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【ケース3】従業員の投書から監督指導へ、企業としての対応策は?―元労基署監督官の社労士が解説―

小菅将樹 2018年4月11日(水)

広告会社やテレビ局が労働基準監督署から是正勧告を受けたことが、ニュースになりました。AD・HRニュースの読者である広告・マスコミ業界の経営者・人事担当の皆さまにとっても長時間労働の問題は関心が高いのではないでしょうか。今回、元労働基準監督官で、現在は社会保険労務士として活躍している小菅将樹氏に、労働基準監督署の実態や、企業としての対応策を解説していただきます。第3回は従業員の投書から監督指導に至ったケースについてです。(マスメディアン編集部)

現状を把握し、根本改善を

勤怠記録の改ざんを行っていたことが従業員からの投書で発覚し、行政指導を行った事例があります。この会社は、食品関係の大手物流会社の冷凍食品事業部に営業所を置き、構内作業を行っていました。私が3カ月ほど前に臨検監督を実施した会社で働く従業員から、ある日、以下の内容で相談がありました。
 

「小菅監督官が臨検監督にきた後、年末にかけて仕事が忙しく、特別条項で定めた限度時間を超える時間外労働を行いました。このため、法令違反になることを恐れた所長は、勤怠記録を改ざんしました。もし、必要があれば情報があったことは伝えてもいいので、正しい環境になるよう改善してほしいです」

前回、臨検監督を担当したのが私だったため、監督署の上司からの指示で私が再びその会社へ行くことになりました。会社へ着くと、前回と同様、受付の方に所属と名前、そして要件を伝えました。少しの待ち時間の後、同じ応接室に通され、所長が姿を見せました。つい3カ月ほど前に来たばかりなのに、なぜまたくるのか?というけげんな表情をされましたが、前回と同じ書類を見せてもらうことにしました。

勤怠記録を見ると、大多数の社員の12月の時間外労働がちょうど80時間でした。さらによく見ていくと、有給休暇を数日取得している人が何人かいて、他の月と比べて有給休暇取得実績が多くなっており、さらに時間外労働がちょうど80時間となっていました。繁忙期にもかかわらず、有給休暇取得実績が他の月よりも多くなっていることにも疑問を感じました。他の書類を見ても、本当に有給休暇を取得していたのか不自然なように感じられましたが、改ざんを指摘する決め手に欠けていたため、思い切って投書があったことを所長へ伝えました。すると、所長は時間外労働が特別条項で決めた時間を超えてしまうので、有給休暇を取得したことにしてちょうど80時間となるよう書き換えていたと申し訳なさそうな表情で説明しました。このため、是正勧告書と指導票を交付し、改善状況と企業対応策などについての改善状況を見守ることとしました。

法令遵守と現状とのギャップに悩み、繁忙期における物量の急増や人手不足などの課題を抱え、社内で問題解決に取り組むものの打開策を見いだせず、つい帳簿を取り繕ってしまったようでした。たとえ監督署へ相談しても、法令や健康などについての説明をされ、根本解決につながらないと思ってしまったのでしょうか。大切なのはトップが現状を受け止め、安全衛生委員会などの場で取り上げて改善策を見出し、真摯に取り組む姿勢です。監督署は虚偽を厳しく見ますので、現状把握、速やかな対応が求められます。

トップの意識が大切

次は、コンピューター関連で、海外に本社がある日本法人のケースです。ここで働いている従業員から長時間労働を改善してほしいとの投書があり、監督指導を実施しました。

監督指導は原則事前予告なしに行われます。私の突然の訪問に対応した担当者が驚きの表情を見せ、訪問の趣旨を詳しく聞かれました。趣旨を説明すると、その日は説明できる担当者がいないとのことで、後日再度訪問することとなりました。監督署へ戻ると、本当に監督署の人なのか?という連絡がきていたようで、上司に状況を報告しました。事業場側としては、監督署が突然来ることを知らなかった様子であり、怪しんでいるようでした。後日、再度会社へ行き、担当者から関係資料を見せてもらうと、月80時間を超える時間外労働を行っている社員が何人かいて、病気休暇を取得している人も見受けられました。時間外手当の支払いについて適正で、社内では社長自ら時間外労働短縮に向けた指導や健康管理などについて、メールによる発信がされているようで、その履歴を見せてもらいました。このため、3カ月程度会社の対策状況を報告してもらい、改善状況を見ることにしました。その後、思うようになかなか改善が進まないところも見受けられましたが、6カ月程度して改善が進んだことから、完結となりました。

会社主導で長時間労働削減に向けた取り組みがすでにされており、時間は要するものの改善が見られた事例です。ここで注目すべきは経営トップ自ら発するメッセージにより、社内で業務効率化や健康管理などの取り組みが行われていたことです。ただ、時間の経過とともに後戻りすることもあるため、目標を定期的に確認し共有しながら継続的な取り組みを行うことが大切です。

積極的な健康管理を

2018年2月に第13次労働災害防止計画が策定されました。これは厚生労働省が策定したもので、2018年度からの中期5カ年を対象に、労働災害の防止のために、国、事業者、労働者等の関係者が重点的に取り組む事項を定めたものです。この重点事項の中に「過労死等の防止等の労働者の健康確保対策の推進」があり、会社における健康確保措置、産業医・産業保健機能の強化、過重労働による健康障害防止対策、職場におけるメンタルヘルス対策などが掲げられています。労働時間適正把握ガイドラインに沿った適正な労働時間の把握を行うことを基本として、産業医や産業保健スタッフと連携し、従業員の健康管理を進めていくことがより求められていきます。

同計画には国民全体の安全・健康意識の高揚などについて盛り込まれており、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を活用した健康促進として、スポーツ庁と連携した運動実践を通じた労働者の健康増進の推進が揚げられています。このため、運動にも注目が集まっています。

従業員の健康管理を進めていく上で、監督署はあくまで職場環境改善のサポート役であります。方向性を示す立場の経営トップが従業員の協力を得て、自主的かつ継続的な取り組みの推進を行うことで、法令の域を超えた安心・安全な環境で働ける仕組みをつくり続けることが理想です。目的を達成するための過程に力を注ぐことがより重要になっていくのではないでしょうか。

【執筆者プロフィール】
小菅将樹(こすげまさき)氏
社会保険労務士、労働衛生コンサルタント、CSCS、PES
アヴァンテ社会保険労務士事務所、アヴァンテ労働衛生コンサルタント事務所 代表
明治大学法学部卒業後、労働事務官として労働省へ入省し、法改正事務などを経験する。2004年に労働基準監督官へ転官し、厚生労働本省、神奈川労働局、複数の労働基準監督署で勤務後、2014年に独立開業。安心・安全な会社づくりのためのプロセスにこだわり、会社の顧問業務や各種セミナー、安全衛生教育等を行う。トレーナー資格を保有し、健康管理(機能改善に基づく運動指導)にも力を注ぐ。