突拍子もないような企画ですけど、販促の場での使用を意図しています。ちょうど食品偽装が問題になっていたころにつくったプロトタイプで、食品の安全性を楽しく伝える方法がなんかないかなって考えて試しにつくってみたものです。

黒澤:第1弾と第2弾は農業だったんですね。期せずしてですか。

須田:ええ、そうですね。1弾目の「RICE CODE」の根幹は画像認識のエンジンですし、2弾目はタッチセンサーのセンシング技術です。期せずしてどちらも農業で、しかもローカル案件でした。

黒澤:やはり、どういう技術を使うかが、スダラボにとって、とても大切なことですか。

須田:そうですね、技術を仕入れて、文脈をくっつけて、アウトプットするのが、我々スダラボです。ただ、技術を活用するとき、常にわかりやすい解決策がいいなと思っています。最新テクノロジーを最新の使い方でやると、やっぱり生活者はわかんない。よく『最古×最新』と言っているんです。最新テクノロジーを、田んぼとか野菜とか雪かきとか、要は「昔からあるじゃんこれ!」っていうものに応用したほうがわかってもらいやすいし喜んでもらいやすいっていうのはあります。スダラボの進めているどの案件も実はそういう風にできています。意識的にでもありますが、なによりも結果的にそうなっています。最新テクノロジーを最古の課題とか最古の情緒とか、人間だったら誰でもわかるよね、っていうネタに応用しているんです。

黒澤:なるほど。すごく面白い発想です! その発想は、広告畑の出身だからかもしれませんね。

須田:そうです。テックのプロはそういう発想をしないと思うんです。広告畑だから、ある種、下世話なものとかベタなものとか、おじいちゃん、お母さん、ちびっこまでわかるものとか。やっぱその方がいいって思っちゃうんです。あと、スダラボは基本、広告の可能性を広げるということに特化していて、一見へんてこりんなことをやっていますが、基本的に、「広告」を逸脱したことはないんです。ま、かなり逸脱しているけど(笑)、一応、広告だということでやっているんです。

黒澤:広告の新たな辺境を開発しているということですね。

須田:はい!まさに。広告としては、今はまだ沼みたいなところだけど、そこはやがて田んぼになるだろうなってところを、先に耕してる、というイメージです。基本的に、広告の媒体とデバイスが合体したみたいなモノ。なんらかの形で、これも広告だよな、というものをやってます。自らを縛ってるつもりもないんですけど。根っから広告が好きだっていうのと、広告ってもっといろいろ可能性あるよねって思い続けていることが、方向性を決めているように思います。

黒澤:広告の可能性でいうと、最近の論調は「広告が効かなくなってきている」というのもあります。

須田:広告はオワコンだなんて言う若者もいますね(笑)。学生向けのセミナーで話したりすると、広告業界への興味が減っている感触を持ちます。

黒澤:しかし、それは昔の広告であって、これから耕す広告はもっと違うものになるかもしれません。

須田:いつも思うんですけど、「広告に興味がない」って言いたがる人もFacebook使ってるし、Twitter使ってるし、Google使ってるし、LINEも使ってる。それって、大きな意味で言うと広告じゃないかなって。もっと言うとスマートスピーカーもスダラボの目で見たら、全部広告なので、全然オワコンじゃないよね、無限に広がってるよね、って言いたいです。僕らの実例を見せると、若い人もすごく興味を持ちます。

黒澤:博報堂のみならず、広告業界の魅力度を引き上げる大事な係(笑)。こんなに面白いよ、広告は!というのをスダラボが見せてゆく。それはもう本望な感じですか?

須田:本望本望! もちろん(笑)。自分が大学生だったときの広告はすごい面白くて、こういう業界に行きたいと思って入った。そう思える広告がたくさんあった。大貫さん(*2)の広告とか。スダラボの活動を見て、こんな面白そうなことができるのなら広告業界に行きたい、と思ってもらえたら本望です。

黒澤:スダラボのメンバーはどのように構成されていますか。

須田:専属の人はいなくて、みんな兼務です。ですので、プロジェクトチームという位置づけになります。やりたい意志を持った人たちが集まってくる感じで、募集も選抜もしていないです。面白がれる人が面白いものをつくっている。そんなメンバーの集合体です。

黒澤:スダラボにはTMがついていますが。

須田:打ちっぱなしのゴシックなので、TMをつけないとロゴっぽく見えないんです(笑)。なぜ打ちっぱなしのゴシックにしたかというと、要はロゴをつくりたくなかったんです。プロジェクトを立ち上げると、ロゴつくってチラシつくってグッズつくって、でも結局実体ないまま終わってしまうケースがあるじゃないですか。そういうのをいくつも見てきたので、アンチテーゼとしてチームのロゴはつくらない。そのかわりに、そのロゴ制作とかにかける労力やコストをアイデアにかけるということなんです。

