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クリエイティブの超・変化がやってきた(1)-自由なクリエイティブへ導く、AI。

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黒澤晃 2017年10月4日(水)

広告会社・博報堂にてコピーライター、クリエイティブディレクターを経て、クリエイティブマネージメントを手がけ、クリエイターの採用・発掘・育成を行ってきた黒澤晃さん。数々の素質を見抜いてきた黒澤さんがクリエイティブ領域のAI化の研究を進める第一人者に話を聞き、「クリエイティブの未来にAIがどのように関与するか」を探っていくコラムをスタートします。第1回は「業界初の人工知能クリエイティブディレクターAI-CD β」について。現場報告です。

いよいよ、AI-CD βに会えると、私は、かなりテンションがあがっている。業界初の人工知能によるクリエイティブディレクションで最近、話題を呼んでいるAI-CD β。「おそらく、マッキャン・ワールドグループ始まって以来の取材数です」と広報の大木さん。そんな人気者の成り立ちから、苦労話から、どんな運用をして、どんな広告づくりをしているのか、聞きたい! というわけで、開発メンバーの皆さまに話を伺いました。
 
そう、この連載のテーマは、AIでヒトのクリエイティビティはどう変わるのか。マインド的に、また作品的に。そして、その変化は創造的未来をもたらすものなのか。その問いを、胸に秘めながら、さ、始まりです。

人工知能クリエイティブディレクターAI-CD β

東京都心を見渡せる会議室。そこに、用意されていたのは、R2-D2(編集部注:SF映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場するキャラクター)の遠い親戚のようなフォルムの物体。思わず、おっ! と声が出る取材スタッフ。これが噂のAI-CD βか! ひとこと、かわいい! さっそく開発の旗振り役を担っているクリエイティブプランナーの吉富亮介氏と、アートディレクター岩崎菜都美氏、プランナー中沢渉氏に話を聞きました。

左から、
マッキャンミレニアルズ クリエイティブプランナー 吉富亮介氏
マッキャンミレニアルズ アートディレクター 岩崎菜都美氏
マッキャンミレニアルズ プランナー中沢渉氏

※マッキャンミレニアルズとは、日本におけるマッキャン・ワールドグループ傘下の各社のミレニアル世代(1980-2000年前半生まれ)のメンバーで構成され発足した、オープンイノベーションプロジェクト

――AIにCMのクリエイティブディレクションをさせようというプロジェクトはどういうきっかけで、スタートしたのですか?
吉富:2015年に、本日同席できてないのですが、我々のメンバーのひとりがSXSW(編集部注:サウス・バイ・サウスウエスト。米テキサス州オースティンで行なわれる、音楽・映画・インタラクティブがテーマの大規模なフェスティバル)に行きました。その時に基調講演含め人工知能の話題が多く、その中で見たNetflix(ネットフリックス)の事例から、僕らの広告制作にもAIを使えるのでは? という話になり、スタートしました。

Netflixは自分たちの配信作品に独自のタグ付けを行っており、それらとユーザーの視聴行動を組み合わせたデータベースを構築していました。そのデータベースから「ケビン・スペイシー主演、デビッド・フィンチャー監督の政界もののドラマをつくればヒットするぞ!」という内容を導き出し製作されたのが「ハウス・オブ・カード」です。そして、大ヒットしたんです。

このNetflixの手法を参考にすることで広告制作に使えるかも、やってみよう! と課外活動的にスタートしました。2016年にAI-CD βはいろんな方のお力添えを経て、完成しました。そしてAI-CD βをうちの社員として2016年4月に入社させました。新入社員で、いきなりクリエイティブディレクター(CD)です(笑)。

――CM作品をデータとして入れてあるとお聞きしました。
吉富:ACCの過去10年間分の受賞作と、そのほか数百本分の追加データを足すことで、全部で1300~1400本ぐらいのCMデータが入っています。とても、メンバーだけではできないので、AOI Pro.さんに協力をしていただきました。みなさんのチャレンジマインドを集めて、できあがったんです。

――いきなりですが、いちばん苦労されたことは何でしたか?いろいろあったと推測しますが。
吉富:CMの構造分解からのタグ付けが、気が遠くなる作業でした(笑)。彼の中に入れているデータには、一本のCMに対して、カテゴリで言うと20数個のタグを付けています。例えばUXとか、コミュニケーションコンセプトとか、モチーフとか、トーン&マナーとか、のタグです。

