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クリエイティブの超・変化がやってきた(2)―さぁ、AIで、ズレを楽しもう。

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黒澤晃 2017年10月18日(水)

広告会社・博報堂にてコピーライター、クリエイティブディレクターを経て、クリエイティブマネージメントを手がけ、クリエイターの採用・発掘・育成を行ってきた黒澤晃さん。数々の素質を見抜いてきた黒澤さんがクリエイティブ領域のAI化の研究を進める第一人者に話を聞き、「クリエイティブの未来にAIがどのように関与するか」を探っていくコラムです。第2回はメディアアーティスト兼DJとしてAI DJプロジェクトを進める徳井直生氏に「AIと人の共生による創造性の拡張の可能性」ついてお聞きしました。(マスメディアン編集部)

AIのエキスパートが、DJをやっている。しかも、AIのDJと共演してる。かっこよくて、興味津々。工学博士が皿を回すって、ひょっとして最先端! というわけで、徳井さんにお話を伺うために、恵比寿のオフィスに。名誉のために(?)言っておくと、徳井さんは、DJだけをやっているわけではなくて、代表を務めるQosmoとして、カンヌライオンズでグランプリに輝いた「Sound of Honda/Ayrton Senna 1989」や、ブライアン・イーノのミュージックビデオ「The Ship - A Generative Film」などのプロジェクトに関わっている。

連載テーマ、AIでヒトのクリエイティビティはどう変わるのか。マインド的に、また作品的に。そして、その変化は創造的未来をもたらすものなのか。映像表現や音楽表現にAIを駆使するフロントクリエイターへのインタビューはまさに、その核心に迫れそうです。部屋に入ると発見! DJ用のターンテーブル。やっぱり、そこはかとなく音楽の匂いがする。いい感じ。



―まずは、人工知能を専攻しようと思ったきっかけをお聞きしたいと思います。
徳井:はい。僕が大学生のころ、実は、AIは「冬の時代」と言われていました。80年代後半に、ニューラルネットワーク*1が使えるんじゃないかと盛り上がり、郵便番号の識別とかに使われていましたが、それ以上には発展せず、期待値がガクッとさがっていました。

―それでも専攻しようと思ったのですね。
徳井:きっかけは明確にひとつあります。ICC*2っていうメディアアートの美術館があって、僕が進路を決めなきゃいけないときにちょうど見に行って、そこに人工生命の作品がありました。カール・シムズ*3という方の作品で、数式で構成された仮想生命体というのができていて、スクリーンがいくつかあり、鑑賞者が自分の気に入ったものを選ぶような仕組みになっているんです。10個あったら、その中の2つを選ぶ。するとその2つをかけ合わせた次の世代の生命が、つくられてゆきます。ランダムな数式からスタートするので、最初の方は面白い形のものはできないんですけど、世代交代を繰り返していくと、だんだん複雑で美しいものができてゆく。それがすごく面白かった。そのシステムをつくったアーティスト自身も、なぜ、この生命が生まれてきたのか想像つかないっていうのも面白かった。自分がルールは決めるんだけど、結果として出てくるものが、自分のコントロールを越えて、想像できない。そこにすごくロマンを感じた。Uncontrollableで、自分の想像力の外側に、コンピューターの仕組みを使うということに興味が生まれ、人工生命と人工知能を並列に扱う研究室に入り、最終的にその両方を専攻することになりました。

―もとから、クリエイティブマインドがどこかにあったんですね。
徳井:そうですね。学生の頃からDJやってて、作曲したり、音楽には触れてました。

―それで、メディアアートの美術館にふらっと行ってしまった(笑)。
徳井:僕は、文学少年だったんです。文理の選択は迷いました。同世代の同じ職業の人と話すと、最初にコンピューター買って何やったかというと、BASIC*4のプログラミングやってたという人が多いんです。でも、僕は劇の台本書くことにコンピューターを使ってました(笑)。たぶん自分で音楽とか書いてたので、自分の想像力の限界をどう越えていくか、みたいなところに、興味があったんだと思います。

