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【ケース2】裁量労働制を対象外の社員に適応すると?―元労基署監督官の社労士が解説―

小菅将樹 2018年3月22日(木)

広告会社やテレビ局が労働基準監督署から是正勧告を受けたことが、ニュースになりました。AD・HRニュースの読者である広告・マスコミ業界の経営者・人事担当の皆さまにとっても長時間労働の問題は関心が高いのではないでしょうか。今回、元労働基準監督官で、現在は社会保険労務士として活躍している小菅将樹氏に、労働基準監督署の実態や、企業としての対応策を解説していただきます。第2回は裁量労働制を対象外の社員に適応したケースについてです。(マスメディアン編集部)

裁量労働制を正しく導入・適用し、実態とのギャップをなくす

裁量労働制を対象外の社員に適用していたとして東京労働局の特別指導※1を受けた野村不動産について見ていきます。裁量労働制対象外の男性社員が2016年9月に自殺し、長時間労働が原因として2017年12月に労災認定されていたことが、報道などで明らかになりました。監督署の調査で認定された時間外労働は、最長で月180時間を超えていました。この特別指導は電通に続いて2例目で、労災申請がきっかけと思われる監督指導も実施されました。

裁量労働制は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ労使で定めた一定の時間に基づき賃金を支払う制度で、「専門業務型」と「企画業務型」があります。野村不動産では、「企画業務型」を適用していた社員のうち、多くが「企画業務型」の対象外である営業活動をしていました。このため、労働基準監督署が本社や複数の支社に是正勧告をし、東京労働局は社名や指導内容を公表しました。

労災認定された労働時間は、確実に働いていた労働時間ではなく、働いていたと見込まれる時間の場合があります。労基法違反として罰則の適用を受ける場合の労働時間の認定とはこの点で考え方が異なりますので、今後、労基法違反としての責任も問われるのか動向が注目されます。私が監督署の労災課で精神疾患による自殺事案を担当し調査していた時の話ですが、被害者の上司から何度も聴取を行い、最低この時間は時間外労働を行っていたと推定をしたことがあります。この件は、その他の出来事と合わせて労災認定を行いました。

裁量労働制は、対象業務に該当することの他に適正な方法による労働者過半数代表者の選出に基づく労使協定、労使委員会の決議などといった導入の要件があり、プロセスをしっかり踏み、取り決められます。また決定内容と実態が沿っていれば本来の効果を期待できる制度です。しかし、実際は労使協定の内容や労使委員会の決議内容と実態にギャップがあり、自己の裁量もなく長時間労働を強いられ、健康を害するケースが見受けられており、この点に留意が必要です。

過半数代表者の選任にあたっては、管理監督者でないことや、民主的な方法で選出するなどといった方法が定められており、労働者の意見を反映できる者をきちんと選出することが必要です。ここは形骸化しやすいところですが、労基署の目も厳しく、非常に重要なポイントです。また、裁量労働制が適用になっていても、使用者に労働時間などの勤務状況の把握や、健康・福祉確保措置が義務づけられていることも忘れてはいけません。

労働時間の適正な把握を

少し前に、電通の新人女性が自殺したことについて、業務の大幅な増加に伴う時間外労働の増加、パワハラなどの事実を踏まえて、三田労働基準監督署が労災認定しました。

今後は、新しく出された労働時間適正把握ガイドライン※2によって、労働時間適正把握における監督指導の強化、虚偽の記載における厳罰化などが考えられます。労働時間適正把握ガイドラインは、労働時間について使用者の義務を規定したものです。使用者は、労働時間を適正に把握するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録することを基本としています。原則として始業・終業時刻の確認・記録の方法は、使用者自らの現認か、タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基にすることと決まっています。