岩崎:AOI Pro.さんの人工知能に詳しい方にアドバイスいただきながらでしたけど、抽象度を高くしないといけなくって。そこが苦労したとこですね。ピンポイント過ぎるタグだと流用ができないので、一個一個のタグの抽象度をキープしながら、でも、分類がわかるようにする、そのさじ加減が難しかったです。

吉富:実は3,4回、最初からタグをつくり直してます。2015年7月くらいから具体的に動き出しましたが、半年間はつくっては壊しの繰り返し。やっとこれなら出せるというものが完成しました。

――似たような意味のタグでもいけないし、離れ過ぎていてもいけないし。しかも、制作者が関与しないと使えないものになってしまいそうですね。 
吉富:そうなんです、制作者がベースから参加しないとダメだと思っていました。しかし、難易度は高かったです。僕らの中で作っている時に、有識者の人と話す機会があったんですけど、タグづけの作業では宇宙みたいな考え方をしていかなきゃならないみたいな話になりました。XYZ軸の中に言葉がいろんな位置に置かれている。この単語がこの位置にあって、表面上は近くにいるんだけど、立体的に見るとすごく遠いみたいな。その扱いをどうするんだ、みたいな議論で、全員、何がなんだかわからなくなりました(笑)。
 
――そして、クロレッツ ミントタブのCMですね。AIのクリエイティブディレクションによる作品が、ついに世の中にデビューしました。
吉富:クライアントの理解があってできたと思います。やはり優れたCMの膨大なデータから導きだれたクリエイティブディレクション、というエビデンス的にはかなりの説得力だったと思います。
 
――どういうプロセスで、完成させていったのですか?人間のCDはいたんですか?
吉富:人間のCDはいないんです。AI-CD βがCDなので。まずクライアントのブリーフを入力し、導き出されたディレクションがこれです。5つの要素からできています。このディレクションから外れないように気をつけながら僕らと監督、プロデューサーという面々でCMをつくっていきました。

制作の現場では、方向性を決めるだけですごく時間がかかって、その先の時間があまりとれないなんてことがよくありますよね。今回の場合は、最初にその方向性が出されていたのでそういうことはなかったです。

「クロレッツ ミントタブ」のリニューアル告知CMの企画制作にあたり、
「AI-CD β」が導き出したクリエイティブディレクション。

――時間を有意義に使えるということですね。それで、空飛ぶ犬の「都会篇」ができたんですね。実は、このCMすごく好きで、忘れられないインパクトだな、って思いました。正直、そうとう変な企画ですよね。僕がCDだったら、この企画は選びません。きみ、相当、ズレてるね、とまで言うかもしれない(笑)。
吉富:僕らがこの企画を出しても受け入れられないけど、AI-CD βが出した案だから受け入れられる、という面があると思います。ACCの過去の受賞作を元に出されたディレクション、という要素があることで、クライアントにそのユニークさを理解してもらえる可能性もある。

――そういう意味では表現の幅を広げたってことになりますね
吉富:そうですね。僕らの中ではそれを「クリエイティブの拡張」だと思っています。可能性が広がっていきます。
 
中沢:今回もそうでしたが、AIだけに頼っているのは違うと思っていて、別の可能性を出してくれる“パートナー”としてAIが一緒にいることで、今までとは違った発想ができるのかなと思います。

――なるほど、パートナーですね。現場感覚として、すごく欲しいなぁと思います。そして、もうひとつ対比として、人間がディレクションしたCMを制作されましたね。
吉富:そうですね。AIの考えたCMをつくるといっても、その効果がどうだったかはわかりづらいということもあり、人間と対決させる構図をつくり、どちらも見てもらうことで、どちらがより企業や商品の言いたいことが伝わったか。AIがつくったものは機能するのかしないのか。というのを実証するためのフレームをつくりました。
 
――僕は、その対決フレームをつくったことが、まさにクリエイティブだなと感じました。
吉富:ちょうどローンチ前くらいにAlphaGo(編集部注:Google DeepMindによって開発されたコンピュータ囲碁プログラム。2015年10月に、人間のプロ囲碁棋士を初めて破った)が人間に勝ったニュースが流れて、人間VS人工知能が話題になっている時期でした。今度はクリエイティブの分野で対決だ! となると注目されやすいのでは、という狙いがありました。

――そして、結果としては、人間の勝利に終わりました。
吉富:人間ディレクションの青空篇が54%。AIディレクションの都会篇が46%でした。かなり拮抗していました。女性の支持は都会篇のほうが多かったかな。