黒澤:なるほど。シンプルに見えるけれど、意志がこめられているロゴなんですね。それでは次に、AIについてお聞きしていきます。

須田:さきほどお見せしました「Face Targeting AD」はAI技術を活用しています。正確には「Face API」という画像認証技術を使って顔属性を分析するAI技術と、「Emotion API」という顔の表情から喜び・悲しみなど8つの感情を抽出する技術を活用しています。

黒澤:今後どうですか、広告×AIの可能性は。興味は当然あると思うんだけど。

須田:興味ありますよ! 今もいろいろ開発を考えています。

黒澤:AI技術は、コンピューティングの正常進化ととらえる考え方もあります。また、従来とは違う飛躍的な進化だととらえる考え方もあります。

須田:どうなんでしょう? ただ、いままで扱い慣れたモノとは、まったく違いますね。だから僕も今まさに勉強中。ディープラーニングによってなにをできるようにするか、かなり悩みどころなんです。1企画のなかでそれが可能なのか不可能なのか。じゃあ1企画では無理だから、何個かの企画に共通して使えるようなものを開発しなきゃいけないのかなぁとか。いろいろ模索中です。やっぱり30万個の教師データとか60万個の教師データが必要ってなると、「いや、それ1企画じゃ無理かもしれない」って思わざるをえなくて。コストも時間も膨大にかかりますから。それで、Face APIという、すでにできあがっている技術を使わせてもらっています。

黒澤:そういう形が増えるのもしれないですね。

須田:増えます。これは確実に増えます。AI技術をゼロからつくりましょうって言っても、予算的にも開発期間的にもできないことも多い。広告の仕事って3カ月くらいで完成させなきゃいけないじゃないですか。そうすると、やっぱりできているものをどう使うかの思考が非常に重要で、チューニング次第でできることも多い。そのときに、マイクロソフトさんだったらMicrosoft Cognitive Servicesという技術を開発しているから、1企画単位で使わせてくださいみたいなのが現実的ですよね。ただし、そのときにAI技術の原理を理解していないと応用の仕方もわからない。原理に則ったとしても、プロトタイプで試さず、いきなり現業のクライアントワークで使おう、だと難しいです。そこがポイントのひとつだと思っています。

黒澤:音声系でも言語系でも画像系でも、その技術をどう役立てるというか、広告業界としてどう使うか、そこが面白いかもしれません。

須田:そう、スダラボがやっているのはそういうことばっかりです。先進技術のシードを見つけたら、こう使ったらいいんじゃないですか、という可能性の発見と提示をなるべく短い開発期間、なるべく少ない開発予算でやる。そしてそれをプランナーとエンジニアが一緒にやる。ずっと、そればかり。それしかやってないとも言えます。今回の案件も同様です。

黒澤:なにをデータとして学習させるかでAI技術の能力は大きく変わりますが、その学習段階にも関わってゆくことも考えていますか?

須田:どの元ネタを読み込ませて、どうアウトプットしたら役に立つか、ですね。そこはやっていきたいです。ただ、AI技術に関しては本当にこれからです。Face Targeting ADはまだ第一歩で、今は仕掛け中みたいな段階。期待していてください。

黒澤:AIという新しい技術をどう新しく生活者のために役立てていくか。激しい競争が始まっています。

須田:いち早くそれを提案した人や会社が、最終的に優位に立つ。Web・ITも全部そうでした。先行者利益で、イノベーターやアーリーアダプターが勝っていく。だから、僕らも真っ先に手をつけるっていうのを必死でやっています。いちばん最初にやんないと意味がないと思っていて、先にやんないと価値がないし、後追いだと辛くなるんです。ちょうど先日発表した京都・建仁寺の国宝「風神雷神図屏風」を体験コンテンツにする共同研究「MRミュージアム in 京都」も、まさにそうですね。もちろんAI技術もなにがなんでも最優先に手を付けていくつもりで、Face Targeting ADでつかったのとは別モノで、次回作を進めています。

黒澤:その場合、クリエイターはどこまでテクノロジーのことを知らないといけないと思われますか。

須田:テクノロジーの原理を知ることは絶対必要です。どちらかと言うと原理さえ押さえていればなんとかなる。プログラムを書けなくても原理を理解して「だったらこういうことできないですかね?」と打ち合わせで言えればいい。プログラミングなどの実装は、優秀なプロの皆さんがいるから。ここまでは実装できます。これは実現できませんとか。お金がいりますとか、お金なしでもできますとか。ぜんぶ答えてくれる。

黒澤:理系とか文系とか関係なく、これからのクリエイターは、須田さんがおっしゃる「原理」がわかっていないといけないと思います。そうでないと新しいことが、もはやできないのではないかと。ところで、須田さんは、美術大学出身ですね。