厚生労働省は、今般の働き方改革法案の修正について、会社にすべての労働者の労働時間の把握を義務付ける項目を労働安全衛生法に盛り込むことを明らかにしました。これは、長時間労働を行った労働者が同法に基づく医師の面接指導を受けられるよう目指したものです。労働時間の把握を会社に義務付ける規定を同法に盛り込み、労基法による労働時間の規制が一部適用されない管理監督者や、裁量労働制対象者への健康確保措置の実効性を高めることを目的としています。具体的な方法は今後省令で定めることとなっています。ただ、これに違反しても罰則の適用がないため、今までと実質的な変化はあまりないと言えます。厚生労働省としては、法律の中で労働時間の把握義務について示すことにより、労働者の健康確保という目的を明確にしたいという考えのようです。

では労働者の労働時間把握をしていく上で気をつけるポイントについて見ていきたいと思います。過労死の認定基準は、発症前1カ月におおむね100時間、発症前2カ月ないし6カ月にわたって1カ月あたりおおむね80時間を超える場合となっております。これは今回の労基法改正案の時間外労働の上限規制とつながります。このため、まず会社はこの基準に至らないよう同ガイドラインに沿った労働時間の管理を行うことが大切です。

時間管理だけでなく健康管理も

前述の通り、労働者の健康・福祉確保措置も義務づけられています。このため使用者は健康確保についても留意しなければなりません。最近は健康に関して色々な情報が発信され、適正なBMIや体脂肪率を維持、生活習慣病の予防などの情報を見聞きすることも多いです。本コラムでは「健康管理と運動」について言及していきたいと思います。運動をする前に、まずは客観的に自分の状態を見ることからスタートします。客観的に見るためには、信頼できる基準に沿って運動中の姿勢や動作を評価し、修正点を見つけ、それぞれに合った運動プログラムを用意することが大切になります。この「トレーニングを行う前に、動作パターンのスクリーニングを行うこと」が重要です。スクリーニングは難解なものではなく、自宅でもできます。世界的に使われているものとして、FMS※4、SFMA※5などのシステムがあります。このようなシステムを利用し、正しい姿勢や動作を身に付けることにより、肩こりや腰痛への効果、デスクワークでは仕事の効率向上につながります。また肉体労働者はケガのリスクが減り、事故も減るなどの効果も見られます。労働安全衛生管理の基準となるのは法令です。この基準に沿って、その会社に合ったプランを立て、実行し、振り返りをして効果を確認し、必要に応じて修正、実行することの繰り返し、ここにこだわることが大きな変化を生むといえます。

また最近のニュースとして、ISO45001(労働安全衛生マネジメントシステム)が2018年3月12日に発行されました。これは、労働安全衛生の世界標準で、「事業者が労働者の協力の下に一連の過程を定めて、継続的に行う自主的な安全衛生活動を促進し、事業場の安全衛生水準の向上に資すること」を目的としており、PDCAサイクルを回して労働安全衛生水準のレベルを段階的に上げていくというシステムです。安全・安心な職場をつくっていくためには、法令遵守だけでなく、経営者が労働者協力の下、客観的な基準に沿った自主的かつ継続的な活動の積み重ねが不可欠です。


※1…厚生労働省が取りまとめた「「過労死等ゼロ」緊急対策」として複数の事業場を有する大企業を対象に、是正指導を受けている段階で、複数の事業場で違法な長時間労働や、過労死などが認められたといった一定の場合に企業トップに対し都道府県労働局長が指導を行う制度がある。今回の特別指導はこの公表基準とは別だが、順法状況への影響から独自の判断で公表に至った。

※2…正式名称は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」

※3…正式名称はFunctional Movement Screen

※4…正式名称はSelective Functional Movement Assessment

【執筆者プロフィール】
小菅将樹(こすげまさき)氏
社会保険労務士、労働衛生コンサルタント、CSCS、PES
アヴァンテ社会保険労務士事務所、アヴァンテ労働衛生コンサルタント事務所 代表
明治大学法学部卒業後、労働事務官として労働省へ入省し、法改正事務などを経験する。2004年に労働基準監督官へ転官し、厚生労働本省、神奈川労働局、複数の労働基準監督署で勤務後、2014年に独立開業。安心・安全な会社づくりのためのプロセスにこだわり、会社の顧問業務や各種セミナー、安全衛生教育等を行う。トレーナー資格を保有し、健康管理(機能改善に基づく運動指導)にも力を注ぐ。