――ところで、この子は、プレゼンの時に持っていったんですか?
岩崎:持っていきました。データってパソコンに入ってるだけで取り出せちゃうものなんですけど、人の肉体や脳をイメージして、ここからクリエイティブディレクションが出ているんだ、と想起してもらえるようなデザインにしたんです。脳のシナプスをイメージしたCG映像が出るんですよ。シナプスもよく見るとタグとして入っている言葉がライン化されていて、むにゃーって出てくるみたいな動きをします。考える脳があり、アウトプットする手がある。クリエイティブディレクションの文字はこのAI-CD βが本当に書いています。あとすごく重要な機能として「名刺交換」ができます。日本人は名刺交換が大事なんで(笑)。

――そのキャラクターとしてのデザイン化が、また、とても素敵なクリエイティビティだなぁ、と思いました。いやー、見た目、すごい説得力ですね。未来からディレクションしている感じ。しかも、かわいい(笑)。
岩崎:初めてAIをデザインしました。

――今、AI-CD βはどんなお仕事を手がけているのでしょうか。
吉富:今はアイドルのMV(ミュージックビデオ)のクリエイティブディレクションをAI-CD βに出してもらって制作している最中です。今回は人間VS人工知能という構図ではなく、ディレクションにもとづいたMVを先行して制作し、そのMVに合わせた楽曲をつくるという発想です。曲があってMVをつくるのではなく、その逆をやります。そのために、音楽系のCMや関連のタグをアップデートしました。

――AIとクリエイティブの関係について、10年後、どうお考えですか?
中沢:例えば、何か企画する時に事例や資料を見るじゃないですか。それらを集める作業はAIがやる。優秀なものをデータとして大量に持ち、その組み合わせで良いものを出してくれる。そうすると人間の戦力はより効率的になります。アイデアの幅も広がります。いいパートナーであり、ぼくたちをサポートしてくれるものだと考えています。どんなに進化しても、その関係は大きく変わらないでしょう。目標設定やデータのチョイスは人間がやるわけですから。その広がった領域で、僕達はどんな新しいことができるかというのは、楽しみなことかなと思います。

――今ある職業がなくなるとネガティブにも言われています。
吉富:わたしもSXSWに去年行ったんですが、そのとき聞いた話がわかりやすくて、昔アメリカは90%が農業従事者だったのに対して、今は農業従事者は2%なんだそうです。でもその88%の人はいなくなったわけではなくて、違う職業に就いてる。今はSNSのコンサルタントなんていう、10年前じゃ考えられない仕事もいっぱい出てきています。だからAIの普及に伴って、もっと全然違う職業がいっぱい出てくるかもしれないという話を聞いた時、奪われるんじゃなくて新しい職業を創造していくっていう考え方があるんだなと思いました。

――なるほど。そのほうが前向きな考え方ですね。今後、AI-CD βは企画を自らつくったりするように進化させてゆきますか。
吉富:いえ、あくまでパートナーですかね。将来、どういうふうに彼と付き合っていくかよりは、今どうやって付き合っていこうかを考えています。
 
中沢:いつかACC賞とか受賞して、「実はこれはAIがクリエイティブディレクションしたものですよ」といった未来になっているかもしれませんね。もうすっかり溶け込んじゃってる感じで(笑)。
 
――受賞作品、引っさげて転職しちゃうんじゃないですか?
吉富:どうしましょう…困るな。
岩崎:ニュースになりますね(笑)。


私が感じたことはふたつ。自分が映像制作の現場にいたら、AI-CD βのようなパートナーが確実に欲しいと思ったこと。もうひとつは、AI-CD βをネタにして、“人工知能VS人間”プロモーションをやったり、そのキャラクターをデザインしたり、それが「創造的で楽しいこと」だと思ったこと。クリエイティブの未来は明るいかもしれないなぁ。その可能性は大きいのかなぁ。ただし、人工知能をネタにするくらいの「遊び心」と、一緒に仲良く仕事するくらいの「オープンマインド」がないと、はばたけないのかなとも感じました。開発メンバーのクリエイターのみなさま、貴重なお話ありがとうございました。

【執筆者プロフィール】
黒澤晃(くろさわあきら)氏
横浜生まれ。東京大学卒業。1978年、広告会社・博報堂に入社。コピーライター、コピーディレクターを経て、クリエイティブディレクターになり、数々のブランディング広告を実施。日経広告賞など、受賞多数。2003年から、クリエイティブマネージメントを手がけ、博報堂クリエイターの採用・発掘・育成を行う。2013年退社。黒澤事務所を設立。東京コピーライターズクラブ(TCC)会員。

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