―学生以来、ニューラルネットワークを手がけられていますが、難しいところはどういうところなのでしょうか。
徳井:普通のプログラミングは間違えるとすぐバグがでてくるので、わかるんです。しかし、ニューラルネットワークって間違えてても何かおかしいという結果に気づくのに時間がかかります。学習させるのは、長いと二週間くらいかかるんですけど、二週間やってみてなんかおかしいっていうのが後でわかったりするので、タイムラグが発生します。あと、一字一句書いてあるものが動く従来のプログラミングと違って、自分でもわからないものが生まれてくる。なんかうまく動いてるけど、なんでうまく動いてるんだろうって思うことがよくあります(笑)。

―本当に人間の脳のようですね。しばらくしないと結果が出なかったり、思いもよらない答えを思いついたり。
徳井:ガーデニングみたいだなと思っていて、例えばひまわりを育てたい時って、種を買ってきて、水やったり、日に当てたりして育てていく。お膳立てはしてあげるけど、苗が出てきて育っていくのは、ひまわり自身の力じゃないですか。だから、想像していたよりも小さいかもしれないし、大きくて背が高いものになるかもしれないし、そこは環境による。順調に育ってくれればいいですけどね。そううまくはいかないこともあるし。クライアントワークで、「すいません、ちょっとやってみないと~…。」って言うことになったり(笑)。

―Uncontrollableな部分も愛情を持って見てあげないといけないということですね(笑)。一方で、将棋や囲碁の世界のAIは、人類を凌駕する精確無比な答えを出しています。
徳井:クリエイティブワークの世界と違って、将棋、囲碁のいいところは、AI同士で戦えるってことですね。あっという間に、膨大なデータを学習できる。将棋、囲碁は、法則性で、ランダム性、偶然性が入る余地がないので、人工知能はやりやすい、取り組みやすい分野です。アートや音楽などのクリエイティブ分野って、いくら人工知能同士でやりやっても意味がない。面白がったり、心動かされるのって、人間なんですよね。結局。だから、絶対人間がループに入らないことには、意味があるアウトプットにはならない。そこには、人それぞれの感性も、個性の違いも、時代性も入ってくる。対して将棋や囲碁はずっと変わらない。

―答えを求めたいとき、そこはどうしたらいいでしょうか。
徳井:難しいですよね。でもそれがやっぱり面白いし、人とAIでなにかつくるっていうことで、想像を超えるものができるかもしれない。

―現代社会のコンピューティングは、作業の効率化と最適化のベクトル上で使われていると思います。どちらかというと、あいまいなものをあいまいでなくするツールというイメージがあります。そこらへんはどうお考えですか。
徳井: AIは、間違いなくその最適化みたいなことにも使われるんだろうなと思います。そういう意味では、人間の感性をある程度定量化できるようになってきているのが面白いかなと。まだ精確ではないのですが、人がつくったものが、どれくらいもっともらしいかとか、広告として見る人がどれくらい爽やかに感じるかとか、今までコンピューターが扱えなかった人間の感覚的なところをある程度扱えるようになってきています。「それっぽい」というイメージが定義できるというのは、逆にいうと、そこから半歩とか一歩ずらしたものをつくることも可能になるなって、僕はそっちの方に興味があるんですけど。でも、「それっぽい」を最適化するビジネスは確実に発展してゆくと思います。

―具体的な例があるとわかりやすいのですが…
徳井:例えば、この研究が面白いなと思っています。YouTubeにあるMVをひたすら解析して、こういう絵が来たらどういう音楽がピッタリ合うのかっていう、「ベタ感」みたいなものを表現しているんです。これが一番この曲に合う映像、これが二番目に合う映像、で一番合わない映像っていうのが出てきて、ランキングになるんですね。

―なるほど。最適化エンターテインメントですね。ランキングになっているから、ちょっとズレているのも見られて、なるほど、楽しいですね。
徳井:そのズレが定量化できることが僕は面白いと思います。いままで、ズレてるかどうかって、人間の感覚としてのみあったのですが、半歩ズレてるとか、3歩くらいズレてるとかデータとして出てくる、数字として出てくる。合ってる合ってないが、ランキングとして出てくる。人の感性の定量化はどんどん進んでゆくでしょう。