須田:多摩美のグラフィックデザイン学科出身です。デザイナーとして博報堂に入りました。

株式会社博報堂
ブランド・イノベーションデザイン局
スダラボ
エグゼクティブ・クリエイティブディレクター
須田和博氏

黒澤:その出身から考えると、相当変わったところまで来たなぁ、という意識はありますか。

須田:出自から見るとずいぶん変わったところに来たなと思うんですけど、原理的にはあんまり変わってなくて。広告は、目的を叶えるためには、なにをやっても良いんだよ、とデザイナーのころ大貫さんに教えられて育ったので。だったら、今はテクノロジーでそれをやっても良いんじゃないかって。あと、デザイナーは新しい技術をどう使うかって常にやるじゃないですか。銀塩写真など写真技術を理解した上でどうデザインするのかとか。さかのぼれば、活版印刷やオフセット印刷とか、印刷の原理を知った上でこういう風にしたら面白くなるかなとか。

実は、デザイナーはすごくテクノロジーが好きなんです。作家のフェルメールも絵の具の研究をずっとやっていたそうです。絵の具も技術だから。テクノロジーを覚えてそれをどう表現に定着するかを、結構マニアックに追求してるデザイナーはいっぱいいます。だからあんまり違和感ないんですよ。それがオフセット印刷じゃなくてAI技術になった。銀塩写真じゃなくて顔認識エンジンになったって。自分のなかではそんな位置づけですね。

黒澤:目的はひとつだけれど、いろんな考えや技術を持った人材が種々雑然といると楽しいですね。

須田:すごく楽しい! 貴重な人材がいっぱいいます! で、とくに若い子面白いです! 

黒澤:それはやっぱり須田さんのところに匂いで集まってきちゃうんじゃないですか?

須田:いやー、集まってくれている子もいるし、僕があちこちに首を突っ込んでるのもありますね(笑)。

黒澤:そんないろんな能力を持った広告畑の人間が考えると、AIはもっと面白くなる可能性はありますね。

須田:絶対そうだと思います。やんないといけないと思うし、やんないと広告もやばいし、やんないと技術も普及しないと思うから。

黒澤:広告に携わる人たちが、AI技術の娯楽性や有用性を開発してゆくというシナリオもありそうだとお話を聞いていて思いました。

須田:テレビだって普及しなかったシナリオもあったわけじゃないですか。つまり、いまの価格で一台500万円とかして、大卒の年収の何倍にも匹敵するので、こんなの一家に一台置けるわけないよって、思われていたときもあったんですよね。それが、店の軒先にテレビを置くという荒業で大人気デバイスに押し上げて、それに伴い需要が増えたから値段が下がって、家庭にも入るようになって、それを広告媒体にして、CM文化ができた。

黒澤:テレビが時代をつくって、いろんな産業を押し上げて、娯楽を創造した。

須田:もう本当そうです。だからテレビが普及しなかった可能性もあったって思うと、今後普及するかもしれない「なにか」に早めに着手しとくのは大事だなって考えています。

黒澤:可能性を自由に考えることが、クリエイティブの価値ですものね。

須田:だから、AI技術も早めに着手して、なにがどうできるかわかんないけど、とりあえずやってみようって感じです。たぶん、その時代は絶対来るって信じているから早めにやっとおこうって、思うんです。

須田さん、わくわくするようなお話、ありがとうございました!

クリエイティブは、つねにテクノロジーとのシナジーでつくられてきた。その事実を、須田さんのお話を聞いてひさしぶりに思い出した。ビートルズは、エレキギターという楽器の電気化と相まって生まれ、アンディ・ウォーホールは、シルクスクリーンという印刷技術から生まれ、パーソナルでクリエイティブな表現は、アップルコンピュータから生まれ、時代のページを、劇的に大胆にめくった。そして、今、AIからどんな創造や表現が生まれてくるのだろう。すべてを革新するなにかが生まれ、時代を動かしてゆく。その可能性がAIのなかに秘められていることは疑いがない。

問題は、誰がその可能性を見つけ、今までにないクリエイティブ世界をつくってゆくかだ。それを、スダラボのチームが今、行おうとしている。アウトプットがクリエイティブであるかどうかも大事だが、その開発する精神そのものがクリエイティブなんだと、今回は気付かされた。広告が、「真に」面白くて心打つものになり、人を動かすものになる。今、AIテクノロジーが、広告の復権と飛躍のチャンスをクリエイターたちに与えていると思う。



*1…第1弾:NATURE BARCODE (RICE CODE) 、第2弾:TALKABLE VEGETABLES、第3弾:PANICOUPON、第4弾:DIG-LOG、第5弾:ChatEC、第6弾:Face Targeting AD
*2…大貫卓也。博報堂出身のクリエイティブディレクター。としまえんの広告などを手掛け「クリエイティブの博報堂」のポジションを確立。

【執筆者プロフィール】
黒澤晃(くろさわあきら)氏
横浜生まれ。東京大学卒業。1978年、広告会社・博報堂に入社。コピーライター、コピーディレクターを経て、クリエイティブディレクターになり、数々のブランディング広告を実施。日経広告賞など、受賞多数。2003年から、クリエイティブマネージメントを手がけ、博報堂クリエイターの採用・発掘・育成を行う。2013年退社。黒澤事務所を設立。東京コピーライターズクラブ(TCC)会員。

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