―そろそろ、DJのお仕事についてお聞きします(笑)。
徳井:DJは、流れをキチンと読まなきゃいけないので、前にかけた曲に対して、雰囲気を保ちつつ、徐々に転換していくっていうのが必要です。たとえば、さっきはメロディアスな曲だったから、そのメロディはなんとなくキープしつつ、リズムが少しシンプルなやつに変える。前とまったく同じでも飽きてくるので、予測できるところと、意外性のバランスをどう保つかっていうのが結構難しいと思っています。そういう意味で今、僕とAIで一曲ずつかけるっていうスタイルでやっています。

―人間が一曲かけてAIが一曲かけてという交代で?
徳井:そうです。レコードで今あえてやっていて、僕が一曲かけて、それに対して解析して次の曲を選んでくれるっていう。まぁ、レコードを乗っけるところは人が乗っけなきゃいけないんですけど(笑)。乗っけたら、AIは自分がかけている曲を解析して、テンポ、ボリュームを調整していく。これはコンピューターの中で制御しながら、DJミキサーとターンテーブル(レコードプレイヤー)に指示を飛ばすという力技です。実は、コンピューターの中で全部できちゃうんですけど、それだと面白くないので。あえて物理的な操作を挟んでいます。

Digital Choc 2017にて実施されたライヴパフォーマンス "AI DJ" photo: Rakutaro Ogiwara
次回は12月15日に、山口情報芸術センターにて行われるsound tectonics(サウンド・テクトニクス)に出演。
新進気鋭のDJであるtofubeatsやLicaxxxと共演する予定。

―レコードを選び、かけることをAIが実際にするんですね。
徳井:そうです。やっぱりPCの中だけじゃなくって、実際にいるっていう見た目があるといいですよね。特にDJってそういう職業なんです。セレブDJとかって、やってることは、人によってはすでにミックスされた音楽をかけてすこしEQ(DJミキサーの音質を調節する部分)をいじっているくらい。でも、そこに超セレブな芸能人がいて、なんかやってるからこそお客さんが感情を投影できる。いくら完璧なMIXでも、無人のDJブースだと人は足を止めない。BGMになっちゃうから。そこに感情を投影できるものが必要だなと思ってやっています。だから実は、リズムに合わせて首を振る動作の簡易的なロボットをDJブースに立たせています。

―そういう意味では、偶像が必要なのかもしれませんね。初音ミク的な。
徳井:イメージの集約先みたいなのかもしれないですね。初音ミクは初音ミクが可愛いんです。それはすごい力ですよね。

一方で、偶像が必要ない音楽もあるじゃないですか。エレベータの中で流れている曲とか、寝る前に聴くリラックスできる曲とか、そういうところに、AIがつくった曲っていうのは自然に入っていくんじゃないかなと思います。

―このAI DJにはどんなデータを入れているのでしょうか?
徳井:入力したのは、僕がかけている曲の音のデータだけですディープラーニングのモデルで、音が入ってきたときに、その曲の特徴を自動で抽出できるようにしています。具体的にいうと、ジャンルを推定するモデルを使っています。ジャンルが推定できるというのは、人が聞いたときにどのような印象を受けるかを推定できるということなので、単純に音が大きいとか、テンポが速いとかそういうことではありません。ただし、選曲に使うのは特徴を抽出するところまでで、ジャンルの断定という、最後のフローは取り外しています。

―最後の断定部分を取るのは、なぜですか。
徳井:断定しちゃうと、学習に使っている音楽のジャンルが10個しかないとすると、どの曲を入れてもその10個のどれかに分類されちゃう。途中で、1000とかの数字で、その曲の特徴を表しても、それを基に、最終的に10個のジャンルにしぼり込んでしまうと表現が広がらず、面白くないと考えました。同じテクノでもいろんなテクノがあるので。

株式会社Qosmo 代表取締役 / メディアアーティスト / DJ
東京大学 工学系研究科 電子工学専攻 博士課程修了。
工学博士。ソニーコンピュータサイエンス研究所
パリ客員研究員などを経て、2009年にQosmoを設立。
AIと人の共生による創造性の拡張の可能性を模索している。

―わざとゆるくしている? そのほうがクリエイティブだということでしょうか?
徳井:これとこれは、グラスとマグカップだってことですが、これらを「食器」ってまとめちゃうと全部食器になっちゃうので、その前で止めるんです。ズレを楽しむという意味では、そっちのほうがいいと感じています。

―CMみたいな広告映像って精密につくるっていうか、ほぼ計算どうりにつくっていく。でも、演劇はもとから、ズレを楽しむじゃないですか。その日によって調子が違ったり、ハプニングもそのまま表現されたり。やってらっしゃることが演劇的なのかなと思いました。
徳井:そうかもしれないですねぇ。もしかしたら若い頃に劇の台本書いてたのがつながって、予定調和を嫌うみたいな感じ方があるかもしれません。飽きっぽいんだと思います。つくった時点でゴールが見えてたら、つまんない、退屈しちゃうんですね。最後になにが起きるかわかんないドキドキみたいなのが好きなんです。

―それって、まさしく「クリエイター」そのものですよね。
徳井:資質としてはそうなのかもしれません。音楽のパフォーマンスとかでも、完璧だったパフォーマンスより、ちょっとミスがあったりとか、ミスが起きるかもしれないギリギリのところでリカバリーしているみたいなパフォーマンスの方が好きです。

―Create with AIの考え方にも近いですね。byじゃなくてwithって、徳井さんはおっしゃってます。
徳井:そうですね。人間と一緒になって表現をしてゆくツールという位置づけです。

「人工知能と表現の今」を伝えるWebポータルサイト “Create with AI”。徳井が中心になってまとめている。

―今後の活動としてどうしていくかをお聞かせください。
徳井:やっぱりズレの可視化、定量化に興味があります。AI以前では、定量化できなかった、人間が持っている感覚だったり、感情だったりをうまく定量化して、意図的にどうずらしていくか、どう楽しむかっていうのをいろんなプロジェクトを通してやっていきたいです。現在も、その研究をどんどん進めています。DJプロジェクトだけじゃなくて、クライアントワークにもつながっていけばいいなと考えています。

―海外ふくめて、ライブをおやりになりますよね。AIDJの音楽センスはどうですか?
徳井:選曲はいいんですけど、MIXが下手ですね。僕がお客さんにバレるかな、どうかな? と感じて、とっさに僕のほうでいじったりして。普通にひとりでDJやるより3倍くらい疲れます。まだまだ、です。

ただ、この前、フランスでやったとき、風邪ひいて39度超えの熱でステージに立った時です。最初の方は緊張感があってまだ良かったんですけど、1時間くらいやって、朦朧としてきて、自分で何をMIXしてるかわからなくなり、「あーミスった!」「お客さんが踊ってたのが止まっちゃった!」って思ったら、AIが完璧なMIXで、完璧な選曲で盛り上げてくれたんです。そのときは気持ちよかったです。歓声が上がって。お客さんもAIがかけたって認識した上で、ワーッと盛り上がったので。

―それは「感情を理解した」んじゃないですか?
徳井:だと思います。僕とお客さんの両方を(笑)。


今までのコンピューターの進化を考えると、最適化、効率化の極限としてのAI未来像を私たちはイメージしがちだ。しかし、徳井さんは、ズレを楽しみたいと言う。想像を超えること、予期せぬこと、いわば不適解な事件をAIとともにつくり出す。アートや音楽やインスタレーションの領域では、きっとAIはそういうツールにもなりうる、その素敵な可能性を感じた。

AIのプログラム、アルゴリズムをつくった本人が、そのAIとDJコラボをやるって、ホントにクリエイティブだなぁ。もっと人間と音楽の結びつきがAIによって深くなるかもしれません、と帰り際に徳井さんが言っていたのも印象的でした。

では、また次回。

【執筆者プロフィール】
黒澤晃(くろさわあきら)氏
横浜生まれ。東京大学卒業。1978年、広告会社・博報堂に入社。コピーライター、コピーディレクターを経て、クリエイティブディレクターになり、数々のブランディング広告を実施。日経広告賞など、受賞多数。2003年から、クリエイティブマネージメントを手がけ、博報堂クリエイターの採用・発掘・育成を行う。2013年退社。黒澤事務所を設立。東京コピーライターズクラブ(TCC)会員。


*1…人間の脳内にある神経細胞(ニューロン)とそのつながりを計算機上のシミュレーションによって表現することを目指した数学的なモデル
*2…初台にあるNTT東日本が運営する文化施設。
*3…米国のメディアアーティスト兼CGプログラマー。1997年ICCにて《ガラパゴス》を発表。
*4…初心者向けのコンピューター言語。1970年代以降のコンピューターで広く使われた。

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